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38話 三つ目と少しの変化と

 あれから、しばらくアカムは火山エリアを歩いていた。


 火山、とはいえ別に溶岩がいたるところで露出しているわけでもなく、山自体も山、というよりは丘陵のようなもので、そこまで起伏が激しいわけでもない。

 それでも火山エリアであると分かるのは、周囲にあるいくつもの山の頂上から黒煙が延々と噴き出して空を真っ黒に染めているからだ。


 本来の火山であればそれだけ黒煙が出ているのならば火山灰でとても呼吸できない状態であるが、不思議と火山灰が振ることは無いために息が苦しいということも無い。

 その為、さほど疲労するでもなく、歩き続けることができたのだが、一方で困ったことがあった。


 空が黒煙で覆われているために太陽が見えないのである。

 迷宮、特に屋外エリアだと次の階層の石版があるのは太陽が位置する方向にあるのが定説で、事実これまでは太陽へと向かって歩けば辿りつくことができた。

 だが、現状太陽を確認できないため、アカムはどの方向へ進めばいいのか分からぬまま歩いている。


 行く先が分からないまま歩くというのは、肉体的にはともかく精神的な疲労を齎すもので、それはアカムであっても変わらない。

 そのはずだったが、精神的にもアカムはさほど疲れてはいなかった。


 それはやはりアイシスの存在が大きい。

 精霊となったアイシスは以前よりも、よりはっきりとした意思を持っていてアカムと積極的に会話するようになった。

 行き先が分からなくとも会話があるだけで、道中は精神的に楽なものになる。

 それをアカムは今、強く実感していた。


 そして、何よりもそのアイシスが隠し切れないほどに興奮しているのがまるわかりでそんな珍しい姿を見てアカムは少し楽しく感じていた。


「これが熱いということ……これが風を感じるということ……元はただのシステムだった私がこうして感じられるとは……」

「何回確認して、何回同じ感想言えば気が済むんだ?」

「っ! んん! いえ、これは……そう、今まで感じることのなかった事柄を解析するために必要なことです。一回だけ確認できた事象に確実性はありません。何度も確認することでより正しい知識を得ることができるのですから」

「ああ、そうかい」


 今も感無量と言った様子で動き回り、感じることを呟くアイシスに、アカムが突っ込みを入れるが、彼女はその言葉に照れたようにしながらも、表情を隠そうとしながら言葉を返す。

 その弁明も三回目なのだが、アカムは苦笑するだけでそのことには触れず、肩を竦めるだけだった。


 精霊となり、それを自覚してからアイシスは表情豊かになった。

 それは様々なことを感じて、様々なことに興味を示し、様々な反応をする子供のようでもあった。


 そんなアイシスの珍しい姿のおかげで道中飽きることは無く、ある意味では楽しい迷宮行である。

 とはいえ、元は機械因子オートファクターの補助のための存在だったアイシスだ。

 敵が索敵範囲内に入れば即座に雰囲気を切り替えて、アカムに知らせ、情報を解析したり、助言をしたりして補助をしてくれている。


 おかげで、戦闘時はしっかり気を引き締めて、戦闘が終わり、しばらく敵がいない間は適度に力を抜いた状態で居られるためか、アカムは最高のコンディションを維持していた。

 そんな感じで、火山エリアを歩いているとふと洞窟のようにぽっかりと開いている横穴を見つける。


「ん……洞窟か……?」

「いえ、ただの横穴でしょう。人が五人くらいは入れる程度の小さい空間があるだけで、別に奥深くまで続いているわけではないようですし。ですが、その中心に何かありますね」


 それに気づいたアカムが洞窟になっているのかと呟くが、即座にその横穴を解析したアイシスがそれを否定する。

 同時に、何かがあると言われたアカムはその言葉に少し首を傾げ、すぐに何かに思い当たることがあったのか納得したように頷いた。


「多分、宝箱なんだろうな」

「確かに形状は箱型のようです」


 そうして思い当たったことを口に出せば、アイシスからもその考えが正しいと思わせる情報を告げる。

 そこまで聞けば、寄らずにはいられないと、アカムはその横穴へと向かって足を進めた。


「やっぱり宝箱か」

「さて、何があるのでしょうか。一応今のところ生命反応はありませんが」


 そして横穴の入り口まで来て中を見てみればやはり宝箱があった。

 アイシスは以前の宝箱から現れた男のことを思い出してか、そんなことを告げる。


 さすがにあんなのが何度もあってたまるかと苦笑するアカムだったが、アカム自身思い出していたことなのでその言葉にホッとしていた。


「まあ、この場合、もう一つ可能性があるわけだが」

「三つ目であれば、それはもはや運命と言い切ってもいいかもしれません」


 ホッとするのも束の間、別の可能性を思いつき、悩んだ様子を見せるアカムに、アイシスはやれやれといった様子で肩を竦める。


 とにかくここであれこれと悩んでも仕方ないため、アカムは腕を分離させ、遠隔から開けることにした。

 ゆっくりと近づけていき、宝箱に触れても特に周囲にも宝箱にも異常がないことを確認してから宝箱を開けた。


「……今回は罠もなかったようだな」

「では中身は違うのでしょうか」


 アイシスも、自身が最初に入っていた宝箱にも、二つ目の機械因子オートファクターの宝箱にも罠があったことを思い出していて、罠があるのなら機械因子オートファクターかもしれないと考えていたため、そんなことをいう。

 だが、警戒しながら進んで宝箱の中身を見た時、その考えは即座に否定されるのだった。


「三つ目だ」

「一応識別してみましたが、どうやら運命のようですね」


 アカムが宝箱から取り出したのは黒い金属の球。

 もはや三つ目。

 見間違えることも無く、見た瞬間に分かってしまう。

 そして、それが正しいことをアイシスが保証する。


 宝箱に入っていたもの。

 それは、三つ目の機械因子オートファクターであった。

 予感はあったために、そこまで驚くことも無く、アカムはそれを腰に吊るしてある小袋にさっさとしまう。


「今回は悩みもしないと」

「悩むならイルミアと一緒にだな。そもそも使うとなると、右脚か左脚かになるだろうが、流石に足が左右で大きく違うというのはやってられんだろ」


 驚くことも悩むこともなくしまったアカムにアイシスがそのことを尋ねれば、はっきりとした答えが返ってくる。


「意外と考えていたのですか」

「意外は余計だ、糞精霊」

「アイシスです」


 そんなアカムを驚いたように目を見開いてそんなことを言うアイシスに、アカムは悪態を吐くが、アイシスはニッコリと笑うだけで反省はしていないようである。

 アカムもそんな反応が返ってくることは分かっていたので大して苛立ちも見せない。


 ただ、今までは声だけのやりとりだったが、表情も加わったことで鬱陶しさが増したなとは感じていたのだが、一方でそれもまた楽しいともアカムは感じていた。

 そして、そうしたやり取りを楽しいと感じていたのはアカムだけではなく、アイシスも同様だったようで、先ほどのわざとらしい笑みではなく心底楽しそうに笑みを浮かべ宙を動き回っていた。


 そんなアイシスをみて、精霊になったことでやっぱり変わったなと頷いていたアカムだったがふと思い出したことがあり、アイシスへと声を掛ける。


「なあ、アイシスって精霊なんだよな」

「そうですが」


 そんなこと改めて確認する必要もないのではとアイシスは首を傾げつつも問いに答えた。


「じゃあアイシスを介して俺も魔法を使えたりはしないのか?」

「ああ……なるほど。無理です」


 どこか期待しているような様子でさらに聞いてきたアカムに、納得した様子をみせ、そして即座にアカムの問いを否定する。

 まさか、ほとんど考えられることなく否定されるとは思っていなかったアカムは数秒固まる。

 そして、復帰すると静かに口を開く。


「マジで?」

「精霊魔法というのは魔力を精霊に与えて魔法を代行してもらう魔法でしたね。これはそこらの精霊に聞きましたがその場合、使うだけの魔力を『短い時間で』消費する必要があります。そしてそれはマスターが意識的に渡さねばなりませんが、さて、マスターはどれだけ魔力を放出できるのか、まさか忘れたとは言わないですよね?」


 未だ、少しの期待を残した様子のアカムに、アイシスが、短い時間でという部分を強調しながら精霊魔法の仕組みについて解説すれば、アカムも項垂れるしかなかった。


「はあ……だめか。ちなみになんで短い時間でないとダメなんだ?」

「精霊は魔力で構成されていますので、ある程度時間が立つともらった魔力と同化してしまうからです。同化した分魔力が増えるのだからそれを使ってくれればと思うかもしれませんが、マスターは例えば自分の足を引きちぎって誰かの代わりに魔法を使いたいと思いますか?」

「あー……そう言う仕組みなのか……じゃあ、仕方ないな」


 より詳しい説明を求めれば、返ってきたアイシスの説明に、アカムもさすがに諦めるしかなかった。

 そんなこと自分であれば絶対に嫌であるし、してもらうのも嫌である。

 アカムは強くそう思い、魔法を使って貰おうなどとは絶対に考えないことにした。


「それにしても、精霊魔法についてはやけに詳しかったですが」

「あーそれはまあ、アレだ」

「……ああ、なるほど。涙ぐましいことですね」


 言葉を濁したアカムに首を傾げ少し考えたアイシスは、「ああ、魔法を使おうとして調べていたのか」と微妙に詳しかった理由に気づき、慰めの言葉を口に出す。

 その声は精霊になる前のアイシスの声のように平坦なもので、ちっとも同情なんかしちゃいないことをアカムに知らせていた。


 アカムはそんなアイシスの言葉など無視して、一度両頬を叩いて気合いを入れ直し、再び火山エリアを歩きはじめるのだった。


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既に完結済となっている全6話の小説です。


「勇者召喚されたチートな少年がテンプレで世界を救うまで」

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タイトル通り少年が勇者となってテンプレで世界を救うお話。

色々ゆるい文章ですのでその辺り耐性ない方はご注意を。


宣伝あとがきでした。

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