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33話 守護者

 アカムが馬鹿を晒した次の日、アカムは迷宮へ挑むために転移部屋まで来ていた。

 いつも以上にアカムは念入りに装備のチェックをし、ストレッチをして体をほぐすなど、準備運動にも余念がない。

 これからアカムが挑むのは四十階層である。

 昨日、アカムは四十階層に辿りついたがそれは辿りついただけで、挑んではいない。


 その時、アカムは小部屋のような空間に転移したのだが、そこは目の前に大扉がある以外には何もない質素な部屋だった。

 その部屋だけで判断するには何もなく、大扉の向こうを見ないと実際に何があるのか、どういう特徴のあるエリアなのか分からないはずだが、アカムはその扉を開けることはせず、まるで扉の向こうに何かあるか分かっているとばかりに、ジッと数秒睨んだ後すぐに地上へと帰還した。


 実際のところアカムは、扉の向こうに何があるのかを、何が待っているのかを知っていた。

 というよりは、ある程度の冒険者であればだれもが知っていることである。

 迷宮は通常、自然を模した様々なエリアがあり、冒険者はランダムに転移してから散在する魔物であったり突然発生する魔物あったりを狩っていくのが基本である。

 だが、十階層、二十階層といったキリの良い階層では、必ず決まって同じような場所に転移することになる。


 その場所こそが大扉しかない小部屋であり、その大扉の向こうには間の階層で出てきた魔物とは一線を画する強力な魔物が待っていて、それを討ち倒さなければならない。

 一度倒せば、同じ階層では二度と大扉の前に転移することは無く、他の階層と同じようにランダムに転移させられるのだが、倒さない限りは絶対に先へ進むことはできないためその魔物を倒すことは先を目指すならば必須である。

 その特性から、その強力な魔物は総じて守護者ガーディアンと呼ばれ挑むには相応の力と覚悟が求められるため、アカムも普段にまして気合いを入れているのだった。


「よしっ……いくか」

『三十九階層の魔物でもかなり余裕がありました。あまり力む必要もないのでは?』

「いや、守護者ガーディアンはマジで別格の強さだからな。少しの油断も許されん」


 すでに守護者ガーディアンの事は教えてあるのだが、それでもアイシスからしてみればあまり気負う必要もないのではと思わずにはいられずそのことを伝えるが、アカムは首を振ってその考えを否定する。


 すでに過去三回ほど守護者ガーディアンと戦っているアカムだが、いずれもそれまでの階層の魔物とは明らかに違う強さで苦戦したことははっきり覚えていて、例え機械因子(オートファクター)の力に若干調子に乗っていることを自覚している今でも、決して油断してはならないと、本能が強く警鐘を鳴らしている。


『そうですか。いえ、もちろん私も油断しないことには賛成ですが、あまり力んでも本来の動きができない可能性があることには留意してください』

「ああ、そうだな。ありがとよ」


 アカムの言葉を受け、納得したアイシスもそもそも油断しないことに反対しているわけではない。そのため少しばかりの注意点を伝えるだけであまり強くは言わなかった。

 アカムもその言葉を受けて笑みを浮かべ、礼を言いつつ、ほぐすように肩を回した。


 そして、アカムは石版へ触れ、迷宮の四十階層へと転移した。






 窓も、灯りも無いのに不思議と全体が明るい小部屋。

 そこに存在するのはただただ、大きな扉のみ。


 アカムの体調は極めて良好で、事前の会話で無駄な力みも無くなり、固さが抜けていて、けれどそこに油断はなく、少しばかりの緊張感が感じられる。

 だが、その顔には小さく笑みが浮かんでいて緊張感を感じつつも楽しみに感じているようだった。


 肉体面も、精神面もどちらも万全の状態でアカムはその扉を押し開き、扉の向こうへと足を進めた。

 アカムが完全に扉の向こうへと入ったところで扉は独りでに閉じられた。


 そこは円形状に形作られ天井も高く広い空間で、全体が眩しすぎず暗すぎずと、丁度いい明るさで照らされている。


 視界には魔物の姿はなかったが、扉が閉まりきったと同時に、アカムの前方の地面に魔法陣が浮かび上がる。

 そしてその魔法陣が一際輝くとまるで光が天井まで伸び、それはまるで光の柱のようだった。


 やがて、光が消えていき、その光の柱から守護者ガーディアンが姿を現した。

 その姿を見て、アカムは少し驚いたように目を見開く。


 大きさ、というよりも身長はアカムの肩ぐらいで、体格も細くはないがアカムほどには太くも無い中肉中背の男で、何の変哲もない濃茶の服とズボンに、同じく変哲もない革のブーツを履いていて、手には長剣が握られている。

 その姿はほとんど人そのもので、アカムが驚いたのもそのためであるが、それは肌が暗い紫色をしていて所々に赤い線が走っているのが目立ち、それが人ではないのだと明確に告げている。


 そして完全に姿を現した守護者は長剣を右脇に構え、アカムへと駆けてきたかと思えば、突然姿を消した。


「っ!?」


 アカムはその守護者を注視しすぎていたために見失ったが、即座に感じるチリチリとした首の後ろの感覚を信じて、ほとんど反射的に振り向きながら大鉈を振るえば、守護者の振るう長剣と正面からぶつかり合う。


 均衡は一瞬で、アカムの振るった大鉈は守護者の長剣を砕きながら守護者に襲い掛かる。

 不意を突かれてやや体勢を崩していたアカムだが、それでも機械因子(オートファクター)の力は強力で、その力で振られた大鉈を長剣が受け止められるはずもなかったのだ。


 だが、その大鉈が振るわれた空間に守護者の姿はなく、長剣だけを砕いて空振りに終わる。

 どこに、とアカムが思うよりも前に懐に気配を感じて視線を下ろせば守護者は両の手のひらをアカムの腹の辺りへと突きだそうとしているのを認識する。


「っ……ぐぅ!?」


 それを見たアカムは咄嗟に左腕の推進装置を使って回避する。

 左腕に引っ張られて急加速したアカムはその負荷に唸るが、空中で体勢を戻してうまく着地して視線をあげれば、すでに守護者がこちらへ駆けてきているのが分かる。


 また、近づかれれば一瞬で視界の外まで移動されるのだろうと判断したアカムは、離れているうちに左腕を射出して攻撃を仕掛けた。

 かなりの速度で射出された左腕はさながら矢の如くであったが、守護者はそれを単なる遠隔攻撃と判断したのか走りながら少し横にずれることで回避しようとする。


「甘ぇ!」


 だが、その左腕はただ射出されたわけではなく、遠隔であってもアカムの思いのままに動く左腕だ。

 左腕が守護者の真横まで来たタイミングで左腕は急静止したかと思えば守護者へと殴りかかる。

 ちょうど裏拳のような形で守護者に襲い掛かり、今度は回避できなかったのか守護者は腕で防御するように左腕をあげる。

 当然の如く左腕だけで防げるほど機械因子(オートファクター)の力は弱くはなく、防御した左腕ごと守護者を吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。


「……まじかよ」


 だが、叩きつけられた守護者は地面に倒れることなく、しっかりとふらつくことすらなくに平然と立っていて、アカムの口から驚きの言葉が漏れる。

 とはいえ、決して無傷というわけでもなく左腕が完全に折れていることが分かる。


機械因子(オートファクター)の全力を受けて左腕が折れる程度ですか……侮れませんね』

「ああ、おまけに治癒能力も高いらしい」


 アイシスの言葉に同意しつつ、守護者が折れた左腕を右手で掴み強引に元の形に直して少しすれば何でもないかのように、左腕を動かし始めた守護者を見てアカムは口の端を引き攣らせる。

 守護者は左手を何とか握ったり開いたりして問題がないことを確認すると再びアカムへと駆けてきた。


『マスター、今わざと攻撃を仕掛けませんでしたね?』

「……さてなんの事やら」


 守護者が左腕を直すのを邪魔することなく見ていたことにアイシスが突っ込みを入れるがアカムはとぼけるばかりだった。

 壁まで吹き飛ばしたために距離が開いているために幾らか余裕があり、そんな会話をしていたが、その間もアカムは油断なくこちらへ向かう守護者を捉え、左腕で攻撃を仕掛けていた。


 二度目は無いとばかりに守護者もその攻撃を避け続けるが、それでも相手の動きを制限するように細かく速い攻撃を連続で仕掛けて、アカムも距離はなかなか縮まらせない。


『仕方ないマスターです。くれぐれもイルミア様を悲しませないようにしてくださいね』

「そこまで馬鹿じゃ、ねえ!」


 アイシスの言葉に、左腕の猛攻を抜けて一気に迫ってきた守護者の攻撃を躱しつつアカムは言葉を返す。

 守護者と激戦を繰り広げるアカムは、見た相手が安心できるような笑みではなく、獰猛で目の前の相手との戦いが楽しくて仕方がないと言った笑みを浮かべていた。


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