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28話 ワイヤー

 砂ぼこりはそれなりに広範囲にわたって広がっていたのかしばらくの間視界が悪い状態が続いたが、ようやく砂ぼこりが舞っていないところまでアカムは辿りついていた。

 その間も何度かサンド―イーターが出現したのだが、すでにどういう攻撃をしてくるか知れているために相手が動くのを待たず、左腕を高速回転させながら射出して、地面を掘り進み、サンドイーターを地面の上に掴み上げてさっさと倒すことで、簡単に倒せたためにそれほど問題もなかった。


 砂ぼこりの中を数十分歩いていたアカムだが、常に生活魔法の《クリーン》をかけているため小奇麗な姿のままだった。

 本来であれば少し呼吸が苦しかったり、目に砂が入ったりといった障害があってもおかしくはない程度には砂ぼこりは濃いものだったが、その直前に《クリーン》の効果で弾かれていたために、視界が悪いこと以外には案外快適なもので、アカムにも疲労した様子は見えない。


 とはいえやはり、視界が曇った状態というのは精神的に疲れたようで、砂ぼこりの舞うエリアから出てきたアカムは一つ深呼吸をして《ウォーター》で水を作りごくごくと飲んでいた。


「ふう……ようやくスッキリとした感じか」

『マスターのせいですけどね』


 人心地ついたアカムが体を伸ばしつつ呟くが、アイシスが横やりを入れる。

 アカムは肩を竦めるだけで特に反論はしない。実際アイシスの言う通りであることは自覚していたからだ。


「さて、今のところはあのアリジゴクしか倒してないわけだが、他に敵は?」

『索敵範囲に敵性反応無し……いえ、正面の砂の下に出現しました。どうやら地上に出てくるようです』

「また、近くで発生か」


 周囲を見渡し、今だ一面に広がる砂の海を見ながらアイシスに敵の有無を聞く。

 最初は敵がいないと告げるアイシスだったがすぐにそれを訂正し、その情報にアカムは目を細くして正面を見る。


 アカムが見るとほぼ同時、結構な量の砂が爆発したように打ち上げられ砂煙が舞う。

 その砂煙の中から何かが飛び出してきてアカムの目の前に着地するとともに、その尾を使ってアカムを上から突き刺すように攻撃してきた。


「っと!」


 その攻撃はなかなか速い一撃であったが、現れたソレの姿から攻撃手段はある程度察していたためにアカムは危なげなくそれを回避して、お返しとばかりに砂に刺さったその尾を大鉈で薙げば、尾はあっさりと斬り裂かれ、体液のようなものを撒き散らす。


『――! 緊急回避、実行』

「ぐっ!?」


 その体液がアカムに降りかかりそうになったが、アイシスが何かに気づいたのか左腕の推進装置を起動させての緊急回避を実行した。

 その場から弾かれたように吹っ飛んだアカムはその急加速で身体にかかる負荷に呻きながらも歯を食いしばりなんとかバランスを立て直して地面に足をついて着地する。


「なんだ!?」

『先ほどいた場所を確認してください』

「ん……? 煙か?」


 突然腕に引っ張られた形で宙を舞ったアカムが咎めるように大声をあげ、返ってきた答えにアカムが視線を移せば、先ほどまでアカムがいたであろう場所から煙のようなものが上がっていた。

 よく見れば、煙の上がっている場所には先ほど尾から撒き散らされた体液が付着しているようで、それが砂を溶かしているようだった。


「毒か?」

『おそらくは。ざっと解析した限りでは生物などは瞬時に、無機物でもかなりの速度で溶かせるようです』

「そうか、助かった」


 与えられた情報を聞いてアイシスに礼を言いつつ、なぜかその場から動かない魔物を警戒して睨み付ける。


 その魔物は地面にへばり付くかのように平べったいが、それでもアカムの腰ほどの体高があり、八本の足に加え正面には大きな鋏が左右についている。何よりも特徴的なのは先ほどアカムに対して攻撃を仕掛けた尾の部分。尾を横からではなく上から回すように尾の先は前に向いていてその状態だとアカムよりも遥かに大きいものとなっている。


 それはそのままサソリを巨大化したような姿をしている。そのサソリ型の魔物の名はハイスコーピオン。

 アイシスが解析した通り、生物を即座に溶かす毒を武器にし、またその鋏による一撃も非常に強力なものである魔物だ。

 そして何よりも厄介な特性がハイスコーピオンにはあった。


「っ! 尻尾が治っていくぞ」

『再生能力を持っているようですね』


 再生能力。尻尾が斬られた程度であればすぐに再生してしまうその特性が何よりも厄介だった。

 ハイスコーピオン体液そのものが毒であるために、下手な攻撃をすれば自らに毒が降りかかるだけで即座にその傷は治ってしまう。

 体液のついた武器も放っておけば次第に腐食してしまうために、なかなか凶悪な魔物である。


『とはいえ、その再生能力も無限ではないでしょうし、機械因子オートファクターはあの程度の毒でどうにかなるほどのものじゃありません。問題ないでしょう』

「俺は生身なんだがな」


 アイシスの言葉に、突っ込みを入れるアカムだったが、アカムの表情にも陰りは見えなかった。

 何せアカムには近づかずに攻撃する手段があるのだから。


 そこまで話しているとハイスコーピオンも尻尾の再生が完全に終わったのかアカムの方へと猛烈な勢いで駆けてくる。

 八本の足で地面を抉り、砂を猛烈な勢いで巻き上げて突進してくるその速度はかなり早く、とても逃げることは叶わないだろう。

 アカムはそれを黙って見て、特に妨害するでもなく接近を許す。


 接近したハイスコーピオンは突進した勢いそのままに鋏でアカムを捕まえようとするがアカムはこれをジャンプして回避した。

 だが、ハイスコーピオンも逃がすつもりはないようで宙へと飛んだアカムへ尻尾を突き刺そうとする。


「当たらないっつの」


 向かってくる尻尾の右側に左腕を押し付けるように横に流して回避すると共にアカムの左腕からワイヤーが射出され、その尻尾の先に巻き付けられる。

 突進していたハイスコーピオンがそのままアカムの後方へと進んでいくが、アカムは左腕を分離させつつ、その場に腕を固定させれば尻尾が引っ張られたハイスコーピオンは一瞬宙に浮いたかと思えば尻尾の根元から引きちぎれて砂の上を転がっていく。


「ありゃ千切れちまったか」


 それを見てアカムが失敗したとばかりにそんな風に呟きつつ、尻尾に巻き付いていたワイヤーを解いて、回収する。

 先ほど使ったワイヤーもまた機械因子オートファクターの機能の一つで、射出して相手に絡み、動きを拘束したりすることが可能になる。

 とはいえそちらは副次的な効果であり、本来の用途とは異なる使い方だった。

 アカムも砂ぼこりの舞う中でアイシスにその機能を聞いて本来の用途のために使ったのだが、その前に尻尾が千切れたためにワイヤーを回収したに過ぎない。


「さて、あのサソリは他に何かあるわけでもないようだし、終わらせるか」

『攻撃を待たずに最初から全力でやったほうが安全でしょうに』

「とりあえず相手の出方を確かめておかないとな。相手の攻撃知らずにいると後々に響くかもしれん」


 アカムの軽口に、アイシスは言葉を返す。

 昨日、迷宮探索でどこか飽きていたアカムはあの時のことを反省して、初見の相手ならまずは防御に徹して攻撃に対処できるかを見極めてから倒し、以降は全力で、即座に終わらせるようにしていた。


 機械因子オートファクターの力があれば、確かに初見の相手にも攻撃をさせることなく倒すことが可能だろうが、そうして攻撃を知らずにいると、いつの間にか倒せはするが、攻撃されれば相手の攻撃を凌げなくなっていた、なんてことになりかねない。

 その可能性と、アカムなりに迷宮での戦闘による経験を深めようという狙い、それらが最初は防御と回避に専念する理由だった。

 もっとも、それに徹しきれてはおらず、今回も相手の最初の一撃を躱した傍から反撃して結果的に危険な状況になっていたりと甘いところがあるが、それはもしもの時はアイシスが何とかしてくれるという信頼の表れでもあった。


「じゃあ内側から焼き殺すぞ」

『了解、ワイヤー射出、ターゲットに直撃、通電開始』


 再び左腕から射出されたワイヤーが、尻尾が根元から無くなってバランスが崩れてかふらふらとした足取りで再びアカムの方へ向かっていたハイスコーピオンの身体に巻き付いていく。

 そして、魔力が電撃へと属性変換され、それがワイヤーを伝うことで強力な電撃がハイスコーピオンに襲い掛かる。

 ハイスコーピオンの体内に高圧電流が流れ続け、肉が、血が、体液が沸騰してその体を中から急速に焼いていった。

 ハイスコーピオンの焼けた香ばしく、どこかおいしそうな香りをアカムが感じるのと同時に、ハイスコーピオンの身体が消え、魔石と化していった。


 魔物の死に際に漂った香りに食欲を刺激されたアカムは、ハイスコーピオンが消えるのを惜しむように見て、肩を落としつつ、アカムは魔石を回収するために近寄っていくが、近寄るごとにおいしそうな香りを強く感じる。

 アカムはその香りを振り払うように超高濃度高圧縮栄養剤ハイレーションを取り出して噛み砕くのだった。

気付けば10万字超えてました。

10万字かけてどれだけ進んだか……微妙かな?

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