表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/101

24話 決断

 二つ目の機械因子オートファクター

 それを見つけたアカムはどうしようかと悩んでいた。

 自分で使えばそれは大きな力となることは既に分かっていて、アイシスの言葉によれば魔力回復力には十分に余裕があるためにその性能を最大限発揮して扱える。

 だが、自分で使う場合無視できない問題がある。


「ちなみに……これをまた使うときは腕とか斬りおとす必要があるのか?」

『いえ、それも一つの方法ではありますが、まず、球体のまま埋め込み接続してから生成する方法もありますので必ずしも斬りおとす必要はありません。ちなみに後者の場合は痛覚を遮断してから行いますので苦痛はほとんどないでしょう』


 アイシスに確認し、懸念していたことも問題がないことを知るといよいよ悩むことになる。

 自分で使うか、売ってしまうか。


 未だこの腕には慣れきっていない中、さらにもう一つ機械因子オートファクターが増えて扱いきれるかという不安があった。

 一方で、機械因子オートファクターのもたらす力に興味は尽きず、手放すにはあまりにも惜しいと感じでしまう。


「……使うか」

『私もそれがいいと思います』

「その理由は?」

『単純にそれがマスターの力になるからというのもありますが、マスターでなければ使いこなせないと思われます。武器や道具はそれを十全に扱える人が持つべきです』


 しばらく悩んだアカムだったが、やがて呟いた言葉にアイシスが賛同する。

 なぜ、薦めるのかという理由を聞いたアカムはなるほどと頷く。


「なるほど……」

『ちなみにマスターが使おうとした理由はなんです?』


 今度は逆にアイシスがアカムに尋ねる。


「あまり深い理由があるわけじゃないんだが、この腕を手に入れてからわずか三日だ。これは勘だが先々、また手に入りそうな気がするんだ」

『つまり運命を感じたからと?』

「そういうこと……いや、まあ言い訳だな。実際はつまらない独占欲だ。この力が俺だけの力であってほしいっていうな」


 自嘲するようにそう吐き捨てるアカム。

 言っているうちに何か思うところがあったのか俯いて暗い雰囲気を発している。


『別にいいのではないですか? 事実、機械因子オートファクターの力を最大限引き出せるのはマスターだけです』

「正確には俺の魔力回復力体質だけ、だな」

『それもマスターの力です! それに、ただ動かせることとうまく扱えることは全く違います。マスターはあっという間に機械因子オートファクターの操作に適応し、自由に扱っていますが、他の人にはそんな真似は不可能です!』


 そんなアカムをアイシスが励ますように言葉を重ねる。

 その声は平坦なものではなく、どこか必死さと悲しみを感じさせる声で、それを聞いたアカムは驚くとともに色々とどうでもよくなり、笑い始めた。


『……何か?』

「いや、何でもない。ほんと、ありがとう。また、卑屈になってたわ」

『……マスターの無い頭であれこれ考えても無駄です。感じるままに動けばいいのです』

「へいへい」


 笑われたとでも思ったのか不機嫌な様子の声を出すアイシスにアカムは苦笑しつつ慰められたことへの礼を言う。

 それを聞いても納得していないのかアイシス毒を吐くが、アカムは堪えた様子も見せず軽く流して、手に持った機械因子オートファクターに視線を移す。


「で、どうすればいいんだ?」

『チッ……起動のためには一定量の血が必要です』

「なるほど」


 それを聞いたアカムが短剣を取り出し、左腕を少し斬って血を流し、そこへ球状の機械因子オートファクターを押し付ける。

 血がある程度吸われたところでその球は浮き上がる。


『一定量の血液を確認……システムを起動します』

「どこかで聞いたような声だな」

『うるさいです』


 その球から発せられた声にアカムがとぼけたようにそういえばアイシスがより不機嫌な様子で反応する。


『マスターを登録……状態スキャン開始……他の因子の存在を確認、これより機械因子オートファクターの制御を全て既存人格へ移譲します』

「ん? ここは前回と違うな」

機械因子オートファクターの制御移譲を受託。これより、導入過程は機械因子オートファクターの補助人格、アイシスによって行われます』

「なんか嫌な予感が」


 三日前、最初の時の流れにとは違うことに首を傾げるアカムだったが続くアイシスの言葉を聞いて背中に嫌な汗が走る。その声にどこか棘を感じたからだ。


『左腕でよろしいですね?』

「あ、ああ。だが、あれだろ? あまり苦痛は無いんだよな?」

『導入は左腕部を選択。因子の埋め込みを開始します』


 アカムに最低限確認を取ると他の言葉は無視してアイシスが宙に浮かぶ機械因子オートファクターを操作して左肩の辺りへ移動させる。

 それから球体から光が照射されたかと思えば肩が縦に大きく斬られ、そこに球体が沈み込んでいく。


「いっ!? ……たくないな」


『埋め込みを完了。続いて、接続過程に入ります。接続時には多少痛みを感じますが我慢してください……接続開始』


「っ!? ッ……痛ぅ……!」


 肩を着られ球体が埋め込まれるのを見てアカムが顔を顰めるが感じると予想していた痛みが無くて安心していた。

 が、そんな安心も束の間、アイシスが痛みに対する警告をし、それにギョッとしたアカムが歯を食いしばる。

 次の瞬間には肩に鋭い針で刺されたかのような痛みを感じた。

 それはかつて右腕を接続された時に比べればはるかにましではあったが、思わず全身を強張らせるほどには痛いものだった。

 そして、ふと左肩が軽くなるのを感じてそちらを見れば左腕が無くなっていて、視線を下に向ければ左腕が落ちているのを見つけてしまい、顔を蒼褪める。


「うげっ……」

『接続を完了。同時に左腕部の切り離しも完了。変換開始』


 そんなアカムの様子を一切無視しながらアイシスがそう言うと共に、肩についていた球体が変形するが、それはまるで肩から左腕が生えてくるかのようで気味の悪い光景だった。


『変換を完了、続いて第2段階へ移行します』

「心臓に悪いな、これ……って、第2段階って確か……」

『魔力炉、接続します』

「っ!」


 無事と言っていいのかは分からないが無事、機械の左腕が現れてホッとしたところで、続くアイシスの言葉に次に起こることを思い出して顔を顰める。それからすぐに、何かが腹の奥へと潜り進む感覚があり、やはりと感じながらもその瞬間に耐えようと気合いを入れる。


『魔力炉接続完了……エネルギー供給率、左右共に100%を維持』

「うぷっ……やっぱ気持ち悪いなこれ」


 アカムがそう言いつつも特に吐くでもなく割と平然としているのは気合いを入れたから……ではなくすでに魔力出力については調査済みであるために、わざわざ魔力を一気に空にする必要がなかったからだった。


『システム、全て異常なし。以前のデータを元に最適化……完了。動作チェックどうぞ』

「あいよ」


 以前ほどの苦痛を感じなかったからかアカムはいくらか上機嫌になりながらアイシスの言葉に応え、左腕を色々動かす。

 単に曲げたり、指を動かすだけでなく分離させて遠隔操作したり、肘から先を回転させたりとするが特に問題はないようでアカムは満足げに頷く。


「で、次は激しい頭痛か……」

『いえ、必要となる知識は既に植え込み済みですので知識のインストールはございません』


 だが、そういえば次は知識を埋め込まれての頭痛が待っていたのだと思うと憂鬱になるアカムだったが、他でもないアイシスがそれを否定する。

 

『ですので、第3段階を飛ばして最終段階へ移行、肉体の耐久性に問題あり。補完開始』

「なっ!? ッ……! ぐぅ……ッ!」


 だが、安心する間もなく、告げられた言葉にアカムはギョッとしてまた、歯を食いしばる。

 同時に、身体の内側から熱を感じてそれにひたすら耐える。

 その熱は初回ほどではなかったのだが初回時は気絶していたこともあり、アカムはその感覚に必死になって耐えていた。


『補完、完了。導入過程はすべて終了しました』

「ふう……なかなか辛いもんがあるなこれは」


 そんな時間もあっという間で、無事に機械因子オートファクターの導入が終わり、アカムの左腕も右腕と同じように機械の腕と化した。

 だが、前回は不可抗力だったが今回は自らの意思で決めたという明確な違いがある。

 アカムは機械に変わってしまった両腕を見ながら、何ができるか、どこまで通用するのかを考え、一人ワクワクとしていた。


『子供みたいですね』

「実際、新しい玩具を貰って喜んでるガキみたいなもんだ」


 そんなアカムにアイシスが馬鹿にしたようにそう言うが、アカムは笑いながらそれに同意し、傍に置いていた大鉈を拾い上げ、再び洞窟を彷徨い始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ