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23話 力

 アカムは薄暗い洞窟の中を当てもなく彷徨っていた。

 迷路のように入り組んでいるために行き止まりに当たることも多く、何度も引き返して別の道へ行くというのを繰り返していた。


「ぽつぽつ石版はあるからいいけど、ずっと微妙に狭い空間を歩かされるのもだるいな」

『敵にも注意しないといけませんからね。敵性反応を見つけても壁の向こうで取り越し苦労に終わったりもしていますし』


 アイシスが言うようにその行き止まり辺りで何度か、魔物の反応を確認していたのだがそれを聞いて警戒していたのに実は壁の向こう側だったということも何度かあった。

 恐らくは別のルートなら壁の向こう側へと通じている道があるのだろうが、そんなことは実際に行って確かめてみないと分からないためアカムは警戒を強いられていた。

 とはいえ、いつ奇襲されるかと警戒していたのはアイシスを手に入れる前は常にしていたことであるためにそれについてはさほど疲れてもいなかった。


「それはいいんだ。警戒するのは当然だしな。それよりも魔物を狩りに行けないのがなあ」

『そういえばマスターは魔物を避けようとしませんよね』

「そりゃ魔物狩って魔石得ないと収入にならないし、なるべく多く戦っておいた方が力になるだろ。そうすりゃさらに深い階層に挑めるってもんよ」


 問題は、警戒が強いられることではなく、こちらから魔物を探して狩りにいけないことだった。

 アカムとしては収入のためにも、深くなるごとに強くなる魔物との戦闘経験のためにも見つけた魔物はなるべく狩っていきたいと考えているのだが、この迷路のような洞窟ではアイシスに索敵してもらっても壁の向こう側に居たりするなどと無駄に終わることも多かった。

 その為に、結局は洞窟を歩く中に散発的に出会う魔物を狩るしかなく、そのことに不満を覚えていた。

 出てくる相手も奇襲専門の敵が多いようで直接的な戦闘能力が低い者ばかりであることもあってそれを後押ししている。


 とはいえ、奇襲専門の魔物だけでなくたまに正面から力で攻めてくる者もいる。

 ちょうど今、その数少ない正面から力で攻めてくる相手がアカムの目の前に現れた。


「牛頭の化け物か。パワーはあるんだけどなあ」


 その魔物は頭が牛のようになっているが体はまるで人のようで筋肉がこれでもかと言うほどに主張している。

 その体格はアカムよりも一回り大きく、両手には大斧を持っていて、アカムを血走った目で睨み付けている。

 だが、アカムはそんな視線にも動じずに溜息を吐く。


「グモォ!」


 その態度が気に入らなかったか、牛頭の魔物はより一層視線を鋭くし、地面を強く蹴ってアカムへと迫る。

 狼型の魔物よりはずっと遅いが、それでも十分に速く、巨体も合わさってその迫力はかなりのものがあったが、アカムはそれをじっと見据えて通路の左に寄りつつ大鉈を少し後ろへと放っておく


 牛頭の魔物が自らの攻撃範囲にアカムを入れたのか大きく右足で踏み込み、大斧をアカムから見て右上から左下へと振り下ろそうとする。

 助走の勢いと、その巨体の力を一振りに集めたその一撃は凄まじい威力を秘めていたが、それはどうしても大振りなものとなる。

 左に寄っていたことで魔物の右側には十分なスペースができており、アカムはそこへ軽く飛ぶようにしてそれを回避した。


 さすがの牛頭の魔物も大斧を全力で振った直後はどうしようもなく隙だらけで、ちょうどアカムの正面には脇腹にあたる部分が丸見えだ。

 アカムがそこに右手を押し当てると共に、肘の辺りからいつの間にか飛び出ていた杭が超高速で腕の中へと消える。


「バンカーショットッ」


 そして、アカムの呟きと同時に牛頭の魔物には凄まじい衝撃が走ると共にその巨体を吹き飛ばす。

 アカムが最初に壁に寄っていたということはその魔物も必然壁に寄っていたということであり、吹き飛ばされたその巨体は洞窟の壁に強く叩きつけられた。

 かなりの勢いで叩きつけられた魔物は壁に薄くめり込み、しばらくぴくぴくと痙攣したのちに魔石と化した。


「やっぱ、力だけで単純な相手はなあ……この腕の方が力強いし」


 魔石を拾いつつアカムがそうぼやくが、実際のところ牛頭の魔物、ミノタウロスは力だけの魔物ではない。

 確かに武器はその力なのだが、ミノタウロスの肉体はそれ自体が天然の鎧であり、生半可な攻撃はほとんど通らないほどに強靭なものである。

 それこそ全体重を乗せた強力な一撃でもないと大したダメージは与えられないほどだ。

 ミノタウロスはその己の耐久力を活かしてノーガードで攻撃を繰り出してくるが、その攻撃の全てが一撃必殺であるのだから避けるだけでも冒険者の精神を削っていく。

 そんな中で全体重を乗せた攻撃をするために力を溜める無防備な姿を晒すことは非常に恐ろしく、度胸が試される。

 あるいは、鋭く細かい攻撃でひたすら浅くでも体を斬って持久戦を狙う方法もある。

 だが、その場合も長い時間、目の前に迫る死と対面しなくてはならず、精神的にも肉体的にも多大な疲労を伴う魔物であった。


 アカムの場合は、瞬間的にミノタウロスの耐久力を貫く攻撃力を生み出せるがために苦労しなかったが決して侮っていい相手ではない。

 機械因子オートファクターを手に入れる前のアカムであれば間違いなく持久戦を強いられ、苦戦した相手だろう。

 だが、実際には圧勝しているアカムがそのことに気づく様子はなかった。


『マスター、力に力で勝っただけで油断していませんか? マスターとて力押しで相手を下していることをお忘れなく。もっともその力である機械因子オートファクターを補助する私が言うのもおかしな話ですが』


 そのことを感じ取ったのかアイシスは忠告を飛ばす。

 それを聞いてアカムも痛いところを突かれたとばかりに頭を掻く。


「あー確かにそうかもしれん。とはいえ、下手に技術で攻めるよりもこの腕の力の方が強いのは事実……まあ、その使いどころを間違えないように考えていかないとか。……後は調子に乗らないようにするとかか?」

『相手の攻撃を先読みしたり、回避する技術はあってもいいかと。そういう意味では先ほどのマスターの動きは相手の動きを制限し、回避しやすいようにしていましたので決して卑屈になる必要はないかと。大切なのは油断しないことかと』


 若干悩む様子を見せるアカムに、アイシスは今度は先ほどの戦いで褒めるべきところを褒め称える。 

 そんなアイシスの気遣いに驚きながらもアカムは苦笑する。


「そうか……助言ありがとうな。あのままだと確実に調子に乗って馬鹿やってたわ」

『いえ、マスターを補助するのが私の役割ですので』


 アカムが指摘してくれたことに礼を言うが、アイシスはそっけなく返す。

 だが、その声はどこか嬉しそうな響きが籠っていた。


 それからアカムは大鉈を拾って再び洞窟を進んでいった。

 道中で、奇襲してくる魔物はアイシスの索敵によって隠れているのを見つけ出し、どう隠れているのかを一つ一つ覚えながら倒し、ミノタウロスのような魔物相手には相手の動きを制限したり、回避しやすくするにはどうすればいいかを考え、実行して倒していった。


 そしてアカムが辿りついたのはこれまでに幾度もあった行き止まり。

 ただし、今回は何もない行き止まりではなく宝箱が存在するものだった。


「宝箱か……」


 アカムが思い出すのはこの腕を手に入れた時のこと。

 それまでなかった罠が仕掛けられていて片腕を失った苦い記憶だ。


「だが、臆してもいられないか。これから宝箱を全て無視できるほどあの中身は安くないからな」


『念のため右腕を遠隔で操作して開けることを推奨します』

「そうだな」


 意を決して宝箱を開けることを選択したアカムに、アイシスがそれならばと一つ提案する。

 その言葉に同意したアカムは右腕を分離させ、離れた場所から宝箱を開ける。


 そして、宝箱を開けた瞬間、何かがその右腕に当たり、甲高い音を響かせ右腕を少し弾き飛ばした。

 だが、それだけで右腕にもアカム自身にも何も異常はなくとりあえずアカムは一安心だ。


「また、罠付きだったか。でも回避できたようだな。さて、中身を確認するか」


 アカムがゆっくりと宝箱を警戒しながら近寄って、その中身を確認する。

 中に入っていたものを見たアカムは驚いて目を見開いた後今度は逆に目を細める。


 それに恐る恐る触れて問題がないことを確認するとアカムはそれを掴み上げた。

 それはとても小さいもので、魔物の残す魔石を同じ大きさの黒い球。


「これは……まさか……」


 アカムはおそらくその球の正体を知っている。

 腕を失った痛みと共にソレの記憶は強く印象付けられていたのだから。


『……間違いありません。機械因子オートファクターです』


 アイシスの言葉にアカムは然程驚かない。

 ただ呆然とそれを、二つ目の機械因子オートファクターを見ていた。


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