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21話 変換

 アカムとイルミアの結婚記念日では毎年、特別なことをするでもなく必ず家でご馳走を食べるといったささやかなパーティーのようなものが行われていたが、ひょんなことから一年前の記念日ではオリビアが参加していた。

 アカムもイルミアも記念日を祝うこと自体に大した思い入れも無く、なんとなくしているだけのちっぽけなパーティーであるためにオリビアが参加してもなんら思うところはなかった。


 が、オリビアにとってはちっぽけなパーティーなどではなく豪勢な料理がこれでもかと言うほど並べられ、おいしいものを好きなだけ食べても無くならないという夢のようなパーティーであると感じていた。

 そのことに味を占めたオリビアはこうして今年もアカムたちの結婚記念日を狙ってここ異界迷宮都市へとやってきたのだった。


「ちょっとイルミアさん? 私、もう17歳なんだけど。ちょっとこれはないんじゃないかなと思うんだけど」

「はい、あーん」


 そして、そのオリビアは今イルミアの膝の上に座らされ、頭を撫でられまくり、食べ物を食べさせてもらったりとそれはもう酷く猫かわいがりされていた。

 普段は、冷徹で気が強そうな雰囲気を纏っているイルミアだが、アカムの前では嬉しそうに笑みを浮かべその雰囲気は一気に柔らかいものとなる。

 そして、オリビアの小柄な姿がイルミアの琴線に触れたようで、彼女を膝の上に抱いたイルミアの雰囲気は全てを包み込むかのような包容力を感じさせるものになる。

 オリビアも口では文句を言うが、その雰囲気と、物理的な力による包容力の前にイルミアの上から逃れることは叶わなかった。


 去年の結婚記念日の時も同じ目にあっていたのに、オリビアはそれをすっかり忘れていたようだ。

 すでに逃げるのも諦め可愛がられるままの人形と化したオリビアをちらりと見ながらアカムは鼻で笑ってイルミアの作ったご馳走を食べていく。


「にしてもうめえなあ……イルミアも元冒険者なのに何でこんな料理うまいんだ?」

「分かってないなあアカムっちは。そんなの愛に決まってるじゃん」


 アカムが食べながらそう呟くと、なぜかオリビアがドヤ顔で横から説明を入れてきた。

 その顔は明らかに人をからかって楽しもうとする質の悪い表情をしている。


「そうね。あなたのために料理を覚えたのだからあなたのために料理がうまくなったに決まってるじゃない」

「……最初からうまかったが」

「それこそ愛かもしれないわね」

「なるほどな」

「うへえ私が思ってたのと違うよこれ。なんで普通に甘い空間になってるの」


 だが、この二人にはそんなからかいも通じなかった。

 オリビアの茶々に、二人は恥ずかしそうにするでもなく平然としていて、堂々と惚気はじめた。

 オリビアはその空気に砂糖を吐くような顔をして、甘いのを誤魔化すかのように辛めの味付けのされた肉を口に放り込んだ。その時、口元にタレがついたが即座にイルミアによって綺麗に拭き取られる。


 それからしばらくしてまずオリビアが満腹になり食卓から脱落した。

 机の上にはまだまだ大量の料理が盛られているばかりかイルミアが追加の料理を作りに向かった。

 さらにしばらくしてイルミアもようやく満腹になり食事を終えた。

 机の上にはまだまだ大量の料理が残っている。


「じゃ、俺もこれ全部食い終ったら終わりにしておくか」

「イルミアさんも大概だけどアカムっちもおかしいよね。絶対おかしいよね」


 その言葉に少し離れたところで消化に励んでいたオリビアがジト目で二人を見ていた。特にアカムのほうを有り得ないものを見るような顔で見ている。

 そんなオリビアにアカムは肩を竦めつつ、一応弁明を口にする。


「いや、昔っから満腹になったことはないんだよな」

「前にあんたを満腹にしてやろうと意気込んだけどその時は今日の数倍を用意しても無駄だったものね」

「いや、もうそれ化物じゃん」


 それは全く弁明になっておらず火に油を注ぐだけだった。

 オリビアのアカムを見る目は化物を見るソレになっている。


《……マスターの魔力出力限界が上昇しているのを微量ですが確認しました》

「ぶっ!?」


 オリビアにそういわれても体質だから仕方ないと肩を竦めつつ水を飲んでいたアカムの脳内にアイシスの声が響いた。

 そして、その声が告げた内容にアカムは思わず水を吹き出してしまう。


「どったの? アカムっち大丈夫?」

「あーいや。ってもうオリビアにもこの腕のことばれてたな。説明ついでに普通にしゃべっていいぞアイシス」


 突然噴き出したアカムを心配するようにそう声をかけるオリビアに、最初は誤魔化そうとするが、すぐに知らせてもいいかと思い直したアカムが腕の擬態を解きながら右手を前に出しておく。


『では、初めまして。オリビアさん。私はアイシス、マスターの機械因子オートファクターを補助する擬似人格です』

「うぇ!? な、なにこれ!? あ! ちっちゃいイルミアさんだ!」


 立体映像として姿を現したアイシスを見て驚いたオリビアが目を見開いて騒ぎ立てる。

 まあ、アイシスを見て即座に気絶しなかっただけマシかと考えつつ、アカムは残りの料理を口に入れながらオリビアが落ち着くのを待つ。


『この鳥娘、やかましいですね』

「やかましい!?」

「確かに」

「それがかわいいところでもあると思うわ」

「ひどい!」


 アカムは黙って落ち着くのを待つつもりだったがアイシスはそうではないようで、早速毒舌をかましていた。

 その言葉にアカムは思わず同意して、イルミアもフォローを入れつつも否定はしなかった。


「……で、あなたはその腕を補助する擬似人格……精霊みたいな存在ってこと?」

『まあその認識で大体問題はありません。こうして姿を現したのは先ほど話されていたマスターの体質についての説明をするためです』

「体質? ああ、胃が化物っていう話か」

「化物じゃねえ」


 落ち着いたオリビアに改めて説明をして彼女が大体理解したところで本題に入る。

 すなわち、なぜアカムが満腹にならないのかについてだ。


『先ほどのマスターたちの会話から気になったので精査してみたところ、最初の情報よりもマスターの魔力出力……魔力回復力が少し上昇していることが分かりました。さらに今日食事を始める前のものと比べてみても本当に微量ではありますが上昇しているようです』

「それってつまり……?」

『どうやらマスターは食べた物から得られるエネルギーを魔力回復力へと変換しているようです。奇妙なのはその効果が一時的なものではなく一度向上した回復力が維持されているようだということですね』

「なんていうか食い溜めしてて、徐々に消化しているようなもんじゃないのか?」


 その事実はアカムも知らなかったことなので真剣に聞いて思いついた可能性を述べるが、アイシスはそれを否定した。


『いえ、それはないでしょう。食べた物は一定量を残して即座に消化されて消えてるようですし、マスターの普段の食事の量だけで、機械因子オートファクターをフルスペックで稼働させ続け、尚且つ数回魔力を空にされても回復力を落とさないほどの魔力が得られるとは到底考えられません』

「まあ、今日ぐらい食うのは滅多にないしなあ」


 アイシスの説明になるほどと頷きアカムも納得する。

 普段も確かに大食らいではあるが、それも冒険者の中ではぎりぎり有り得なくはない程度であり、到底それだけで異常な回復力を得られるとは思えなかった。


『つまり、端的に申し上げればマスターにとって肉体に必要な分以外の食料は魔力回復力を向上させるためのものであり、余剰分を全てそちらに変換しているために満腹になることがないのだと思います』

「ふーん……でもさ、アカムっちって、ただでさえ魔力無限みたいなもんだし意味ないよね!」

『そうですね。マスターの魔力炉に直結している機械因子オートファクターなら直接吸い出せますが、回復力は向上しても放出できる量には変化が見られませんのでほぼ無意味ですね』

「ぷぷぷ、要するにアカムっちは大食らいなだけじゃん!」


 アイシスの説明に長年の謎の一つが解けてなるほどとアカムは頷いていたが、オリビアが水を差すようなことを言う。

 それにアイシスも同意して、毒を吐き、オリビアは馬鹿にするように指を刺して笑っていた。


 正直それはアカム自身薄らと考えていたことなのでその言葉に対して落ち込む様子もなく残りの料理を平らげていく。

 ただ、その傍らで右腕を分離し、遠隔操作してオリビアにかなり手加減したデコピンを食らわせた。

 突然分離した腕にギョッとして固まっていたオリビアはそれを避けることができずに食らって痛みに悶えていた。


「うぅ……アカムっち酷いよ!」

「自業自得だ」


 涙目で訴えてくるオリビアをバッサリ切り捨てたアカムはイルミアの料理を十分味わって食べ、用意された料理は全てきれいさっぱりなくなったのだった。


うまく説明できなくて力不足を感じますが、ようするにゲームのステータスを永続的にn値向上させる的なものです。

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