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19話 異常種

「あの時気絶してたのはそういうことだったのか」

「他になんだと思ってたのよ」


 アカムが出会った時のことを思い出しながらそう言うと、イルミアは呆れたようにして半目でアカムを睨む。


「いや、普通に体力切れかと」

「そんなわけ……いや体力が切れてたのも理由の一つかもしれないけど大元の原因は魔力切れよ。魔力切れに関して読んだ本にも書いてあったし」


 アカムがそういえば、否定しようとするイルミアだったがよくよく思い返せば確かに体力も消耗していたことは事実だったと思い直すが、それでも意識を失った原因は魔力切れであると言い張った。

 彼女がそう言い張るのには自分の体験だけでなく調べたうえでそうなることを知っているからだ。


「他の奴は皆、魔力切れで気絶するのか……つまりあの気持ち悪さを感じない……?」

「でしょうね。多少気分悪いってぐらいで耐えられない吐き気とか感じる前には意識は夢の中のはずよ」

「ずるいなそれ」


 話を聞く限りは他の人たちは耐えられぬ気持ち悪さを感じる前に気を失うことを効いたアカムはまるで子供のような文句を口にする。

 アカムの場合は例え魔力がゼロになっても激しい吐き気がするだけで意識は全く失うようなことはなかった。

 それはもちろん魔力が無くなった傍から回復してしまうからだ。


「何言ってんのよ。どう考えてもあんたのほうがずるいわよ」

「でもなあ……」

「ほら、もう昼休憩も終わっちゃうんだからさっさと食べましょ」


 そんなアカムに苦笑しながらもイルミアが指摘し、なおもため息を吐いてずるいと言い張るアカムはさておいて、昼休憩もそろそろ終わりになるイルミアは急いで目の前の料理を口の中に放り込んでいく

 アカムもそれを見て言っても仕方ないかと思い直したのか負けじと食べ始めた。


 なお、魔力が無くなるとなぜ意識を失うのかということについては、よくわかっていないのだが、生命維持のために意識を切って魔力回復に努めるためだと言われている。

 通常、著名な魔法使いであっても普通に起きて行動している時の魔力回復力はそこまで早いものではなく、それこそ魔力を消費する時には魔力はほとんど回復しないし、消費してからも五分ほどは回復しない状態が維持される。


 魔力を効率よく回復させるなら寝るのが一番で、他には瞑想をして精神を集中させると効率よく回復することができるので、多くの魔法使いは戦闘で魔力を消費し、一定時間回復に努めてから次の戦闘へという流れを取っているのだ。


 一方、アカムの場合は戦闘中だろうとなんだろうと常に異常な魔力回復力を保っている。そのために、意識を落として魔力回復に努める必要もないためにアカムは魔力を空にされても意識を失うことがない。

 普通の人でさえ空になっても頑張れば数秒は意識を保てるのだから空になった魔力が次の瞬間には満タンになっているアカムが気絶のしようがないのであった。

 その代わり、アカムは意識をはっきりさせた状態で魔力が枯渇した喪失感を味わうことになっているのだが。


 それから二人はあっという間に山盛りに並べられていた料理を平らげると二人は金を支払い、仲良く並んで食堂から出ていった。

 アカムとしては暇であったためになんとなくイルミアがギルドへ戻るのに付き添って一緒にギルドへと向かう。


 そうしてギルドへと戻ってくると見覚えのある大男が受付にいるのを確認する。


「あ? ウルグじゃねえか。なんだってこんな昼間っからギルドにいるんだ?」

「おおアカムか、ほれ見てみろよこの魔石」


 アカムの声に気づいたウルグが振り返ると、手に持った魔石を見せてくる。

 その魔石は通常のものよりも二回りほど大きいものだった。


「異常種が?」

「ああ、ウェアウルフのな」

「は!? おいおい! 狼男同士の戦いとか是非見たいんだが、記録してねえのか!?」


 それを見たアカムはすぐさまそれが異常種と呼ばれる、通常よりも強い個体の魔石であることに気づく。

 ウルグも肯定し、何の魔物の異常種だったか言えば、アカムは興奮した様子でその戦いを見たかったと喚く。


「んなもんあるわけねえだろうが。記録水晶普段から持ち歩く馬鹿がどこにいんだよ」

「だよなあ……くそっ」


 ウルグが溜息を零しながらそんなものはないとはっきり言えば、本気でがっかりしたように肩を落とすアカム。

 ウルグ自身獣化した自分と似た姿の相手との戦いを是非第三者の視点から見てみたいという思いはあったのだが、無いものは無いのでどうしようもなかった。


 一方ギルドの方はなにやら難しい顔をした職員が慌ただしく動いていて中にはギルドマスターを呼びにいっていた者もいたようでエルマンドが姿を現した。


「おい、異常種が出たってのは本当か?」

「お、ギルマスか。ほれ、これがその魔石だ。ウェアウルフだったぞ」


 現れたエルマンドにウルグが反応し、手に持っていた魔石を放り投げる。

 それを危なげなくエルマンドが手に掴み、確かに通常の魔石とは違う大きさであることを確認して溜息を吐く。


「これで異常種は六体目か。おい、アカム! 最初の一体を見つけたお前的にはどう思う?」

「だから最初に見つけたのはイルミアだって毎回言ってるだろうが……まあ、あれだ。年に一回出るようになってんじゃないか? たしか六年前も今頃の時期だったし他のも一年ごとに一体、今頃の時期にしか確認されてなかったろ。なら、そう考えるのが妥当だろ」


 エルマンドがアカムの方を見てそう尋ねれば、面倒くさそうにしながらも適当に考えたことをつらつらと話す。

 だが、そのアカムの言葉にエルマンドは目を見開いて驚いていた。


「それだ! 言われてみれば確かに毎年一体だけ、しかもこの時期だけで確認されてるな!」

「いや、それぐらい普通分かるだろ? データとかなんかはそれこそギルドの方でまとめてるだろうに」


 そのエルマンドの反応に首を傾げつつアカムがそういえばエルマンドは首を振る。


「そもそも異常種なんてのが異界迷宮や他の七つの迷宮でも六年前、お前が見つけてくるまで全く確認されてこなかったんだ。そんなんだからな、異常種ってだけで大騒ぎだし手に入る魔石は通常のものよりも遥かに魔力含有量が高く、魔力の充填も可能ときた。そっちの活用法について考える方が先で、次はその魔石がもたらす利益の分配とかで揉めて異常種そのものについて満足に調べられなかったんだよ……」


 どこか落ち込んだ様子で全く検証も進んでいなかったことをその理由も含めて語るエルマンドは、深く肩を落としていた。


「へえ……魔石はそんな特性があったのか。戦いがいのある強敵としか認識してなかったわ」

「確かに。今回俺も初めて異常種と戦ったが、なんて言うか戦ってて楽しいかったわ」

「だよな? なんか本能で戦う魔物とは違って、純粋に戦いを望んでるって感じで好感が持てる」


 そんなエルマンドのことなど知ったことかと、アカムが異常種の魔石事情に感心していた。

 アカムとしては異常種などただ、楽しく戦える強敵だっていう認識でしかなく、どうやらそれは今回異常種と戦ったウルグも同じことを感じたようだった。

 そんな会話にエルマンドは頭痛を覚えたのかこめかみをほぐしつつ大きくため息を吐いた。

 ちなみに二人がエルマンドの様子を無視したのはいつものことだからである。

 エルマンドはその巨体と威圧感の割に案外精神面が弱くいつもちょっとしたことで落ち込むのだ。その代わり回復もある程度早いのだが。


「まあ、いい。一応少しは異常種についても解明できたかもしれないことを喜ぼう。……にしてもアカム、お前よく異常種が確認された時期を覚えてたな?」

「ああ、異常種が確認される時期って毎回毎回、結婚記念日の前後なもんで。さっきもちょうど昔の思い出話もしてたからな」


 いつも通り色々諦めたエルマンドが最後にアカムに確認すれば返ってきた返事はただの惚気だった。

 それを聞いたエルマンドはこの日一番の大きなため息を吐いて疲れたようにのろのろと自らの仕事部屋へと戻っていった。


「そういえばその結婚記念日って今日だっけか」

「なに? 忘れてたの?」

「悪いとは思うがここ最近色々ありすぎたからなあ。お詫びになんか欲しいもんあるか?」

「いらないわよ。私だって正直忘れてたもの。ま、いつも通り家でごちそうを食べましょ」


 そして、ふと今日がまさにその結婚記念日だったことをアカムが思い出し、その言葉にいつの間にかギルドの窓口の奥へと移り、書類などを整理していたイルミアが反応する。

 アカムが、右腕を叩きながら軽い調子で謝るが、彼女もまた忘れていた様でそれについては軽く流された。


 そんな二人の様子に毒されたのかギルドにいた他の職員達も各々の仕事に戻っていく。

 冒険者ギルドは今日も平和だった。


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