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16話 一心同体

 アカムがしばらく茫然と目の前の惨状を見ていると、まるで時間が巻き戻されるかのように削られた地面になだれ込んでいた木々の残骸が元に戻っていき、何事もなかったかのように地面が盛り上がり平らになっていく。

 最終的に何事もなかったかのように破壊する前の道がそこに現れ、道上には八個の魔石が転がっている。


「戻るのか……」

『なるほど自己修復機能があるのですか。迷宮とは不思議なものですね』


 元通りになった景色を見てアカムがホッとしたように呟き、アイシスは興味深そうにその様子を観察していた。

 考えてみれば近距離で戦う冒険者はまだしも遠距離から魔法で戦う者にしてみれば地形の変化は著しいものとなるはずでその痕が残っていてもおかしくはない。にもかかわらずこれまで迷宮を探索していて歪な地形というのは見かけなかったことを考えればそれは当然のことだったかもしれない。

 アカムの場合は今までの攻撃手段が魔物だけに通じるものであったために著しい地形破壊をしたことがなかったために呆然としていたが、魔法の中には周囲の地形を一変してしまうものもあり、それゆえに周囲の地形を破壊する魔法使いも少数だが存在するのだ。

 もっとも物理的な手段でそういった魔法と同じような影響を及ぼすものは存在しないのだが。


「元に戻るのなら……気にしないでいいか」

『それですが、マスター。もし先ほどの攻撃を行うのであれば次は腕を十分に離してから行った方がいいでしょう。今回はマスターの魔力出力の限界ギリギリで魔力を散布して魔力障壁を作ったからよかったものの下手すれば今頃マスターは粉微塵になっていました。実際魔力障壁の防御力もあと少しで破られそうでしたし』

「……は? え、結構やばかったのか? ……うっ!?」


 元に戻るのであれば気にする必要もないと軽く考えていたアカムに対し、アイシスが警告を発する。場合によれば粉微塵になっていたのはアカムのほうであったと。

 その言葉に一瞬思考が泊まるアカムだったが、その言葉を噛み砕いて理解すると冷や汗を流し、顔を青くする。


「オェエエエエ……!!」

『数秒間魔力を空っぽにしましたから当然の反応でしょうね』


 それがきっかけになったのかアカムは急に地面に膝をつき、吐いた。

 それはかつて機械因子オートファクターを装着したときの魔力炉を直結された時と同じ、否、それ以上のものであった。

 先ほどまでは呆然としていたのと一時的に感覚が麻痺していたために何ともなかったのだがある程度落ち着き、さらに衝撃の情報を聞いたことで一気にそれらの反動がアカムを襲ったのである。


 周囲に被害を広げるほどの破壊をもたらしたのは衝撃波。魔法でも何でもない物理的な手段によって引き起こされたソレは周囲にあるものに無作為に襲い掛かっていた。

 それを確認したアイシスは強制的にアカムの魔力炉から魔力をアカムの回復速度限界いっぱいまで引き出し、アカムを守るように魔力を散布させていた。

 純粋な魔力の壁により、何とかアカムは無事であったが、衝撃波から身を守る数秒間の間アカムは常に魔力がほぼゼロの状態であった。


「……ハァ……ハァ……ちなみに……それだけやばい威力が出たのは……どのタイミングだ?」

『……なお、純粋な魔力の噴出による防御効果はマスターの魔力回復速度と同等の速度と量で噴出させ続けなければ到底、防御効果は得られませんので常用はできないことを覚えておいてください。では先にいきましょう、マスター』


 しばらく嘔吐していたアカムが復活し、荒い息をしながらもそう聞けばアイシスはしばらくの沈黙の後、純粋な魔力による障壁についての注意点を説明して迷宮探索を再開しようと話題を逸らす。


「……その反応、明らかにアイシスが横から制御したときからだな? 実際最初に気持ち悪さを感じたのはそのタイミングだったしな?」

『……バレてしまってはしょうがないですね。そうです。マスターの制御時でもそれなりに威力は出ていましたが魔力障壁が必要になったのは私が一時的に制御を引き受けてからです』

「この糞システムがっ!」


 あっさり認めるアイシスに、アカムは罵声をあげながら右腕を思いっきり振りおろし地面を砕く。


『アイシスです。あなたの腕となった機械因子オートファクターを補助する素晴らしき擬似人格のアイシスです。そしてどれだけ乱暴に扱おうとも機械因子オートファクターは壊れませんし、私にも何ら影響はございませんのでご了承ください』

「クソがああああああああああ!」


 アカムの行動に意味はなく、アイシスが人を馬鹿にするように言葉を吐いた。

 その言葉を聞いてアカムは吠えた。天に向かって大声で何度も何度も吠えた。






「はあ……はあ……クソッこうしていても虚しいだけだ。そう……今回のは悲しい事故だった。そう、あの時油断して糞猿をすぐ殺さなかったから起きた悲劇だったんだ……」


 なぜか周囲に魔石が六個ほど増えている中、アカムはブツブツと何かを呟いていた。

 アカムの叫びに引き寄せられたフォレストウルフが襲ってきたのを機械因子オートファクターの力であっという間に撃退したアカムは結局、この腕が何よりも強い力になってくれていることを認識せざるを得ず、よくよく考えればこの腕がなければ先ほどの猿共に殺されていたのだと無理やり納得しようとしていた。


「よし、そうだそうだ。強力な攻撃手段も手に入った。緊急時に使える防御能力も分かった。そう、悪いことは一つもなかったな!」


 そうしてその結果、すべてを前向きに考えることにして自分に言い聞かせるように少し大きな声でそう言った。

 何度も繰り返して同じ言葉を言うアカムの目は灰色のはずなのになぜか淀み濁って漆黒に見える。


『……申し訳ありませんでした。今回のことはさすがにやりすぎました。私にできることは言葉による謝罪のみですがそれでも誠心誠意謝らせていただきます。本当にすいませんでした。これからはマスターの力となるべく全力を尽くします』


 そんなアカムの様子にアイシスも何か思うところあったのか、何度も謝罪の言葉を重ねる。その声は気持ち沈んだ様子でもし、アイシスの表情を見られたのなら悲しげな表情をしていると思わせるものだった。

 アカムもその言葉に反応し自らの右腕をボーっとした目で見つめる。その目は相変わらず濁ったままだ。


『本当にすいませんでした。お願いですから元のマスターに戻ってください……電気ショック』

「あががががが!?」


 悲痛な声でさらに謝罪の言葉を重ねると共にアイシスは少し強めの電撃をアカムへ浴びせた。

 体をぶるぶると震わせること約5秒。

 突然味わった電撃で痺れたアカムは前のめりに倒れた。

 それから覚醒のためにもう一度アイシスは微弱の電撃を流せばアカムは目を覚ます。


「……おえはいああで(俺は今まで)……なにを?」

『マスター! 目を覚まされましたね! 敵は幻覚を使う手強い相手でしたがもう大丈夫です!』


 元の灰色の目に戻ったアカムがボーっとしながらそういった途端、ここぞとばかりにアイシスが畳みかけてうやむやにしようとする。

 そんなアイシスにアカムは呆れたように目を細める。


「お前、反省してねえな?」

『ちっ記憶はしっかり残っていましたか。酷いです。マスターと私は一心同体なのに騙すような真似をするなんて……シクシク』

「言葉でシクシクとか言ってもなあ……」


 アカムはしっかり目が覚めていたし、記憶は完全に残っていた。

 だから、アカムはアイシスの言葉に反省してないことを指摘すればアイシスはわざとらしい様子で言葉を返す。

 そんなアイシスに疲れた様子で突っ込みを入れながらもアカムは立ち上がり、地面に落ちている魔石を全て拾うとアイシスに確認する。


「周囲に敵は?」

『もちろんいません』

「んじゃ、先進むか」


 アカムの問いにアイシスもすぐさま答えればアカムはもう何も気にしていないとばかりに迷宮探索を再開する。

 微妙に意識がどっかにいっていた時の記憶もちゃんと残っていてその時呟いていた言葉も全部がアカムの現実逃避というわけでもなく本心でもあるものだったことと、アイシスに与えられたショックで色々吹っ切っていた。


『マスター。本当に申し訳ありませんでした』

「……別にもう気にしちゃいねえさ」


 そんなアカムにどこか真剣な様子でアイシスが再度謝罪するが、アカムはちらりと右腕をみて、軽く首を振り、歩いていく。

 今回はアイシスの行いにひどい目に合わされたが、自分の力にもなってくれていることは事実で今更手放せないのだからこれからもうまく付き合っていかなければならない。

 それに、今までは一人で迷宮に潜りその間常に緊張を強いられていたが、今は優れた索敵能力で支援してくれて、道中は色々会話ができるということをアカムは好ましく感じていた。


 それからアカムは油断することなく、敵を見つけたらなるべく早く倒すように心がけて、迷宮を進み、次の階層へ行く石版を見つけた。

 アカムは早速次の階層へ行くとすぐに地上へと帰還したのだった。


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