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101話 機械仕掛けの神

 異界迷宮をアカムが完全制覇したことを祝して開かれた祭りから早六ヶ月。

 アカムは冒険者ギルドにそれなりに近いやや小さめの屋敷といった感じの家にいた。


 その家は友人や知り合いの家という事ではなく、アカムの住居である。

 以前の小さいながらも快適な家からこの家に移り住むことになったのは、アカムが冒険者ギルドのギルドマスターへと就任したからである。

 元々、以前から執拗にギルドマスターになることを薦められていたのをついに了承したというわけである。


 ちなみに、就任したのは祭りの終わりに宣言した直後のこと。

 星の雨という二度と見られないような美しい光景に最高潮に盛り上がった後の事だったためか、ギルドマスターになる宣言は非常に印象の薄いものになってしまった。

 同時にエルマンドが退任したことにも触れられたのだが、アカムのギルドマスターになるという宣言ですら印象が薄いのだから、人々の反応は「あっそう」というそっけないものどころか聞き流すレベルの反応で、そのことにエルマンドは哀愁漂う表情をしていた。


 そんなわけで、今やアカムはギルドマスターであり、であればいくら快適であろうと以前の家はいささか分不相応ということで新しく家を買ったのである。

 そして、その新しい家でアカムが何をしているかといえば真剣な様子で祈っていた。


 イルミアが妊娠して十ヶ月と少し。

 順調にお腹の子は育ち、イルミアの体調も万全だった。

 そして今日、ついに強めの陣痛が始まり、子が生まれようとしていたのだった。


 今は、冒険者ギルドの治療所で治療師をしている森精種エルフのクロル・エンヴィール、通称クル婆に来てもらってイルミアのお産を手助けしてもらっている。

 アカムも最初はクル婆の指示に従って温いお湯を用意し、綺麗な布などを用意したりと手伝っていたが、あとは産むだけとなった段階で邪魔にならぬようにと部屋の外に待機してその時を待っている。

 実際にはクル婆に邪魔だからと追い出されたわけなのだが。

 そうして、イルミアも生まれてくる我が子も無事でありますようにと祈りつつアカムは祈っていた。


「んぎゃーー!んぎゃーー!」


 そして不意に赤ん坊の泣く声がして、それから間もなくクル婆が扉を開きアカムを部屋へと招き入れた。


「生まれたのか!?」

「ええ、とっても元気な男の子がね」


 泣き声がしたのだから当然生まれたことは分かっているはずなのに、アカムは部屋に入って第一声そう尋ね、それにやや疲れながらも優しげな表情でイルミアが答えた。

 それからイルミアの隣に綺麗な布にくるまれて横にされている赤ん坊へとアカムは視線を向ければ、猿のように皺くちゃで何よりも愛らしい我が子の姿が目に映り、アカムは自然と笑みを零す。


「よく、頑張ったな」

「ええ……あなたもずっと傍にいてくれてありがとう」


 それからアカムはイルミアの手を握って、子を産むという偉大な事を成し遂げたことを(ねぎら)った。

 それを受けてイルミアは微笑み、感謝を示した。


 こうして、アカムとイルミアの子は無事に生まれた。

 この後二人で相談して子の名前はコラルドと名付けられた。


 それからアカム、イルミア、コラルド、そしてアイシスの四人家族は温かく幸せな時を過ごした。






 そして、月日は流れ、数十年経ったある日。

 イルミアが寿命によりこの世を去った。

 そのことを何より悲しんだのは他でもないアカムだった。

 全身が機械になっているが故に涙こそ流さなかったが、それでも悲痛な表情を浮かべイルミアの最期を看取った。


 そしてイルミアが死に、その遺体を然るべき場所へ納めてから数日後。

 アカムは、息子のコラルドに片手半剣バスタードソードを託し、姿を消した。


 誰かが、アカムが一体どこへ消えたのかとコラルドに聞けば、呆れた表情でコラルドはこう答えた。


「親父は、馬鹿みたいに母を愛してましたからね。まあ、そういうことです」


 そう答えるコラルドは呆れながらも、アカムが消えたこと自体に悲しんだり怒ったりするような様子は見せなかった。

 深い愛情を長く受けたコラルドからしてみれば、予想していたことでありそんな父の在り方を好ましいと思っていたからだ。

 ただ、ほとんど同時に母と父、そして小さな姉を失ったのはほんの少しだけ寂しいと感じていた。






 白く、白く、ひたすらに白く何もない空間。

 そこにアカムはいた。

 全身鎧を着たようにも見える機械の身体でそこにいた。

 そしてその隣にはイルミアの姿もあった。

 それも子を産むよりも少し前の、いちばん美しかった時の姿でそこにいた。


「これは……?」

「どうなってるのよ?」


 そうして互いに大好きな人が傍にいることよりも現状がどういうことなのか理解できず二人して呆然としながら首を傾げる。

 そんな二人の前に突然、一人の人影が現れた。


「よう、久方ぶりだな」


 突然現れ脈略も無く軽い調子でそう言ってきたのは、黒髪の青年と言った風貌の男。

 それは超常の存在を自称するレイであった。


「っと、そっちのイルミアさんとは初めてだったな。うん、まあ軽く自己紹介しておくと俺はレイ。終焉始源の神(ゼ  ロ)なんて呼ばれているしがない神だ」

「神!? いや、そーか、神か……」

「そんなっ……ことがあるのね……」


 そうして現れたレイは自らを神だと称した。

 そしてアカムも、イルミアもその言葉をあっさりと受け止め嘘ではないのだと理解させられる。


「さて、二人ともまだ混乱中のようだが、とりあえずお前ら死んだからその辺り思い出してみろ」

「死んで……」

「ええと……」


 レイの言葉にアカムもイルミアも素直に死んだことを受け入れ、なぜ死んだのかを思い出そうとする。

 そして少ししてすぐにそれを思い出すことができ、同時にここがどういう空間なのかおぼろげに理解した二人は同時にハッとした表情で顔を上げた。


「っ! ってことはここは死後の世界? アカム、あんたも死んだのね……」

「死んだっていうかすぐにお前の後を追ったわけだが」

「は!? ……もう……ほんと馬鹿ね」

「いいじゃねえか。本来なら元々俺だって死んでておかしくない歳だったわけだし」

「ばーか」


 思い出した二人は早速とばかりに惚気たような会話を繰り広げ、その様子を面白そうにレイが眺めていた。


「さて、もう分かると思うが二人が今こうしてここにいるのは二人が死んだからであり、『永遠の契』の契約が履行されたためだ」

「ああ、そういえばそんなものあったな」

「すっかり忘れてたわね」


 それからレイが話を進めると、かなりいい加減な返事が返ってくる。

 そのことに苦笑しつつも、本人からすれば数十年も前のことなのだから仕方がないかと思い話を続けることにした。


「アレの効果は覚えてるな? 契約は成立し、お前らは無事、死後も永遠に伴にいることになったわけだが、二人一緒に転生するわけではないんだな、これが」

「は?」

「どういうこと?」


 面白そうに口元に笑みを浮かべるレイに言われたその言葉に、アカムもイルミアも呆然とする。

 死後ずっと一緒にいて転生していく。

 そういう話だったはずだと。


「いやいや、悪い話じゃない。お前たちは今のお前たちのままこれから永遠にいられるようになったってだけだ」

「それは……何が違うんだ?」

「転生だと記憶はリセットされるし人格だって変わる。なんとなく転生後の世界で二人は出会い惹かれあうがぶっちゃけほぼ別人になるようなものだ」


 死後永遠に伴にいられるとはいってもそれは魂の話であり、ずっと記憶を受け継いで過ごせるわけではない。

 それはアカムも了承していたことで、その上で魂だけでもイルミアとずっと伴にいたいと願ったからこそ『永遠の契』を報酬に選んだのだ。

 だから別にそのこと自体には文句は無かった。


「なんとなく分かるだろうが、お前たちは完全に記憶を保持したままこれからずっと伴に在れるようになった。はっきり言ってしまえばお前ら二人は神になりました。おめでとう」

「「……は?」」


 それから告げられた言葉を、さすがの二人も受け止めきれず呆然として固まった。

 そんな二人にレイはもう一度告げる。


「アカムもイルミアも既に神。ちなみに俺の権限で二人を神にした。正確にはアカムを神にして、それから『永遠の契』の効果が強い関係性を生んでイルミアも神になりましたとさ」


 再度告げられた言葉に唖然としながらも、レイの言葉は嘘でなく真実なのだと直感的に悟ってしまう。

 そうしてしばらくしてようやく二人もそれを受け止めることができ、最終的にまあ一緒にいられるならなんでもいいやと諸々の考えるべきことを放棄して二人抱き合った。


「全く……あなたたちは神になっても相変わらずですね」

「っ!? その声は!?」

「一体どこに!?」


 そんな二人の様子を窺っていたある存在が呆れたように言った言葉に、アカムとイルミアは驚いた様子で周囲を窺う。

 そんな二人の目の前に光が集まったかと思えば見覚えのある姿が現れた。


「また、会えましたね。マスター。母上」

「アイシス!」

「どうしてアイシスもここに?」


 それはアイシスだった。

 姿を現し一礼するように頭を下げるアイシスは悪戯を成功させた子供のように笑っている。

 神になったという訳の分からぬ展開から、唐突によく見知ったその姿を見てアカムもイルミアも嬉しそうにしながらも、どうしてここにいるのかと疑問に思う。


「そりゃまあ、アカムが神になったら諸々で関係が強いアイシスも神になっちゃうって話だよ」

「元々、世界に近い存在の精霊でしたからね。マスター達とは違いすぐに神として目覚めましたのでこうして隠れて控えてました」


 そんな二人にレイとアイシスが軽く説明を入れてきた。


「そうか……これからもよろしくな!」

「よろしくね、アイシス」

「はい、お二人さえよければこれからも傍にいさせてください」


 その短い説明でも不思議と頭にスッと入ってくるように状況を理解した二人は、思わぬ再会にただ素直に喜んだ。

 アイシスも自然に受け入れてもらえてどこか嬉しそうにしていた。



 それからアカムたちはレイから神の基本的な役割や、これから何をしたらいいのかといったことを教わり、神に与えられる装備などを受け取った。

 伝えることを伝えたレイは「後は好きにしろ」とだけ言い残して何処かへと消え去った。


 残されたアカムたちはその後、神として常に一緒に行動し数多の世界を旅していった。

 彼らはその存在が続く限り永遠に伴に生き、幸せを享受する。


 その幸せを享受する中で、アカムはあらゆる世界において機械に関して卓越した能力を見せた。

 やがて、神界でアカムはこう呼ばれることになる。


 機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナと――――


これにて完結です。


これまで読んでいただき本当にありがとうございました!

やや駆け足感があるのは否めませんが、子育てとかギルドマスターになってからのあれやこれやは、また別の物語になるかなと思い、最後はこのような形になりました。


それでは改めまして。

ありがとうございました!

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