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第四話  おじいちゃんと親戚たち

あたしとママとおばあちゃんは家に入った。おばあちゃんの家族構成とか、あたしの親戚はおばあちゃん以外に誰がいるとかは全く知らなかったから、玄関に置いてある靴の量に驚いた。

「家族、多いの? あたしの親戚って事?」

あたしはおばあちゃんに尋ねてみた。不思議と、もう心を許してしまっている自分がいる。

「多いわよ。でも、今日来てる中にはおばあちゃんの古くからの知り合いや友人もいるわ。菜乃葉のお母さん以外にもおばあちゃんには子供がいるし、孫もいるわよ。でも、ほとんどの孫たちはもう大きいから田舎を出て都会で働いているけどね」

「へ~、おばあちゃんって友達多いんだ。おばあちゃんの孫って、あたしのいとこって事だよね? 今はいないのか、残念だな」

「あぁ、でも真琴という子がいるわよ。高校一年生だけど、孫たちの中では一番菜乃葉と年が近いはずよ」

「真琴ちゃん!? 良い響きね~」


真琴ちゃんかぁ……。どんな子かなあ。ウキウキしながらおばあちゃんに続いて居間に向かった。廊下かなり長いし、ドアの数が多い。まさに豪邸って感じ。


おばあちゃんが襖を開けた。一斉に居間にいた人々の視線がこちらに向いたので、あたしは少し後ずさりしてしまった。居間の中央に置いてあるテーブルには、お酒の瓶やご馳走がたくさん並んでいる。あたしとママに対する歓迎って事? 家出少女のママと、その娘のあたしをこんなに歓迎してくれるんだ……。


「香織、菜乃葉、入って。みんな、急に呼んでしまってごめんなさいね。私の娘の香織と、孫の菜乃葉です。もっとも、私と菜乃葉に至っては今日初めて会ったんですけどね」

おー、よく来たねぇ、座りなよ……。初めて会うたくさんのおじさんやおばさん達に歓迎された。この人たちの中には、あたしの親戚もいるんだなぁ。

「菜乃葉ちゃんって言うのかい。香織もえらく綺麗になったな。二人とも、こっちきて座りな」

「あ、はい。ありがとうございます。ママ、あの人は?」

日焼けした丸顔のおじさんにそう言われて、あたしはこっそりママに聞いてみた。

「ママの兄さんよ、香織の叔父さん。兄さん、今までいろいろごめんなさい。この子が冬休みの間だけお世話になります」

「何だよ、改まっちゃってさ~。いいんだ、いいんだ。昔の事なんぞ誰も気にしちゃいないさ。いくつ? そうか、中一か。なら育ちざかりだろう。食べな、食べな!」


そう言っておじさんはビールをごくりと飲み、あたしにお寿司と唐揚げを差し出してきた。いただきます、と言って食べる。他にも、見ず知らずのおじさんやおばさんが歓迎してくれてとても嬉しかった。あたしは勝手に、みんなママとあたしに向かって非難して来たり冷たい態度を取ったりされるのかと思っていた。でも、全然そんな事ない。だから嬉しかった。


「お母さん、父さんはどこにいるの? 見当たらないんだけど……。また仕事?」

あたしが料理を食べている間に、居間の隅の方でママがおばあちゃんに訊いているのが聞こえてきた。

「勉さんの事かい? あんたには報せる手段がなかったから伝えてないけれど、二年前に倒れて亡くなったわ。言えなくてごめんなさい。勉さんも香織や菜乃葉に会いたがっていたのに、残念だけどねぇ」


えっ……。ママにとっての父さんって事は、あたしのおじいちゃんでしょ? 死んじゃったの?

「嘘でしょう!? 父さん、死んじゃったの? お母さんは平気なの?」

「そりゃあ、最初のうちは夜通し泣き続けたわ。今だって毎日お線香を上げているけれど、もう泣きはしないわね」

「…………。父さん……。仏壇はどこにあるの? 私、今すぐ行ってくる。明日になったらお墓参りにも行きたいわ。父さんには一番会いたかった……。会って、謝ったり、菜乃葉に会わせたりしたかった……」

「今更悔いても仕方ない事でしょう。仏間は廊下の突当りを右よ。それに、出ていくというのはあなた自身が行った選択じゃない」

「……それもそうね。ごめんなさい、取り乱したりして。そうよ、私が悪いんだわ。菜乃葉、おじいちゃんにご挨拶に行きましょう」

「わかった……」


ママに言われて素直に立ち上がった。そっか、あたし、おじいちゃんに会えないのか……。残念だな。


「ごめんね。菜乃葉のおじいちゃん、もう死んじゃったみたい。会わせてあげられなくて、ごめんね」

「ちょっとショックだけど、あたし怒ってないし、大丈夫。気にしないで、ママ。ご挨拶に行こう?」


ママはたまにふさぎ込んだりする事があるから、ここでもそうなられちゃまずい。あたしは懸命にママを励ました。仏間でお線香を上げて、あたしはおじいちゃんにご挨拶した。


――初めまして、菜乃葉って言います。あなたの娘の、そのまた娘です。会えなくてとても残念です。しばらくあなたのお家でお世話になります。


そう心の中で言って顔を上げると、ママは涙を流しながら手を合わせていた。いくら自分から言えを出たとはいえ、帰ってきたら父親が死んでいたというのは耐え難い事だろう。あたしはパパの記憶がないからよくわかんないけど。


「あら、ごめんね。菜乃葉。行こうか。おじさん達待ってるわね」


ママがそう言って仏間を出た。


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