第三話 初めまして、おばあちゃん
「お母さん……」
あたしのおばあちゃん、町子さんという人は怖そうな人だった。綺麗に整えた白髪にきつそうな目元、そして、若いあたしよりずっと姿勢が良い。
あたしは初めましてだし、ママとおばあちゃんは10年以上会っていない。つまり、完全アウェーだ。ママとおばあちゃんは親子だから少しは頼りになるかと思ったけど、おばあちゃんを目の前にして固まってる。和夫おじさんはここまで送ってくれて、用事があるからと帰ってしまった。
おばあちゃんが口を開いた。
「香織、久しぶりね。何か言うことは無いの?」
ママは、ごめんなさいと言おうとしたんだろうけどおばあちゃんに遮られた。
「違うでしょう。昔の事はもういいの。許したわけじゃないけれど今更蒸し返すつもりもないわ」
「ただいま……」
「おかえりなさい」
さっきのきつい顔が嘘のように、信じられないくらい優しい顔で笑っておばあちゃんはそう言った。ママが言ってた根はやさしいって、こういう事ね。
「初めまして。あなたのママのママよ。あなたのおばあちゃんなの。今まで会えなくてごめんなさいね。おばあちゃんでもばあばでも好きなように呼んでね。町子ちゃん、でも構わないわ。あなた、お名前は?」
おばあちゃんが少し目線を低くしてあたしに話しかけてきた。
「初めまして……。菜乃葉って言います。あの、よろしくお願いします……」
「菜乃葉、素敵な名前ねぇ。香織、あなたセンスあるわね。それにしっかりした子! 菜乃葉ちゃん、私はあなたに茶道を教えようと思っています。最初は面倒かもしれないけれど、慣れたら楽しいし、茶道は素晴らしいわ。一緒にやってみない?」
「う、うん……。あの、全然知識とかないんですけど、お願いします……」
ええ、と言っておばあちゃんが微笑んだ。
「香織、菜乃葉、おいで」
今度はあたしに「ちゃん」付けしなかった。
「ねぇ、ママ。あたし、おばあちゃんの事なんて呼べばいいかなぁ? 普通に、おばあちゃんでいいかな?」
と、こっそり聞いてみた。
「そうね。おばあちゃんでいいんじゃないかしら?」
「わかった! おばあちゃん、よろしくね!」
あたしはおばあちゃんに向かってそういった。
「こちらこそ、よろしくね」
そう言って家の中に三人で入った。