第二話 ドタバタな出発
「菜乃葉ー、準備できたの?」
「ちょっと待ってー!」
ママは田舎に連絡してあたしと一緒に里帰りすることを伝え、あたしとママは大急ぎで準備を始めた。二週間にもなる里帰りだから、かなりの大荷物になってしまった。大きいボストンバッグにも入りきらないので、リュックも使わなきゃいけない。着替えと下着と洗面用具と……。
「バスの時間、もうすぐよー。はやくして」
「わかってるー!」
何度も何度もバッグの中を点検して、ようやく準備完了。慌てて部屋を出る。
「コートと手袋は持った? かなり冷えるわよ」
「え~! 聞いてないし! またやり直し?」
「そのくらい自分で考えなさい。もう中学生なんだから」
「だってわかんないし!」
面倒だなあ……。部屋に戻って手近にあったダウンと手袋を持ってまた部屋を出る。
「そんな薄いのじゃダメよ。もう! ママが選ぶわ」
そんなふうにバタバタしながらようやく家を出た。
田舎まで一日一本しか出ていないバスを逃したら大変だ。幸い、今年初めて降った雪のせいでバスが遅れたのでぎりぎり間に合った。
「どれくらいかかるの? 遠い? 寒い?」
「バスと電車を乗り継いで3時間くらいかしらねえ。田舎って言ってもコンビニやスーパーも普通にあったと思うわ。ただ、歩いて行ける距離ではないわね。雪が降るからかなり寒いはずよ」
「へ~っ。あたしのおばあちゃんってどんな人?」
「少し怖い人かもね……。でも根はやさしい人よ。」
「うわー! 雪だー! すごい! ふわふわ!」
長旅を終えて駅を出たら、外は真っ白な雪の世界だった。
あたしがはしゃいでたら、横に車が止まった。クラクションが鳴らされて運転席の窓が開いた。
「香織ちゃん! よく来たねえ。町子さんから聞いたよ。その子はお子さんかい? 可愛い子だねぇ。乗んな!」
60代くらいかな。少し頭の寂しいおじさんは笑ってそう言った。多分、ママの知り合いだろう。
「やだ、もしかして和夫おじさん? ご無沙汰してますー! 乗せていってくれるのね、ありがとう。ほら、菜乃葉も挨拶」
「こ、こんにちは……」
あたしはおずおずと挨拶した。
「菜乃葉ちゃんって言うのかい。良い名前だねえ。おじさん、ママのママ、菜乃葉ちゃんのおばあちゃんの古くからの友達さ! 今日は頼まれてお迎えに上がったんだ。さ、お姫様二人、乗んな!」
やだぁ、とママは笑いながら白の軽トラに乗り込んだ。
おじさんは気さくで、よく笑う人だった。ママと和夫おじさんは昔の話に花を咲かせて、あたしはよくわかんないから黙って聞いてた。そうしてるうちに、おじさんについたよと言われた。
その家は、時代劇でお侍さんが住んでいそうな昔ながらの日本らしい家だった。そしてとても大きい。
大きいね、とあたしが言うとママはそうだね、と笑ったけど、顔が少し強張っているのをあたしは見逃さない。
「町子さんがお待ちだよ」
おじさんに促されてママとあたしはようやく門をくぐった。あたしのおばあちゃんは、どんな人かな。