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“おおかみさん”と一緒  作者: 雨柚
こぼれ話 “おおかみさん”と赤頭巾の日々
45/58

赤頭巾の初めてのおつかい

 「はじめてのおつかい」をリクエストしてくださったあなたに捧げます。 ←一度使ってみたかった


 以前、読者の方からリクエストしていただいたソニアのおつかい話です。リクエストしてくださった方、ありがとうございました。

 時間軸としては、本編第二章の後半あたりになります。ルーが登場するので“赤頭巾と仔狼”後から“赤頭巾と小さな別れ”の前くらい。


 ソニアは取り立てて好奇心旺盛というわけではない。

 それでも、初めてのことに対する好奇心や興味なんてものは誰にでもあるもので。今回の場合は、それが“初めてのおつかい”だったというただそれだけのこと。


 年齢のわりには少し小さな身体と舌足らずな言葉のせいで忘れがちだが、ソニアももう六歳だ。(エトルタ)の子どもであれば、近所の店にパンを買いに行くくらいのことはとっく済ませているだろう。家庭によれば、日常的に自分の家庭での役割としておつかいをしている子どももいるかもしれない。


 そう、普通の街の子どもであれば。

 ソニアが親に捨てられた子どもで、魔の森にある家に一時的に引き取られていて、両親の迎えが来るまでは森から出られないという制約がなければ、彼女の“初めてのおつかい”はきっと何事ももなく終わっただろう。




「ここどこだろう……?」


 凶暴な魔物が出ることから“魔の森”と呼ばれ、大の男でも入ることを拒む場所でソニアは迷子になっていた。

 クロードから一人で家を出るなと口を酸っぱくして言われているにもかかわらず、ソニアが森を一人で彷徨っている理由は至極簡単だ。


「うーん……るーならわかるかな。るー?」


 少し離れたところで赤紫色の小鳥を捕まえようと構えていたルーは、ソニアに呼ばれたことに気づいてひと鳴きする。

 そのせいで獲物の鳥が飛び立ってしまい、ルーは残念そうにとぼとぼとソニアの方へ戻ってきた。情けなく垂れた耳と尻尾から、鳥を捕まえられなくてしょんぼりしていることが伝わってくる。……実はその小鳥は立派な魔物で、もし捕まえていたらルー自慢の爪が毒に侵されていたところだったのだが、この場にその事実を知る者はいない。


「そにあたち、まよっちゃった?」


 首を傾げるソニアは少し不安そうでもあるが、それよりもこの“ちょっとした冒険”に心をときめかせている様子だ。

 しばらくクロードの家で暮らしていたせいか、クロードとたまに森を散策しているせいかはわからないが、魔の森に対する恐怖感はほとんどないのだろう。彼女は以前、この森の中を一人で泣きそうになりながら走っていたはずだが、そんな事実はもう記憶の彼方なのかもしれない。


「…………でも、がんばらないと」

「ガウ!」


 ソニアは決意を新たに前を向く。

 ルーもそれに応じるように、先の見えにくい暗い森に向かって吠えた。……そっちは彼女たちの目指す場所とは逆方向だとか、迷ったらその場から動かないのが鉄則だとか、そういう指摘をする大人はこの場にいない。いたら、全力で止めただろう。


「だって、はじめてのおつかいだもん」


 そう、ソニアはおつかいの真っ最中だった。

 彼女が“初めてのおつかい”をするに至った経緯は、今から数時間前にさかのぼる。



   ◇◇◇



 本の登場人物に憧れて、自分も真似したいと思う。

 そんなごく当たり前の気持ちが事の発端だった。


「おおかみさん」


 読み終えた絵本を片付けてからしばらくの間、決心がつかずちらちらとクロードの方を見たり、かと思えば目が合うと視線をそらしたりといった挙動不審な動きを見せていたソニアだが、それでも何も言わずに自分の言葉を待っていてくれた彼の態度に背を押され、意を決して声をかけた。

 やっとかという思いを隠してクロードがそれに応える。思いつめたようなソニアの表情に自然と彼の顔も真面目なものになった。といっても、クロードの場合、柔和な彼の相棒とは反対にもともと不機嫌顔が標準なので眉間の皺が消えたくらいの変化しかないが。


「どうした?」

「…………」


 ソニアは押し黙る。問いかけてくれたクロードの声は優しいのに……いや、優しいからこそ言い出しにくい。

 声をかけたはいいがなかなか話を切り出せない自分を待ってくれるクロードが、ソニアは好きだ。沈黙は嫌いじゃない。自分の言葉を待ってくれるクロードの沈黙はむしろ好きだと言っていい。

 目の前にいるのが不器用だけど優しいひとだと知っているから、ソニアはいけないと思っている我儘を口にした。


「……そにあ、おつかいいきたい」


 それは、ソニアの躊躇いを表すような小さな呟き。

 クロードに声が届いただろうかと心配になって、ソニアはいつの間にか俯けていた顔を上げる。


「おつかい、か?」


 確認するように聞かれた。

 ソニアの我儘はクロードの耳にしっかり届いていたようだ。聞こえていないようだったら、きっとごまかしてしまっていただろう。どんなに頑張ってももう一度は言えないから。我儘を言えたことが良かったのかどうかはソニアにはわからない。言って良かったのか、言わない方が良かったのではないかと早くも後悔している。

 胸に渦巻く不安を押し殺してソニアが頷くと、クロードは少し困った顔で今度は独りごちるように“おつかいか……”と呟いた。


「おつかいに行きたいって言い出したのは絵本で読んだからか?」

「うん……りりぃが、たのしそうだったから」


 リリィとはソニアの大好きな絵本の主人公だ。可愛らしいカメの女の子で、いつも元気で明るい彼女にソニアは密かに憧れている。

 そのリリィが活躍するシリーズの最新作は彼女が“おつかい”に行く話だった。だからソニアはおつかいに行きたいと言い出したのだ。昨夜その絵本を読み聞かせたクロードもそれは知っているし、ソニアが羨ましそうにしていたことにも気づいていたのだろう。ソニアの急な我儘にも驚く様子はない。


「おつかい、なあ……」


 クロードは何やら思案げな顔だ。

 駄目だと言われることが怖くて、そんな我儘を言うなと怒られることが怖くて、ソニアはぎゅっと目をつぶった。

 やっぱり、我儘なんて言わなければ良かった。言ってしまった言葉は取り消せない。後悔してももう遅いのに、そう思わずにはいられなかった。


「ソニア」


 ふいに頭をふわりと撫でられる。

 凍りかけた心を溶かすように、その手は温かかった。


「おつかい、行ってくれるか? ちょっと取ってきてほしい物があるんだ」


 “悪いな”と続けたクロードの言葉はソニアの我儘を叶えるためのものでしかなくて。

 ソニアのために、わざと自分から頼んでいるように言っている。それがわかるから嬉しくて、幸せで……なのに、なぜか、どうしようもなく泣きたくなった。


 ありがとう、おおかみさん。


 そう言おうとして、止める。

 色んな気持ちを込めたお礼は心の中だけに留めた。


「うん! たのまれてあげる!」


 借り物の台詞は全く以ってソニアらしくない。

 でも、この方が伝わると思った。絵本を読み聞かせてくれたクロードにも聞き覚えがあるはずだから、きっとわかってくれると。

 そんなソニアの考えを肯定するように、クロードは見たことがないほど優しい顔で笑ってくれた。それはたった一瞬のことだったけれど、ソニアにはそれで十分だった。

 大切なひとが自分に笑いかけてくれる。それがソニアにとって何よりも嬉しい。






「いってきます!」

「ガウ!」


 何度も何度も振り返って、おつかいに行くソニアを見送ってくれるクロードに手を振る。

 家の前に立つ影がどんどん小さくなって見えなくなるまでソニアは手を振り続けた。



   ◇◇◇



 クロードに頼まれた任務(おつかい)の内容は“夕食に使用する木の実を拾ってきてほしい”というものだった。

 木の実がある場所はクロードの家の近くで、ソニアも散歩で何度も行った覚えがある。そのときはもちろんクロードも一緒だったが、今日は一人なのだから自分で頑張らなくてはならない。クロードに言われ、お供にルーを連れているが……ルーはまだまだ子どもだ。やはり自分がしっかりしなくては。

 近くを歩いている虫に前足を繰り出しているルーを横目に、ソニアはそう思った。


 気分はルーのお姉さんである。初めてのおつかいに浮かれきっていつになくお姉さんぶっているソニアだが、実はルーの方が年上だという事実を彼女は知らない。

 人間より遥かに寿命の長い魔物(ルプス)の仔であるルーはこれでも十歳。……まあ、ソニアもルーも子どもなのに変わりはないし、精神年齢は同じくらいかもしれないが。


「お、お、お、おつかい~♪」


 即席で作った歌――作詞・作曲:ソニア――を口ずさむソニアは誰が見ても上機嫌。そんな飼い主、もとい友人につられたのか隣を歩くルーもご機嫌な様子である。

 クロードに持たされた籠には木の実がいくつか入っている。これと同じ物を採ってくるように頼まれているので、籠を振り回しすぎて落とさないように注意する必要があるのだが、今にも籠からこぼれ落ちてしまいそうだ。ソニアがリズムに合わせて籠を振る度に中でころころと転がっていた。


「おっつかい~♪ おっつかい~♪」


 ソニアは歌は上手いのだが、作詞のセンスはあまりないようだ。先程からただただ“おつかい”を連呼している。おつかいという響きが気に入っているということもあるのかもしれないが。


「ガウ、ガウ♪ ガウ~♪」


 ルーもソニアの歌に合わせるように声を上げる。

 楽しげな一人と一匹の様子は、ここが禍々しい魔の森と呼ばれる場所であることを忘れそうなほど微笑ましい。


 実のところ、ソニアは魔物避けの魔石を持っているし、元・野生の魔物である番犬(ルー)もついているのでその辺りを歩くくらいではそう危険なこともないだろう……と思ってしまいがちだが、魔物の多い場所を子どもだけで歩かせるなんて子どもを死なせに行くようなものである。

 普段の散歩に必ずクロードがついているのはただ彼が過保護なだけではなく、魔の森が本当に危険な場所だからだ。一瞬の油断が命取りになる。ルーが生まれ、クロードとソニアが住んでいるのはそんな場所だった。


「あっ!」


 大きな木の幹を駆けあがっていく可愛らしい動物を見つけたソニアは思わず声を上げる。

 あの見た目はおそらくリスだろう。前に読んだ絵本に出てきたリスにそっくりだ。


 でも……あれ? うーん……りすさん、だよね?


 そう、本当にリスにそっくりなのだ。ただ、だいぶ大きくて牙が生えていることを除けば。毛並みが毒々しい黒と赤の斑だろうと、ソニアにとっては可愛いリスに違いはない。……それはリスではないと、そもそも動物ではなくて魔物だと教えてくれる大人がいないというのは何とも恐ろしいことである。


「りすさん!」


 目の前の生き物を心の中で勝手にリスだということにしたソニアは嬉しそうに手を伸ばす。

 当の“リスのような生き物”は警戒するようにしばらくじっとソニアを見つめていたが、やがて心配ないと判断したのか、ソニアの方に近寄ってきた。


「グルルッ!!」


 しかし、その接近を拒むようにルーが低く唸る。

 いつも家でごろごろしている様子からは想像できない、獰猛な獣らしい唸り声。その姿には幼くとも確かに魔物だと感じる凄味があった。

 ルーに威圧され、リスのような生き物は慌てたように逃げて行く。

 ソニアも突然唸ったルーをびっくりしたように見ていた。


「るー……?」


 不安が声に表れる。

 友達がまるで自分の知らない存在になってしまったような気がして、ソニアはおそるおそるルーの名を呼んだ。


「クゥン」


 でも、ソニアの声に反応して嬉しそうに尻尾を振りながらすり寄ってくるルーはいつものルーで。


「るーは、りすさんきらいなの?」


 ソニアの問いに、ルーはフンッと鼻を鳴らす。

 なぜルーがあの可愛い動物を嫌うのかわからないが、彼の様子を見るによほど気に食わなかったのだろう。

 リスに触ってみたかったという思いはあるものの、ルーが嫌がるなら仕方ない。そう思って、ソニアは取り成すようにルーの白銀に輝く毛並みに指を滑らせた。






 魔の森は不思議でいっぱいだ。

 クロードに連れられてもう何度も森の中を散策しているソニアだが、それでも不思議なものは不思議だと思う。


「……そこだ!」


 唐突に後ろを振り向くと、それ(・・)は慌てて土に潜った。……それとは別に少し離れた場所の茂みも揺れた気がしたが、気のせいだろう。ちょうどソニアが振り向いたときに動物か何かが通ったに違いない。


「…………」


 じいぃっとソニアとルーが見つめれば気まずげに葉が揺れ、焦ったように花が閉じたり開いたりする――それは、動く花だった。

 クロードと共に歩いているときにも見かけたことがあるので動く植物がいることは知っていたが、こんなに間近で見たのは初めてだ。クロード曰く“悪戯好きだが危険はない。ちなみに食べられない”とのことなので、触っても大丈夫だろう。ソニアがそっと手を伸ばすと、それから逃れようとするように茎がしなった。

 何だか嫌がられている。


「……むぅ」


 追いかけてきたくせにと少し不満に思いつつ、無理やり触るのは悪いことだとソニアは早々に諦めた。動くところをあまり見せないという花の動くところを見られただけでも良しとしよう。


 だるまさんがころんだ、みたい。


 そんなことを考えながら、ソニアは相手がへとへとになって動かなくなるまで“動く植物”との交流を楽しんだ。




 もうついて来ないのか、花はそこから動かない。

 へたりと萎れてしまった葉っぱが哀愁を誘う。

 何だか可哀想になったソニアは、悪戯好きな花にポケットに入れていたクッキーを少し分けてあげた。……といっても、花の傍に一枚クッキーを置いただけだが。花には水だろうと、ついでに持ってきていた水筒の水をかけてあげる。

 なんとなく花がお礼を言っているような気がして、ソニアは微笑んだ。



   ◇◇◇



 途中、道がわからなくなるというハプニングにも見舞われたが、どこからか現れた綺麗な蝶に導かれるようにしてソニアとルーは目的の場所に辿り着いた。

 ここまで案内してくれた蝶は到着すると同時に溶けるようにして消えてしまい、ソニアはそれを不思議に思ったが、魔の森ではよくあることなのかもしれないと気にしないことにする。動く植物と突然消える蝶のどちらが不思議かと問われれば、どっちもどっちだと答えるしかない。


「わあ、いっぱいある!」


 赤い葉と捻じれた幹が目印の大きな樹。

 その下にはお目当ての木の実がこれでもかというほど落ちていた。普通ならイノシシでも突進してきて落ちたのかと疑うほどの量だが、ソニアは“今日は多い”くらいにしか思わなかったようだ。素直なのは良いことである。


 しばらく木の実を拾って籠に入れることに夢中になっていたソニアだが、生き物の気配を感じて顔を上げる。


「あっ、うさぎさんだ!」


 ソニアの傍を通りかかったのはウサギによく似た生き物だった。いつかのリスとは違い、色も形もウサギにそっくりである……角が生えていること以外は。


「……っ、かわいい」


 ぴょこぴょこと角つきウサギが動く度、その愛らしさに思わずソニアの頬がゆるんだ。

 そして、ふわふわの毛に触れようと手を伸ばそうとして、はたと気づく。今度もルーが嫌がるかもしれない。


 ソニアが横目でそっとルーの方を窺うと、ルーは蝶に夢中だった。

 ここまで案内してくれた不思議な蝶とは異なり、なんだか禍々しい色合いをしているが、ルーにはそんなことはどうでもいいのか熱心に追いかけている。捕まえようと一生懸命にジャンプしている姿が微笑ましい。

 ソニアはルーに“がんばれ”と心の中でエールを送りつつ、角つきウサギに向き直った。


「うさぎさん」


 そう、呼び掛ける。

 角つきウサギがソニアを認識して近寄ってくる前に、近くの茂みががさりと揺れた。咄嗟にそちらに目を向けるが、何も現れない。訝しく思ったソニアはしばらく茂みを見つめていたが、いつまで経っても何の変化もないため、気のせいかと首を傾げながら視線を戻した。

 しかし、先程まであった存在の姿はなく、ソニアの口から間の抜けた声が漏れる。


「……あれ?」


 驚いたことに、角つきウサギはもういなかった。キョロキョロと辺りを見回すが、文字通り影も形もない。

 またしても触れなかったと落ち込むソニアの瞳にキラキラと輝く白い石が映った。さっきまで角つきウサギがいた場所に落ちているそれは仄かに光を放っていてとても綺麗だ。目に痛いほどの純白は角つきウサギを思わせ、ソニアの興味を引くには十分だった。

 角つきウサギの代わりにと、本当にウサギに取って代わったように現れた石に手を伸ばす。


「あったかい」


 冷たいとばかり思っていた石は、陽光を受けた地面のように温かい。

 ここは日陰なのに、やっぱりこの森は不思議な場所だとソニアは思った。不思議だけれど、素敵な場所だと。

 不思議な温かさをもつ石はまるで先程の角つきウサギを閉じ込めたようで。いや、むしろ角つきウサギそのものかと思ってしまう。


「クゥン」


 ソニアが石に名前をつけて大事にポケットに仕舞った頃、蝶を取り逃がしたルーが傍に寄ってきた。


「るー、ちょうちょさん、どこかにいっちゃったの?」

「ガウ!」

「そっか……じゃあ、いっしょにきのみひろう?」

「ガウッ!!」


 傍目には会話になっているのかいないのかわからないやり取りだったが、当のソニアとルーは気にせず木の実を拾い始める。

 少しすると、そう大きくはない籠に木の実がこんもりと積まれた。


「ガウ!?」


 ルーが口に咥えた木の実を籠に乗せようとして籠をひっくり返してしまう。どうやら、前足が籠に当たってしまったようだ。


「……るー」


 ルーの失態にさすがのソニアも呆れ顔である。

 しょんぼりしたルーは耳と尻尾を垂れさせて反省の意を示す。


「クゥン……」

「しかたないなあ、いっしょにひろってあげる」

「ガウ!」


 ルーの頭をぺしっと叩いてから、ソニアは散らばった木の実を集めた。もちろん、再び木の実を集める羽目になった原因のルーも前足や口を使って器用にソニアを手伝うが、そこはやはり猫の手ならぬ魔物の手。あまり役に立っているとは言い難い。

 最後に、少し離れた場所まで転がってしまった木の実を拾い集めたソニアの視線がある一点で止まる。


「……にてる」


 それは、自分と同じ名の花に似た赤い花。赤い花(ソニア)より色が濃く、花弁が多い。でも、一目見てあの花を思い出すほどには似ていた。


「…………おみやげに、しようかな」


 誰に、なんて言わなくてもわかる呟きは森に響いたルーの鳴き声に掻き消された。



   ◇◇◇



「るー、おうちってどっちだっけ?」

「……ガウ」

「あっち?」

「……ガウ?」

「そっち?」

「……クゥン」

「うーん…………あっ、さっきのちょうちょさん!」

「ガウガウ!!」



 ――――彼らのおつかいを裏から支えた大人たちがいることを、まだ幼い一人と一匹が知ることはない。





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