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“おおかみさん”と一緒  作者: 雨柚
第三章 “おおかみさん”と森の外
39/58

赤頭巾と狼そのいち―一緒には帰れない

 ソニアの望み通り目の前の扉が開けられることはなかった。

 扉の向こう側にいる人物が動きを止めたからだ。


「ソニア? どうかしたのか?」


 気遣わしげな声も、ソニアにとってはただただ痛い。

 なぜこんなにも優しいひとを拒んでいるのだろう。拒むなんて自分に許されるのか。そう思うのに扉は開かない。開けることができない。

 もう会う資格すらないとわかっていて、扉越しの再会を喜んだ。また名前を呼んでもらえて嬉しいのにその名前を捨ててしまってる。そんな矛盾と罪悪感で頭のなかはめちゃくちゃで。そんななか、はっきりしているのは会いたいけれど会いたくないということ。

 今さら会わせる顔もないが、それ以上に、ソニアは決別の言葉をクロードの口から聞きたくなかった。


「………………」


 扉の向こうでクロードが息を吐く。

 呆れられたのだろうか。ソニアのことが嫌になったのだろうか。……また、捨てられるのだろうか。

 嫌な想像ばかりが頭に浮かんでは消えていく。

 そんなとき、クロードが動く気配がした。


 おおかみさん、どこかにいっちゃう……っ。


 あんなに優しくしてもらったのに勝手に家を出て、挙句に今も扉を開けないでなどと我儘を言うソニアに愛想をつかすのも当然のこと。きっとここから離れていってしまうのだろう。

 そう考えて、身体が震える。寒くて寒くてたまらなかった。心に雪でも降ったみたいに内側から冷えていくような、そんな感覚。なのに頬を伝う涙ばかりが熱いから、頭はぼうっとしたまま。泣き喚いてしまいたいのに、凍りついて声も出ない。


「……っ」


 今にもクロードが行ってしまいそうな気がして口を開くが、自分には何も言えないと気づいた。……“行かないで”なんて、どの口が言えるのか。

 ぎゅっと握った拳を扉にぶつけることもできず、ソニアは扉に額を預ける。

 傍から見ればさぞ滑稽なことだろう。拒んでいるのに追い縋るように扉に貼りついているのだから。


「ソニア」


 その呼びかけは間近で聞こえた。

 クロードはこの場から去っていない。扉の向こうに座り込んでいるようだ。

 それに気づいたソニアは呆然とする。


 ……なんで。


 それでは、まるで――まるで、ソニアを待っているみたいではないか。


「お、おかみ……さん」


 そう思ったらたまらなくなって、思わず声に応えてしまっていた。


「怪我はないか?」

「……うん」

「お前の声を聞くのは久しぶりだな。俺が仕事に行ってる間、ちゃんと飯食ってたか?」

「……うん」

「絵本ばっか読んで夜更かししてねえだろうな?」

「……してないよ。しゅてふぁんさんが、おうたうたってくれたから」

「ああ、あいつ、カラスのくせに歌上手いよなあ」


 扉の向こうで柔らかく笑う気配がする。

 扉を挟んでいるのにごく普通に会話していることが不思議で、でもなぜかそれにホッとした。

 身体から力が抜けて、ずるずるとその場にへたり込む。


「ソニア」


 自分を呼ぶ声が心地良い。すぐに失ってしまうものだと知っていても、もうすでに失ってしまったものだとわかっていても、浸らずにはいられなかった。


 だって、だいすきだもん。


 甘やかしてくれる声も。

 頭を撫でてくれる手も。

 何気ない話を聞いてくれる時間も。

 ……全部、好きだった。


 せめてもっと声がよく聞こえるようにと、扉に耳を当てた。そうやって扉に身体を預けた格好で、ソニアは膝を抱える。

 目を瞑ってしまえば、二人の間に扉なんてなくてソニアの隣にクロードがいるような気がした。


「ソニア」


 黙ったままのソニアに、もう一度クロードが呼びかける。

 何度でも名を呼んでほしかったけれど、その声に応えた。もっと声が聞きたいと、もっと話してほしいと、そう思ったから。


「ソニア――まだ、俺はお前を“ソニア”って呼んでもいいのか?」

「……っ!」


 そこでソニアはクロードの家に置いてきた宝物のことを思い出した。忘れるはずもなくて確かに覚えていたのに、無意識にそれを受け入れていた自分に愕然とする。


「……ううん、わたしは――」


 言葉に詰まる。

 何と言えばいい?

 ソニアじゃないと答えるのか。ロザリーだと名乗るのか。なぜかそのどちらもできなくて、ソニアは戸惑った。アベルにはできたのに、シュテファンにも言えたのに……どうして、クロードだとできない?


「わ、わたし、は……」


 焦りばかりが生まれて、言葉にならない。


「ソニア」

「……っ」


 そうじゃないと言わなくてはいけないのに。


「そう呼ばれるのは嫌か?」

「……いやじゃ、ない」


 そうして、クロードが用意してくれた逃げ道に逃げる。

 自分の名前を問われているわけではなかったから、だから答えられた。そんな言い訳をする。心ではとっくにわかっていることを認めたくなくて、頭でごまかしてばかり。


「もう陽が落ちるな」


 ソニアはその言葉に導かれるように顔を上げる。部屋の窓には格子が嵌められていたが、硝子越しに赤く染まった空が見えた。


 きらい。……ゆうひはきらい。


 みんな家に帰っていく。

 街の人々は日が暮れると家に明かりを灯して、温かい料理を用意して、家族でともに過ごすのだ。

 でも、ソニアは夜の闇が迫るなかを独りぼっちで過ごす。それが嫌で嫌でたまらなかった。そっと自分の家を覗いては“帰ってくるな”と怒鳴られるのが悲しくてならなかった。


「そろそろ帰ろうか、ソニア。俺の家に」


 だから、こんなこと、今まで誰にも言われたことがなかったのだ。


「かえれない……」


 意識もせずに紡がれた小さな呟き。

 それは咄嗟に出た言葉だったが、ソニアが自分の状況を思い出すには十分だった。


「かえれないよ、おおかみさん……っ」


 宝物を置いてきた。

 そんな言葉でごまかしていたけれど、ソニアはクロードを捨てたのだ。自分が親に捨てられたように、彼と彼から貰った名前を捨て去った。

 そうやってクロードより父親を選んだのに、その父親に売られて。

 そんな自分がどこに帰るというのだ。

 クロードの家に? そんなの、帰れるわけがない。

 ――帰りたくても、帰れない。


「“行きたくない”んじゃなく、“帰れない”なんだな」

「っ」


 指摘されて初めて、クロードの家がソニアのなかではとっくに“行く場所”ではなくなっていることに気づく。


「“帰れない”なら……帰る場所があの家だって言うなら、無理やりにだって連れて帰る」


 いつのまに、あそこが“帰る場所”になっていたのだろう。

 ソニアの家族はあそこにいないのに。

 家族よりも温かいひとと“おかえり”と“ただいま”を繰り返したからだろうか。


「…………」


 無理やりにでも連れて帰ってほしいと、そう願ってしまった。

 クロードにここまで言わせておいて自分から帰りたいと言えない自分が嫌で……嫌で嫌で嫌で。


 きらい。わたしなんて、だいっきらい。


 両親に優しくしてもらえない自分に価値なんてなくて。

 誰にも愛してもらえない自分は悪い子で。

 だから、クロードにも嫌われているはずなのだ。どれだけ優しくしてもらっても、思い上がってはいけない。

 そんなソニアの考えを、クロードはいとも容易く壊してしまう。


「お前がいないと俺は寂しいみたいなんだ、ソニア」


 寂しい?

 寂しいなんて、そんなの――そんなの、自分と一緒じゃないか。


「っ……わたし、“そにあ”になれない! おおかみさんからもらったなまえっ、おいてきちゃったから……っ!!」

「でも、ロザリーにはソニアって名乗ったんだろ?」

「……っ」


 “ソニア”になりたいと思った。

 彼にこんなに愛される“ソニア”になりたいと。

 いないと寂しいと言ってもらえるなんて、きっと自分のことじゃない。

 だから、“ソニア”になりたいと……誰かに愛してほしくて、でも誰よりも彼に愛してほしいと思った。


「正直、ちょっと嬉しかった」


 その言葉は、まるで“お前がソニアでいいんだ”と言ってくれているようで。


「……おおかみさん」


 鍵が開く音がした。

 氷が溶ける音がした。

 自分の中にある何かが壊れて、何かが生まれる。


「本当は名前なんてどっちでもいいんだ。ソニアでもロザリーでも、お前がお前ならなんだっていいから――俺はお前と一緒にいたい」


 目の前の扉が開く音。

 そっと開けた扉の外に広がる世界は明るく、そして美しい。


 どうしよう。


 嫌われたらどうしよう。傷つけられたらどうしよう。そう考えると、足が竦む。

 でも、きっと目の前にいる人はそんな自分を知っているから。


「帰るぞ、ソニア」


 いつだって、彼は自分(ソニア)に手を差し伸べてくれるのだ。



   ◇◇◇



「おおかみさん」

「ん?」

「……ごめんなさい」

「いいよ」

「っ」

「無事だったなら、それでいい」



 ――――繋いだ手は温かかった。





《 クロード視点 》


 背中にかかる重みに、クロードは“また軽くなったな”と内心溜め息を吐いた。

 幼い少女といってもこれは軽すぎるのではないだろうか。十分に食事をもらえていなかったのか、もともと軽かったが、クロードと暮らし始めてからはだいぶマシになっていたのに。

 そう思って、また溜め息を吐く。


「どうかしたのか?」


 今度は口に出てしまっていたらしい。

 隣を歩いている第五王子に声をかけられた。


「いや、何でもない」


 クロードは素っ気なく答える。

 王子だからといって、彼に(へりくだ)る気はなかった。だから、自分の態度や言葉遣いに多少は何か言われるだろうと思っていたのだが、予想に反し第五王子もその従者も何も言わない。うるさくされずに済んで助かったとは思う。だが、それだけだ。理由が気になるほど二人に興味はなかった。


「ソニアは……寝ているのか」


 クロードに背負われて眠るソニアにちらりと視線をやって、第五王子はそう独りごちる。


「疲れたんでしょうね。色々ありましたから」


 従者の方も、気遣うような眼差しをソニアに向けた。


「…………」


 クロードは何も言わない。話し声でソニアを起こしたくなかったからだ。

 その代わり、“黙れ”という意味を込めて少年二人を一瞥する。

 それが伝わったのか、その先の道中は静かなものだった。



   ◇◇◇



 よほど疲れていたのか、ソニアは翌朝まで眠っていた。

 “おはよう”とクロードが声をかけると、寝ぼけた顔のまま“おはよう”と返してきて、それがあまりに普段と同じだったから笑ってしまった。

 顔を洗って少し目が覚めた様子のソニアは、きょろきょろと辺りを見回す。

 やっと気づいたようだ。


「おおかみさん、ここどこ?」

「王都にある教会だ。ちょっと用があってな」


 ソニアには帰ると告げたものの、事後処理やら何やらで王都から出られず、セルジュの好意により教会の一室を借り受けたのだ。

 フェリクスも部屋を貸すと言っていたが、彼の提示した部屋が王城の客室だったので断った。捕まっている間にソニアと親しくなったという第五王子が残念そうにしていて、少し悪かったかなと思う。……フェリクスの申し出は何か裏があるような気がして受け入れがたいのだ。


「きょうかい?」

「ああ。知って……るよな?」


 ソニアは文字は読めるようだが、変に物を知らないところがある。

 なぜ文字が読めるのかや誰に教わったのかも気になるが、それはおいおい知っていけばいい。クロードもソニアも口数が多い方ではないが、これからはお互いの話をする時間を作ろうと決めていた。

 それはさておき。今はソニアが教会を知らなかった場合にどう説明するかが問題だ。……クロードは面倒臭がりである以上に説明が苦手だった。


「おいのりするところ?」


 ソニアの答えにホッとする。

 教会の役割は他にも色々あるが、子どもの知識としてはこれでいいだろう。


「そうだ。街の教会に行ったことがあるか?」

「うん。おねえさんがえほんよんでくれるの」

「そうか……」


 その“おねえさん”とやらに文字を教わったのかもしれない。

 クロードがそんなことを考えていると、ふいに部屋の扉が叩かれた。気配で誰が来たかわかっていたクロードは来訪者を確認することなく入室を促す。


「おはよう、クロード。君のお嬢さんはもうお目覚めかな?」


 セルジュの言葉に眉を顰めた。彼の言い方ではソニアがクロードの子どものようだ。

 ソニアが家族がほしいというなら彼女を養子にするのは別に構わないが、実子のように言われると自分が一気に老け込んだような気がする。とうに自立しているとはいえ、クロードはまだ十代。親扱いされるには微妙な年頃だった。


「…………」


 ソニアはじっとセルジュの方をうかがっている。

 クロードが不機嫌そうに黙っているので、彼女なりに警戒しているのだろう。もともと人見知りをする方だということは、もう知っていた。

 安心させるように頭をひと撫でするとソニアが手を伸ばしてきたので、そのまま手を繋いでやる。ホッとしたように息を吐く様に、髪がぐしゃぐしゃになるまで頭を撫で回してやりたい衝動に駆られた。


「ソニア、こいつはセルジュ。俺の……知り合いだ」

「おや、クロード。兄とは紹介してくれないのかい?」

「誰がお前の弟だ」

「おおかみさんの、おにいさん?」


 すぐさま否定したが、ソニアはセルジュの軽口を信じてしまったらしい。


「違う。ただの腐れ縁……」

「クロード。私にはお嬢さんを紹介してくれないのかな?」


 にこにこと微笑んでいるが、その言葉は“無駄口叩いてないで紹介しろ”という意味に他ならない。自分から振ってきたくせに、勝手な男だ。よくこれで司教なんてできるなと思う。聖職者のくせに腹黒い男、それがクロードのセルジュへの認識だ。


「こいつはソニア。俺の……」


 言いかけて、止める。

 なんと言えばいいかわからなかった。……クロードとソニアの関係をなんと言い表していいのかわからない。


「“俺の”……なんだい?」

「………………」

「答えられないみたいだね」


 嫌な男だ。

 的確に痛いところを突いてくる。


「実はね、私がここに来たのは他でもない……その話をしにきたんだ」

「どういうことだ」


 セルジュの言葉は正しいが、耳に痛いことが多い。彼は慈悲深いが、他者に対して甘くはないのだ。

 昔、教会で世話になっていた頃にセルジュから受けた説教の数々を思い出して思わず顔が歪んだ。

 セルジュはやや意地が悪い面もあるが、悪人ではない。だが、彼が相手に必要なことしか言わないとわかっていても、何を言われるのかとクロードが身構えてしまうのは仕方のないことだった。


「彼女――ソニアがこれからどうするかについて、今から本人に聞こうと思ってね」


 がつんと鈍器で殴られたような衝撃。

 なぜか、クロードはソニアがこのまま自分の家で暮らすと疑っていなかった。

 フェリクスとの約束で近いうちに自分は冒険者を辞めるし、ずっと森で生活するわけにはいかないのに。何より、クロードに家族はいなくとも、ソニアには両親がいるのに。……たとえ最低な親だとしてもソニアが望むのなら手を離さなくてはならないのに。


「考えていなかったわけではないだろう? ……ああ。もしかして。考えたくなかった、のかな?」

「……うるさい」

「久しぶりに聞いたなあ、クロードの“うるさい”って。変わらないね、君は。その子のためにも、曖昧なままじゃ困るだろうに」


 “少しは変わったと思ったんだけど私の考え違いだったかな”と笑う目の前の男の顔を睨みつける。

 セルジュの言葉はいつも正しくて厳しい。そんな相手に昔からクロードは反発しがちで、その理由が彼の厳しさが親や師が与える厳しさに似ているからだと今はわかっている。


「………………」


 視線を感じて隣を見ると、ソニアがクロードを見上げていた。

 そして、気づく。知らず知らずのうちに繋いだ手に力が入ってしまっていたことに。

 痛みを感じるほどではないようだが、気まずくなって手を離す。すると、なぜかソニアが傷ついた顔をしたので慌てて手を繋ぎ直した。


「……はあ。先に私の意見を言っておくよ」

「いらねえ」

「聞きなさい」

「………………」

「君たちは一緒にいない方が良い」


 うるさい。


「互いに依存し合っていくだけだ」


 うるさい。


「――傷を舐めあっても、傷は治らないんだよ」


 うるさいっ!!


「っ、クロード」


 気づけば、魔剣が手にあって。

 その切っ先はセルジュの首筋を捉えていた。


「懐かしいね、昔はよくこうして剣を向けられた」

「……悪い」

「私は別に構わないよ。試しただけだからね。……それより、お嬢さんがすっかり脅えてしまっているよ?」


 ハッとしてソニアを見る。


「……おおかみさん」

「悪い、気にするな」

「うん……」


 ぎこちなく頷くソニアの頭を撫でようとして……手を引っ込めた。

 剣を握って、あまつさえそれを他者に向けた手で触れるなんてできない。それくらい大切で、大切にしたかったから。

 ソニアはクロードから視線を外し、自分の手をじっと見る。繋いでいた手が離れていたことに、クロードは気づかなかった。


「まあ、いい。クロードがこの子をどう思ってるかも、この子がクロードをどう思ってるかも何となくわかったよ」


 “本題に入ろうか”とセルジュは言葉を続ける。

 その言葉に頷き、クロードは口を開いた。


「ソニアにどうしたいか訊くのは……自分で自分の道を決めさせるのは賛成だ」

「だろうね。君はその子を大切にしてるみたいだから、そう言うと思ったよ」

「だが、今すぐでなくてもいいだろう? 助かったばっかりでソニアも疲れてるはずだ」


 ソニアに目を向けると、戸惑ったような目で見つめ返される。

 不安なのかぎゅっとクロードの服の裾を掴んでいた。


「もっと時間をおけって? 今までに考える時間は山程あったはずだ。この場で決められないというなら私は私の権限で彼女を教会入りさせるよ――貴重な法力持ちだからね」


 セルジュの言葉を額面通りに受け取らない程度には冷静さが戻っている。セルジュ個人としての考えはともかく、王城や教会などの組織はそう考えていると言いたいのだろう。

 そのくらい法力持ちは希少な存在だ。法術師であるセルジュ自身も攫われるようにして教会に入れられたと以前語っていた。


 ソニアが法力持ちだということは、地下牢で囚われた人々から話を聞いて知っている。だが、クロードは他のことに気を取られ、それがどういう意味を持つかまで考えられていなかったようだ。

 指摘されるまで気づけなかったことが情けない。それなりに世慣れたつもりでいたのだが、セルジュからすればまだまだだったらしい。


「というわけで、私がその子と話すからクロードは外に出ていてくれるかい?」

「……ソニアが道を決めなきゃいけないわけも、今でないといけない理由もわかった。だが、なんで俺がついててやれない?」

「強制させたと思われたいなら好きなだけここにいればいい。そうではないなら出ていきなさい。城や教会の古狸共に付け入る隙を与えたくはないだろう?」


 ぐっと拳を握り込む。

 セルジュの言うことはわかる。わかるからこそ、腹立たしい。


 ほんと、子ども(ガキ)臭い。


 そんな自分に苦笑して、クロードはセルジュに背を向けた。


「ソニア」


 ソニアの前にしゃがみ込んで、目線を合わせる。


「おおかみさん?」

「俺はお前が大切だ」


 嬉しそうに笑うソニアが大切で。

 笑っていても瞳の奥に陰がある。喜びつつもクロードの言葉を疑ってしまうその心を守りたいと思う。

 大切だから、自分が彼女の手を引いてやりたかった。でも、それは自分でなくても構わないのだ。


「たとえお前がどんな道を選んでも俺はそれを支えるから――それだけは覚えとけ」


 結局、クロードがすることは変わらない。

 ソニアが何を選んでも、どこを選んでも、誰を選んでも。



 ――――幸せにする、それはずっと前から決めていたことだから。





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