狼そのいち―空っぽの家
妙な胸騒ぎがすると思いながらクロードは森を駆けていた。
今は仕事帰りだ。そう急ぐことはない。……わかっていても、なぜか急がずにはいられなかった。
……嫌な予感がする。
クロードは理由のわからない焦燥感を抱えたまま、家の前まで辿り着く。目の前の見慣れたはずの家に強烈な違和感を覚えた。
気配がない? ……いや、まさかな。
自分の考えを一蹴する。
家ではソニアがシュテファンと留守番をしているはずだ。気配がないなんてことは有り得ない。否、あってはならない。クロードの帰宅を察したシュテファンが既に去っていたとしても、ソニアだけはいるはずだった。今はまだソニアがそう思えずとも、クロードの家は彼女の家でもあるのだから。
だから、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。どうせ、家の扉を開け“おかえりなさい”と告げるソニアの顔を見れば忘れてしまう程度のこと。きっと杞憂だろう、と。
今回の依頼が“辺境の村を全滅させた魔物の討伐”なんていう忌々しい記憶を掘り起こすものだったから、少し過敏になっているだけだ。
そういや、あの日も……だったな。
ギルドマスターからの急な要請と、過去を思い出さざるを得ないような依頼内容。
ソニアを拾ったのも、確かこんな日の帰りだった。違うのは、仕事帰りに街に寄ったかどうかくらいだろうか。
以前は戦闘で気が昂った状態のまま帰宅することなどなかった。依頼先の近くか森の近場の街に寄り、酒場に行くなり何なりして気を静めていたのだが、今はそんなことをしなくても気が落ち着いている。家に帰ればひとがいるというのは存外悪くない。それは相手がソニアだからかもしれないが。
「………………」
先程からクロードの足は止まっていた。
嫌な予感は止まない。認めたくないと叫ぶ心とは裏腹に、呪わしいほど外れてくれないクロードの勘は警鐘を鳴らし続けていた。
「ソニア」
家で待っているはずの少女の名を呼ぶ。
ただ、信じていたかった――熟練の剣士であるクロードが、気配を消すこともできない幼子の気配を読み間違うことなどあるはずがないというのに。
◇◇◇
ソニアがどこにもいない。
その動かしがたい事実を前に、クロードはしばし呆然としていた。“黒狼”として有り得ないほど無防備な背中から、彼の受けた衝撃と動揺の大きさがうかがえる。
「……ソニア?」
誰の声かと思うほど、どこか心細そうに揺れる声。
しかし、クロードに自己を顧みる余裕などなく、彼のみっともない動揺は続いていた。
もう床に就いているのかもと寝台のうえに目をやって、長椅子の背に隠れているのではと探って。誰もいない家の中をまるで誰かを探すように歩き回る。子どもでも入れそうにない籠や小さな箱のなかまで探してやっと“誰もいない”という事実を受け入れるしかないところまできた。
何が、あったんだ……?
どれくらい時が経ったのか。ようやく回り始めた頭で考える。
許可なくは立ち入れないよう結界の張られた家。魔物に襲われた痕跡はなく、荒らされた形跡もない部屋。そして、机の上に置かれた魔石と飾り紐。……導き出される答えは一つだ。
ソニアは自分から出て行った。
……迎えが来たのか。
他人事のように思う。
おそらく、ソニアを捨てた親が彼女を迎えに来たのだろう。どうやってこの家にいるという情報を掴んだのかはわからないが、両親が迎えに来たというのならソニアが自分から出て行ったことも頷ける。ソニアの両親が単独で魔の森に入ったとは考えにくいから、もしかしたら代理を立てたか護衛を連れて来たのかもしれない。
「………………」
クロードは無言で机の上に置かれた魔石を手に取った。
自分がソニアに与えた物。花の形をしたそれをソニアに渡した日は、もう遠い昔のように感じられる。
「二つもいらねえっての」
持って行けば良かったのだ。クロードはもう自分用の魔石を持っているから、返してもらわなくても困らない。第一、これはソニアにやった物だ。
魔物と関わりのない生活をしていて魔石が必要なくとも、あって困る物ではないし売ればそれなりに金になるだろう。……こんなふうに置いて行くくらいなら、クロードの目が届かないところに捨ててくれれば良かったのに。
わかってたことだ。
自分に言い聞かせるように思う。
ソニアが彼女を捨てた両親の迎えを待っていることなど、出会ったときから知っていた。今もずっと両親を待ち続けていることも、頑なに森を出ようとしないソニアの態度を見ていれば簡単にわかる。
全部わかっていて、クロードは期待していたのだ。……なんて愚かで滑稽なのか。
「はっ……ははは」
たまらず、口から笑いが漏れた。どこか空虚なその笑い声は、誰もいない部屋に空しく響き渡る。
目元を隠すように顔に当てられた右手のせいで、クロードがその手を下ろすまで彼の表情が露わになることはなかった。
椅子に腰掛け、魔剣の柄に飾り紐を付ける。クロード以外の気配がなく、音もない部屋はひどく静かだった。
静けさからかいつもより鋭敏になった感覚がひとの訪れを告げる。それまで無表情で淡々としていたクロードの表情がわずかに動いた。
この家の静寂を破るのはいつも彼だ。
「ごっめーん、クロード! 言い忘れてた!」
そう言いながら、相変わらず家主の許可なしに扉を開けたのはマルセル。
そんな彼にクロードは溜め息を一つ吐き、まるで何事もなかったかのように声をかける。彼以外誰もいない家で、もともと誰もいなかったように平然と。
「謝るなら勝手に家の扉を開けたことを謝れ。ノックぐらいしろって、いつも言ってるだろうが」
気安さからくる素っ気ない言葉。それは常と変らぬ対応のはずで。
「…………」
しかし、なぜかマルセルは黙り込んでしまう。探るような眼は真っ直ぐにクロードを射抜いていた。
それに気づかず、クロードは言葉を続ける。クロードは“いつもと同じ自分”を思い返すことで必死で、相手の反応をうかがう余裕がない。
この家に少女がいたのなんて本当に短い間のことで、ずっと独りだったクロードにとって自分の他に誰もいないなんて当たり前のことだったのに、今になって独りだった頃のことが思い出せない。笑えるくらいに無様な自分を直視したくなくて、みっともない己を誰にも相棒にも見られたくなくて、荒れる心を抑えて必死に取り繕う。
「で、何を言い忘れたんだ?」
「何があったの」
クロードが発した言葉に、マルセルが間髪入れずに問いかけた。何かあったことを前提にして問いかけるその口調は断定的で、マルセルの声音はいつになく真面目なものだ。
早々にいつもと違うことがバレたクロードは、思わず息を詰める。なぜバレたのかなんて馬鹿なことは考えない。
「ソニアちゃん、いないよね」
部屋を見回して言うマルセルの強い視線から逃れるように、クロードは無言で彼から顔を背けた。
自分から視線を外したクロードに何も言わず、マルセルはじっと彼を見つめる。
表面上は強気な態度を取りつつも、内心ではいつも様子の違う相棒を心配し戸惑っていた。マルセル自身が持っている情報に加え、少女の姿がないことに何となく事情を察してはいたが。
動揺をどうにか隠そうとするこの年下の相棒が心配だった。独りだった頃の彼の頑なさを知っているから、少女と暮らすようになってから彼を取り巻く空気がどれほど柔らかくなったかを知っているから。今のクロードの様子は、少女と出会う前よりもひどい。
黙ったままのクロードを追及するように、マルセルは言葉を続けていく。
「これ、ソニアちゃんが持ってた魔石に見えるんだけど」
「………………」
「ねえ、クロード」
「………………」
「いつまで黙ってるつもり? 何なら俺、朝まで居座ろうか?」
本当に朝まで――ちなみに、今は昼過ぎだ――続くのではないかという沈黙が続き、やっとクロードが口を開いた。
「…………。あいつは、迎えが来たから出て行った。それだけだ。……推測だがな」
端的に事実を告げる。クロードから見た事実を。……詳細は分からなくとも、限りなく事実に近いだろう。何度も否定しようとしてできなかった事実だ、クロードには認めることしかできない。
「迎え? ソニアちゃんの親が?」
ようやくクロードの口から事情を聞き出せたマルセルは、とくに驚くこともなく話を進める。
「知らねえ」
「……迎えに来たからって、子どもを捨てた親にホイホイその子を渡したの?」
「帰って来たらいなかったんだ。俺が知るか」
眉を顰めて尋ねたマルセルに、クロードは若干苛立たしげに返した。もっともクロードは自分の言葉に苛立ちが滲んでいたことになど気づかなかったが。
そっぽを向いたまま、質問に知らないとばかり返すクロードに今度はマルセルが苛立たしげに髪を掻き上げる。どちらも苛立っていては会話にならないとクールダウンしようとしたが、次のクロードの言葉で完全に頭に血が昇った。
「迎えが来るまでって最初から言ってたしな。あいつにとって、俺はわざわざ別れを言うほどの存在じゃなかったんだろ」
そう言って、クロードは机の上に置きっぱなしの魔石をころりと転がす。
「……っ、この馬鹿がっ!!!」
「!」
しかし、初めて聞いたかもしれない相棒の怒声に一瞬固まった。
そんなクロードの反応に頓着せず、マルセルは立て板に水の如く言葉を連ねる。
「何拗ねてんだよ、このガキ。黙って出て行かれてショックだった? 勝手に決め付けてんじゃねえ!」
言葉を挟む隙などなく、マルセルの怒気に飲まれたクロードには反論することすらできない。
常のふざけた様子からは考えられないような態度で、ひとを食ったようにおちゃらけた口調も今ばかりはなりを潜めている。言葉遣いは別人かと思うほどに荒い。
「裏切られたと思う前に、お前にはやることがあるだろうが!!」
「っ、……お前に何がわかる」
心情を言い当てられ、クロードは思わず椅子から立ち上がってマルセルを睨みつける。怒鳴り返したくなる気持ちを、何とか抑え込んで平静を保とうとした。
口調だけは、その前の行動に似合わず冷静そのもの。ただ、マルセルを睨む目付きは凶悪なほどキツく、言葉尻には強い怒りが滲んでいる。
感情を隠しきれていないその反応に、マルセルが内心ニンマリ笑ったことなど気づかない。
「ああわからないね、ガキの言い分なんて。俺は金持ち商家でぬくぬく育てられた三男坊だし? 親に捨てられたことも、知り合い全員に置いて逝かれたこともないしね?」
「……っ」
何も知らないくせに……っ!!!
当てつけるように自分の過去を口に出され、憤りを抑えきれない。
クロードにとって心底どうでもいい相手が挑発として使う台詞なら軽くかわせる。実際にこれまでそうしてきた。だが、多少なりとも気を許している相手に口を出され、どうしようもなく感情が揺れる。
「だからなぁ…………言わなくちゃわかんないんだよ!!」
怒鳴っているのに、訴えかけるような言葉だった。
怒りのまま握り締めた拳の力が緩まる。
「何年も一緒に仕事やってる俺らですらそうなのに、会ったばっかのお前とソニアちゃんで何も言わずにわかり合えるはずないだろ!」
「……それは」
「あの子に慕われてる自覚がないなら膝抱えて部屋の隅で泣いてろ、この阿呆!!」
マルセルの言葉は、続く。
「出て行ってほしくなかったなんて、一回でも引き止めてから言え! 始めっから諦めてるやつに、ひと一人幸せにするなんてできるわけないだろうが!!」
ある程度頭が冷えたクロードは、マルセルが何を言わんとしているかに気づいた。これは説教だ、と気がつくのにこんなに時間がかかったのだから、よほど自分は冷静さを欠いていたに違いない。
ようやく悟る。
ああ……そうか。
クロードは選んでほしかったのだ。
ソニアに、彼女を捨てた両親より自分といることを望んでほしかった。だが、“居て欲しい”の一言すら言わないでそれが伝わるわけがない。ソニアが居ることを許容してみせるばかりで、自分の望みを伝えることすらしていなかったと今更ながらに気づく。
世話を焼き、物を与えて……ソニアをクロードの日常に入り込ませて、言葉以外で大切だと伝えた気になっていた。
“居ても良い”と告げることと“居て欲しい”と告げることはまったく違うのに。
大切なのはソニアにとって居心地の良い場所を作ることではなく、“ここがお前の居場所だ”と告げることだったのに。
何も言わないくせに期待して……マジでガキ臭いな俺。
大人のふりばかりが上手くなって、大切な相手ひとり幸せにできない自分が恥ずかしい。
マルセルにあれだけ言われても仕方ないだろう。そこまで言われないと気づけなかった自分自身を心底情けなく思う。
「………………」
いつもと変わらず……とまでは言わずとも大分落ち着いた様子のクロードを見て、マルセルは怒りを収めた合図のように溜め息を吐き、手近な椅子を引き寄せて座った。行儀悪く机に頬杖をつき、立ち上がってからそのままのクロードを見上げて静かに告げる。
「ちなみに、俺のとこにシュテファン帰って来てないから。……これ、お前ならどういう意味かわかるよな?」
「……っ」
クロードは聞かされた言葉に目を見開いた。言葉の意味を飲み込み、黒い瞳がいつになく真剣な色を帯びる。
「悪い、マルセル。ちょっと手ぇ貸してくれ」
先刻のマルセルが言った通り、クロードにはやることがある。それも、クロードひとりでは捌ききれないくらい多く。
まずは状況を把握しなくてはならない。情報収集は戦の要。クロードの推測など必要ない。ソニアが出て行ったときの様子を――過去を知る術なんていくらでもある。
「はいはい、相棒のためなら一肌と言わず脱ぎますよ。俺の可愛い使い魔も行方不明だしね」
まるで何事もなかったかのように元の口調に戻ったマルセルは、空中に大きな鏡を出現させ、それに魔術を発動させるための陣を描き始める。
「さあ、何があったのかな?」
マルセルが声をかけると、輝きを増した鏡は数刻前の部屋の様子を映し出した。
◇◇◇
「マルセル」
「ん? なーに?」
「…………悪かった」
「…………はぁ」
「本当に悪かっ……」
「もうホント、クロードってば悲観的なんだからー。やだわー、マルセル困っちゃーう」
「………………」
「あー、それにしても久しぶりに怒鳴って喉痛くなっちゃった。ねえ、クロード、のど飴持ってない?」
「ない。……蜂蜜でも舐めとけ」
――――今日という日ほど、この年上の相棒に感謝した日はない。
《 マルセル視点 》
魔術で過去の映像を見ることによりソニアが出て行ったときの詳細を知り、マルセルは“うーん”と唸る。あまり、いい状況とは言い難い。
あれだけ格好良く説教したのにソニアが喜び勇んで両親について行っていたらどうしよう、という懸念は完全に払拭された。だが、迎えを嬉しがっていないのも、それはそれで問題である。
そして、それより何よりソニアの両親の代理として訪ねて来ていた相手が問題なのだ。
まさか、アベル君とはねぇ……。
クロードを一方的にライバル視している自分より年下の剣士を思い出して遠い目をする。
高位貴族出身のくせに冒険者ギルドに入っている変わり者・アベルは、本人がクロードを“好敵手”と言って憚らないせいか、クロードの魔剣に対して彼が扱っているのが聖剣だからか、よく比較して名前を出されることが多い。彼自身は若くしてAランクという実力の持ち主であり、正義感の強い熱血漢なのだが……。
トラブルメーカーだからなぁ。
どの程度かはわからないが、ソニアが面倒事に巻き込まれているのは必至。
そう考えれば、マルセルの目の前で舌打ちしそうに顔を歪めているクロードにも頷けるというものだ。
「……で、どうする?」
アベルのトラブルメーカーっぷりを思い返していても仕方ないと、そうクロードに声を掛けた。
「とりあえずアベルを捕獲する。どうせ、まだ街に居るだろ」
「うん。下手に探すより、ギルドを覗いた方が早いかもね」
常に困っている人を探して街を徘徊しているアベルのことだ。今日も街にいるだろう。さすがに夜になれば実家に帰っているようだが、幸いなことにまだ日暮れには遠い。ギルドで依頼を受けている可能性もあるが、そのときはギルドで行き先を聞けばいいだけの話だ。
何にせよ、まずはアベルから話を聞かなくては。
「あと……ソニアの父親も探さねえとな」
「本当に父親なのかはわからないけどね。アベル君は騙されやすいし、碌に人の話聞かないし」
後半はただの愚痴だ。
「ま、やること決まったからには、長居は無用だよ。さっさと森を出……っ」
“森を出よう”と言い掛けたマルセルの言葉は、ガラスが割れる音を立てながら窓から飛び込んで来た黒い物体に遮られた。
見覚えのあるその黒いフォルムに“窓を直すのは後で良いかな”なんて暢気に思う。
「大変っ、大変なんです! クロードの旦那ーーーっ!!!」
慌ただしいマルセルの使い魔は、ひっくり返ったような声を出しながらクロードの足に縋りついた。よほど慌てているのか、己の主の存在には気づいていないらしい。相変わらず抜けたところのあるカラスだ。
「おーい、シュテファン。俺もいるんだけど?」
「あ、主殿ーーっ!! もう、一生お会いできないかと思いました……っ」
この使い魔は、一体どんな大冒険をしてきたというのか。
大冒険……楽しそうだな~。
「おい、マルセル」
思考を余所に飛ばしていることに気づいてか苛立たしげに呼びかけてくるクロードに意識を呼び戻されたマルセルはシュテファンに話を振った。何が大変なのか、と。
「そう、大変なんですよ!! ソニアのお嬢がっ、ソニアのお嬢が売られちまったんです!」
シュテファンが叫ぶように答える。
マルセルは今日の仕事の前、“嫌な予感がする”と言っていたクロードの言葉が的中していたことを悟った。
その後、シュテファンから詳しい話を聞き出し、家を出て行った後のソニアの詳細を知ることができた。話を聞いたマルセルの感想は一つ。
……うわぁ、絵に描いたような最低男!
もちろん、ソニアの父親のことである。
シュテファンの話によると、アベルが代理として来たソニアの父親を名乗る男は本当に彼女の父親だったらしい。保護したソニアを引き渡した後、アベルは父親と別れた。ソニアが家を出て行くことを止められなかったシュテファンは、せめてもとソニアと父親の後をこっそり追ったという。
「で、その男はソニアを売ったんだな?」
父親と呼ぶのが嫌なのだろう。クロードは怒気をはらませ、確認するように問い掛けた。
殺気すら感じるクロードの雰囲気にびくっと身体を揺らしつつ、シュテファンが答える。
「はい、借金のカタに引き渡したみたいです。相手は数人の破落戸らしい男たちでした」
「会話ははっきり聞こえてたの?」
「大分近くに潜んでましたから。ただ、そのせいで……」
様子をうかがっている途中、シュテファンは何者かに気絶させられたらしい。目覚めたときには、もう誰一人その寂れた裏路地に残っていなかった。
ソニアちゃんが連れて行かれた場所はわからないのは痛いけど……まあ、何とかなるかな。
どこぞの奴隷商か人身売買組織が連れて行ったのなら、相手も場所も特定しやすい。
本来ならば人探しは専門外だが、Sランクの剣士とAランクの魔導師がいればやってやれないことはないだろう。荒事はお手の物だし、ギルドというツテもある。
「さてと、捕らわれの姫君……ならぬ、お父さんに売られちゃったお姫様を助けに行きますかね。まずは何をしますか、王子様?」
「なら、悪者退治だな」
“尋問ついでに、娘を売るような父親を成敗するか”と、クロードは王子というより悪役のような顔で剣呑に笑う。
珍しく悪ノリに付き合った相棒に、マルセルは“これは相当頭にきてるな”と内心溜め息を吐いた。




