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“おおかみさん”と一緒  作者: 雨柚
第二章 “おおかみさん”と家の中
24/58

赤頭巾の雪だるま その三

 翌朝。夜にまた雪が降ったらしく、家の外の積雪は昨日の朝と変わらないくらいだった。

 クロードよりも早く目が覚めたソニアは、ベッドからヒヤリと冷たい床に足を下ろして窓辺に向かう。窓を覗き、まだ雪が積もっていることに安堵した。


 またあそべる……っ!


 外で遊ぶためにも早く顔を洗ってクロードを起こそうとしたソニアは、いつもと違う場所で寝ている大人二人を見て、目を瞬かせる。

 自分用のベッドがあるはずのクロードはなぜか長椅子に。ソニアが知る限りこの家に泊まったことのないマルセルはテーブルに突っ伏して眠っていた。


 ふたりとも、どうしたのかな?


 不思議に思い、テーブルに目を向けるとそこには所狭しと酒瓶が置かれている。テーブルのすぐ下の床にも空き瓶があった。

 どうやら二人は酒を飲んでいたらしい。

 マルセルの肩に掛かっている毛布と、クロードが長椅子で寝ていることから考えると、先に潰れたのはマルセルのようだ。クロードはマルセルが寝た後も一人で飲んでいたのか、よく見ると長椅子の近くの小テーブルには半分ほど中身が残ったグラスが置かれている。


 あれ? そにあ、きのうなにしてたっけ?


 二人が酒を飲んでいた記憶がなかったソニアは、どうにか昨日のことを思い出そうとしたが、夕食後に三人でカードゲームをしている途中で記憶が終わっていた。


 ねちゃったんだ……。


 記憶が抜けている理由に気が付き、少し落ち込む。昨夜はすごく賑やかで楽しかったのに、もったいない。


 おおかみさんが、はこんでくれたのかな。


 ソニアにはベッドに入った記憶がないので、おそらく。いや、きっとそうなのだろう。長椅子で眠るクロードに、心の中で“ありがとう”と礼を言う。

 寒いのか毛布にくるまって寝ているクロードはソニアよりずっと年上なのに小さな子どものようで、何だか不思議な気がした。


 おかあさんとおとうさんがむかえにきても、そにあは――。


「…………っ」


 そこまで考えたところで、ソニアは慌てて頭を振り、自分が今考えそうになっていたことを否定する。


 ちがう……そにあはそんなこと、おもってないもん。


 しかし、その後、ふと眠っているクロードに視線を向けたソニアは、自分が思わず浮かべた笑みに気づかなかった。



   ◇◇◇



「わあ……っ!」


 眠っている大人二人を起こすことなく、外に出たソニアは自分が作った雪だるまを見上げて、歓声を上げた。その足元では、彼女について来たらしいルーがくるくると走り回っている。


 驚くことに、目の前の雪だるまは溶けてもいなければ、雪が新しく積もった様子もない。

 実は、気を利かせたマルセルが保存と保護の魔法をかけていたりするのだが……もちろん、ソニアはそれを知らない。


 しかし、ソニアが歓声を上げた理由は、予想に反して雪だるまが昨日と同じ状態だったからではなかった。


 ……どうして、てぶくろつけてるの?


 ソニアの視線の先には、付けた覚えのない黒い手袋。少し視線をずらせば、同じく付けた覚えのない大きなボタンが朝日を跳ね返してきらりと光る。

 ボタンは見たことがない物だが、手袋には見覚えがあった。ソニアの記憶違いでなければ、彼女の手袋を大きくして黒く染めたようなデザインのそれは、クロードのものだったはずだ。色違いだと密かに喜んだことは、まだ記憶に新しい。


 おおかみさんがつけてくれたのかな?


 ソニアは他人と話す習慣がなかったから舌っ足らずなだけで、“ゆきだるまさんも、さむかったんだね!”と思うほど子どもっぽくはない。……が、そうだったら素敵だなと思ったことはソニアの秘密だ。


「おおかみさんみたい」


 ぽつりと呟いた。

 クロードの手袋を付けただけで、絵本そっくりにできたと思っていた雪だるまが、彼を模した物に思えてくる。

 少し躊躇った後、ソニアはクロードからもらったマフラーを外して、雪だるまに巻き付けてみた。


 ……うん。


 満足気にひとつ頷いて、大きな雪だるまの隣りに小さな雪だるまを作り始める。近くの草から千切った丸い葉を目に、できるだけ三角に似た小石を探してそれを鼻に、細い小枝で作った腕の先にはソニアの赤い手袋を。

 そして、最後の仕上げのため、ソニアは急いで“ある物”を取りに家に戻った。




「ソニア!」


 窓から顔を出したクロードが自分を呼ぶ声が聞こえる。ソニアは雪塗れのルーと一緒に家の中へと駆け込んだ。

 朝から元気ににこにこと笑うソニアと、二日酔いで眉間に皺を寄せるクロード。同じく二日酔いで、目覚めたのにも関わらずテーブルに突っ伏したままのマルセル。

 三人が三者三様の朝を迎えた家の前には、黒っぽい大きな雪だるまと――頭に赤い布を被せた小さな雪だるまが仲良く並んでいる。


 たのしかったなぁ……。


 クロードによると、この雪ももうすぐ見納めらしい。突然やって来た冬は突然過ぎ去って、初夏が戻ってくる。



 冬は凍えるように寒いものだと思っていたけれど、温かい冬もあるのだと、その日ソニアは初めて知った。



   ◇◇◇



「おはよー、二人とも。……ねぇ、クロード。なんか身体痛いんだけど、俺昨日何かした?」

「酔っ払って俺を外に連れ出した挙げ句、何を考えたのか魔法で雪玉をぶつけてきた」

「あちゃー……記憶にないや、ごめん」

「気にするな、すぐに沈めたから大した実害はない」

「道理で……酒の飲み過ぎにしては変なとこが痛むと思ったんだ」

「…………」

「……? ソニア、どうした?」



 ――――深夜、酔っ払った二人が雪合戦をしていたと思ってソニアが拗ねるのは、このすぐ後のこと。





《 おまけ 》


マルセル(以下:マ)「おおっ、なんか雪だるまが増えてる!」

クロード(以下:ク)「こっちの小せぇのは……ソニアか?」

マ「じゃ、この黒くて大きい方はクロードだね」

ク「…………」

マ「嬉しそーに、ニヤけちゃって」

ク「……うるせぇ」


マ「でもさー、ちょっとヒドいよね」

ク「何がだ?」

マ「何で俺の分がないんだろ……って、ちょっ、クロード!」

ク「そろそろソニアも昼寝から起きてるかもな」

ルー「クーン」

マ「俺の話、聞いてあげて!」

ク「チッ、さっさと話せ」

マ「……ねぇ、最近、俺の扱いヒドくない?」

ク「気のせいだろ。お前の扱いなんて前からこんな感じだ」

マ「……相棒が冷たい」


マ「じゃじゃーん! 俺も自分の雪だるま作ってみましたー。とんがり帽子がトレードマーク!」

ク「……作ったやつに似てムカつく顔してんな」

ルー「ガウ!」

マ「いやー、三体並ぶと親子みたいだね!」

ク「…………」

ルー「…………」

マ「ちょっ、ルー!? 何で俺の雪だるま壊してんの! ……あーっ、やめてー! そこ、トイレじゃないから!!」

ク「よくやった」

ルー「クゥン」




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