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“おおかみさん”と一緒  作者: 雨柚
第二章 “おおかみさん”と家の中
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小話 狼の添い寝/狼と長椅子

《 狼の添い寝 》



 ――――黒狼も、泣く子には勝てないらしい。



   ◇◇◇



 子どもの泣くような声が聞こえて、クロードは瞼を上げた。ソニアを拾って以来、寝床にしている長椅子から下りて寝台へと向かう。たった数歩の距離だ。

 音を立てることなく近づき、ソニアの様子をうかがう。


「…………うっ」


 しゃくりあげるようなそれに、初めは眠れず泣いているのかと思ったが、そうではないらしい。ソニアは険しい顔で目を瞑って寝ている。悪夢でも見ているのだろうか。


「おい」


 クロードは戸惑いつつも、ソニアに声をかけた。起きる気配はなく、表情は苦しそうなままだ。


「………………」


 どうすればいいかわからずに困り果てたクロードは、辛そうな顔で眠るソニアを見下ろしたまま黙り込んだ。

 微動だにせずじっと見つめていると、何事か呟くようにソニアの唇が震える。音になっていないそれをクロードは唇の動きで聞き取った。

 ほんのわずかなその動きが形作った言葉は“ごめんなさい”と“おかあさん”。


 悪夢か……悪夢、だよな。


 夢を見て苦しむなら、それは悪夢だ。両親が迎えに来る夢と、来ない夢。この幼い少女にとってはどちらが悪夢なのだろう。

 何とも言えない気持ちになって、クロードはソニアの頭を撫でた。顔に掛かってしまっていた癖のない金髪を掻き上げてやる。

 少しだけ和らいだソニアの表情に、クロードは安心したようにゆっくりと息を吐き出した。


「…………ソニア」


 呟いたものの起こすかどうか、しばしの間悩む。

 結局起こすことはなく、健やかな寝息が聞こえてくるまでクロードはソニアの傍らに佇んでいた。




 深夜、草木も眠る頃。

 クロードは、もう涙の跡も見えないソニアの顔を見てひとつ頷き、自分も寝直そうと長椅子へ戻ろうとした。しかし、一歩踏み出す前に立ち止まる。


 ――いかないで。


 そんな声が聞こえた気がして、クロードは寝台の方を振り返った。先程まで穏やかに眠っていたソニアの表情が、また険しいものへと変わっている。眉間の皺は深く、嫌々をするように僅かに首が動いていた。


 ……仕方ねえ、か。


 そう小さく溜め息を吐いて、クロードは寝台の上に乗る。ソニアの隣に横になり、あやすようにポンポンと軽く身体を叩いた。


 これじゃ寝れねえな。


 完全に眠っているソニアを見ながら、苦笑を漏らす。

 クロードは人の気配に聡い。ソニアに添い寝して、眠りに就ける自信はなかった。正直、ソニアが家にいることにもまだ慣れていないくらいだ。クロードが眠気に負けるより、窓から朝日が射し込む方が早いだろう。


 だが、それでも。

 苦しそうに眠るソニアを放って長椅子で寝こけるよりはマシだと思いながらクロードは瞼を閉じた。



   ◇◇◇



「ソニア」

「…………うぅん」

「悪夢なんか見るな」

「…………ん」



 ――――どうせなら、夢の中でも笑ってろ。






   ◆◆◆






《 狼と長椅子 》



 ――――ふわあぁぁ…………ねむい。



   ◇◇◇



 喉の渇きを覚えて、ソニアはまだ眠気の残る頭のまま身体を起こした。温かい寝具に包まれていた肌が外気に晒され、ふるりと肩が震える。今は春に近い気温とはいえ、深夜とも早朝ともつかぬこの時間帯は寒い。


「……おみず」


 むにゃむにゃと寝言のように呟きながら、自分用のマグカップに水を注ぐ。ソニアはそれを一気に飲み干して、寝台に戻ろうと踵を返した。


「ふわぁ」


 あまりの眠さに欠伸をしていると、近くの長椅子から伸びた脚が目に入る。一瞬どきりとしたが、半覚醒した頭でもそれがクロードの脚であることに気づいた。

 ソニアがこの家に来てすぐの頃はまだしも、今はソニアの分もクロードの分も寝台が用意されている。それでも、クロードが度々長椅子で眠っているのは、ただ単に慣れてしまったからだろう。ソニアが知るかぎり、クロードは仮眠のときも長椅子を使っているようだった。


 おおかみさん、ねてるのかな?


 ソニアが起きているときは大抵クロードも起きているので、ソニアが彼の寝姿を見ることはない。クロードは人の気配に敏感らしく、以前寝ていると思って近付づいたのにすぐに起きてしまったことがあった。


「………………」


 起こしてしまうかもしれないと思いつつも、好奇心を抑えきれずクロードの眠る長椅子へと近づく。背伸びして長椅子の裏からおそるおそる覗き込むと、クロードは緩やかに寝息を立てていた。

 毛布をひっかぶって寝ているクロードを見て、ソニアは温かそうだなと思うと同時に眠気に襲われる。


 少し離れた場所にある自分の寝台に視線をやるが、誰もいない寝台は寒そうだ。ソニアが眠っていたときの熱もとうに冷めてしまっているだろう。


 …………さむい。


 クロードが眠る、温かそうな長椅子を見て、しばし考える。

 結論はすぐに出た。


「おやすみなさい」


 そう小さく呟いて、ソニアはクロードの懐に潜り込んだ。



   ◇◇◇



「ん? ……何でこいつ、こんなとこで寝てんだ?」

「…………すぅ」

「おい、ソニア。起きろ」

「………………」

「ったく、仕方ねえな」



 ――――もう少しだけ、寝かせてやるか。





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