花嫁の誓い ~2000円で買った絵の花嫁は、誓いを破った俺の腹をゆっくりと抉り出す~
俺は借金取りから逃げ、あてもなく街を彷徨っていた。
小道の片隅で、何かに取り憑かれたかのように絵を描く老人がいる。
キャンバスには、真っ赤な色打ち掛けに角隠しをつけた花嫁が描かれていた。
その絵に、俺は釘付けになった。
真っ赤な唇、透き通るような肌──まるで生きているかのようだ。
目はじっと俺を見据え、何かを言いたげだった。
「爺さん、その絵、売り物かい?」
「2000円」
手のひらを差し出す老人。
――2000円か。今の俺にはこれしかない。
何かに引き寄せられるように、俺はその絵を買った。
キャンバスを抱えて宿へ戻り、部屋の壁に立てかけた。
しかし、俺の居場所を探し当てた借金取りがやってきた。
「このやろう!金返しやがれ!」
殴られるまま耐えていると、どこからともなく、絵の花嫁が立っていた。
そして、借金取りに金を渡している。
「なんだ、あるじゃねえか。
また入り用になったらお願いしますよ。」
その瞬間、キャンバスには花嫁はいなかった。
「あんた……本当にあの絵の……」
「ええ、あなた困っているのね。私が願いを叶えてあげるわ。」
「その代わり、私以外の女には手を出さないで」
「本当に俺の願いを叶えてくれるんだな。わかった、他の女には手を出さない。」
そう誓ったものの、花嫁は夜になるとキャンバスに戻ってしまう。
俺も男だ。生身の女が欲しくなり、つい他の女に手を出してしまった。
翌朝、女はもういなかった。
キャンバスを見つめると、花嫁の角隠しは外れ、角がむき出しになっていた。
口は裂け、目は三角に吊り上がり、白い手には血が滴っていた。
部屋を見渡すと、昨夜の女は無残な姿で床に横たわっていた。
恐怖で体が動かない。
次の瞬間、腹部に鋭い痛みが走った。
長く伸びた爪が皮膚を突き破り、内臓を抉る。
呻き声は出ない。ただ、視界の端に、血に染まった笑みが揺れていた。
そして気づく。
花嫁は微笑みながら俺をじっと見ていた。
ーー楽しんでいるかのように
「グワっ!」
見ると、床に倒れていた女が、俺の喉に噛み付いていた。
花嫁が言う──いや、鬼が囁いた。
「誓いを破った男は、女の餌になるのよ。
死ぬまで、苦しむがいい」
腹を抉っていた手が、ゆっくりと引き抜かれる。
だが、俺はまだ死ねない。
次の瞬間、女が俺の腕に噛み付いた。
「……た……す……け……」
破った誓いの代償は、まだ終わっていない──。




