六話 ミランダの場合⑥
まずヴィクター様は、勉強がとてもお嫌いな方だった。
なのにプライドは高く、女性に負けることを酷く嫌がる。
そのせいで、私が勉強すればするほど、ヴィクター様は私のことを嫌悪するようになった。
「女の癖に、勉強なんかして何になるんだ」
そんな言葉を、この数年で何度言われただろうか。
侯爵夫人として必要だから勉強をしているというのに、ヴィクター様は全くそのことに理解を示してくださらない。
いいえ、そもそも私のことを理解する気なんて、元々なかったのだろう。
なぜなら、ヴィクター様は女性の容姿にとてもこだわる方なのだということに気付いてしまったから。
ヴィクター様の好みの女性は知っている。本人がよく口にしていたもの。
ふわふわのブロンドヘアーに、ぱっちりと大きな瞳がキラキラしていて、背は少し低め。
そして男性を立てるのが上手な……女の子らしい令嬢が好みなのだ。
一方で私は、少しくすんだ茶髪のストレートヘアー。どちらかというと大人っぽい顔立ちで、少しツリ目。背も平均より高い。
つまり私は、ヴィクター様の好みとは真逆だったのである。
それでも、私は努力することを諦めなかった。
勉強してもダメ、容姿もだめ……。
それならばと、ヴィクター様の紅茶の好みを完璧に把握したり、会話の度に何度もヴィクター様を褒めるようにした。
とにかく私は出しゃばらず、ヴィクター様を立てることを意識したのである。
……そんな生活を、三年続けた頃だっただろうか。
努力の甲斐あって、「少しはお前も私を尊敬することを覚えたようだな」なんてことを言ってもらえた。
今思えばそんな言葉、侮辱でしかないけれど……あの頃の私は、「ようやくヴィクター様に認めてもらえたんだ」と喜んでいた。
本当に、馬鹿ね。
でも家のため、そして大好きな両親のために、婚約を破棄されるわけにはいかなかったから。
当時の私は、とにかくヴィクター様に気に入られたくて必死だった。
けれど、十六歳になって学園に入学してから……ヴィクター様は、更に私に対して厳しく当たるようになった。
例えば、私の方が入学テストの点数が高かったことについて、激しく怒られたり……
昼食の際、テーブルマナーを丁寧に注意したら不機嫌になってしまわれたり……。
「婚約者の癖に生意気だ」
「私に恥をかかせたいのか」
そんなことを何度も言われた。
____そして、入学から数ヶ月経った頃、私達の仲が決定的になってしまった出来事が起きた。
ヴィクター様が、ローズマリー様に対してとても失礼な態度をとったのである。
というのも、廊下でローズマリー様に肩がぶつかってしまった際、あろうことか彼は舌打ちをしたのだ。
私はすぐに彼の代わりに謝罪をしたけれど、彼は頭を下げることをしなかった。
そのうえ、ローズマリー様が去った後に「可愛げのない女だ」なんて風に、陰口を叩いたのである。
本当に、信じられないことだ。
けれど遊んでばかりで社交界に疎いヴィクター様は、ローズマリー様の身分をご存知なかったらしい。
これには流石の私も頭に来て、ヴィクター様を公衆の面前で注意してしまった。
……それが、ヴィクター様の逆鱗に触れてしまったらしい。
その日から、ヴィクター様は私のことを徹底的に無視するようになった。
それどころか、視線すら向けてもらえない。
社交界でのエスコートも引き受けてもらえなくて、私はいつも父に頼んでエスコートをしてもらっていた。
そんな調子だったので、私とヴィクター様は「非常に仲が悪い婚約者」として有名だったのである。
そして時は過ぎ、私達が三年生になった時のこと。
____とあるご令嬢が、私達のクラスに転入してきたのである。




