五話 ミランダの場合⑤
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私がヴィクター様の婚約者となったのは、十二歳の頃だった。
私達が結婚して家の結び付きが強くなれば、お互いの家に利益がもたらされる。
そのための婚約であって、恋や愛から始まった関係ではない。
所謂、政略的な婚約だ。
それでも、当時の私はこの婚約に一切の不満を感じていなかった。
むしろ、貴族の娘に生まれたからには当然の義務だとすら思っていたくらいである。
そのために、淑女教育も真面目にこなしてきたのだ。
だから家のため、そして領民のために、私はこの婚約を快く受け入れた。
まぁそうは言っても……将来は夫婦となるわけだから、できる限り良い信頼関係を築いていきたい。
あわよくば、両親のように仲が良くて愛し合っているパートナーになれたらいいな……なんてことを思っていた。
……しかし、ヴィクター様はそうではなかったらしい。
というのも、ヴィクター様は少しロマンチストなところがあって……。
自分は恋愛結婚をするのだと、幼い頃からご両親や友人に宣言していたのだとか。
けれど、結局は家のために婚約者を勝手に決められてしまったわけで。
プライドの高いヴィクター様にとっては、そのことが大層ご不満だったそうなのである。
そんな私達の初めての顔合わせは、それはそれはもう最悪なものだった。
なんせ、ヴィクター様は開口一番にこう仰ったのだ。
「いいか、私はお前を婚約者とは認めていない! 絶対に運命の女性と出会って、お前との婚約を破棄してみせる!」
……信じられないでしょう?
でも、本当に言われてしまったの。
結局その日の顔合わせは、最後まで気まずい雰囲気のまま終了してしまった。
それでも、私は諦めなかった。
これまで以上に勉強を頑張ったし、礼儀作法だって完璧を目指して努力した。
未来の侯爵夫人として相応しい女性になれれば、ヴィクター様も私を認めてくれるかもしれない。
そんな風に、幼かった私は健気に信じていた。
……けれど、そんな考えは甘かったことを、私はすぐに思い知ることになる。




