一話 ミランダの場合①
____一体、私の身に何が起こっているのでしょうか。
三年間通った学園の卒業パーティーの真っ最中。
グラス片手に友人と思い出話をしながら楽しんでいた時、その瞬間は訪れた。
「この場で皆に伝えたいことがある!」
突如会場に響いたその大声に、会場はシン……と静まり返る。
会場中の皆が、その声の主を見た。
もちろん、私も。
そして視線の先にいたのは、ヴィクター・ケンドール侯爵子息。
ケンドール侯爵家の跡継ぎで……私の婚約者だ。
ヴィクター様は、皆が注目しているのを確認してからすぐに、再び大きく口を開いて宣言した。
「ミランダ・オルコット! お前との婚約は今日この場で破棄させてもらう!」
私は、頭が真っ白になった。
どういうこと?
今、私の名を呼んだわよね。
____婚約破棄って……どうして?
困惑する私を余所に、ヴィクター様は私の近くに立っていた、とあるご令嬢の方向へ優しく手招きをした。
そのご令嬢……いえ、ニーナ様はパァ、と顔を明るくさせてから、ヴィクター様の隣へ駆け寄る。
二人は愛おしそうな瞳で数秒見つめあった。
それから、ヴィクター様がニーナ様の腰に手を回して寄り添い合う。
誰がどう見ても、仲の良い恋人同士の姿がそこにあった。
次第に皆の注目が、今度は私に集まり始めるのがわかる。
当たり前だ。ヴィクター様の婚約者は私だと、同じ学年の生徒達は皆知っているのだから。
「……ヴィクター様、どういうことですか……?」
私は一歩前に出てから、震える声をなんとか絞り出して、彼に問いかける。
すると、私の姿を確認したヴィクター様は鼻でフン、と笑ってから……顔を歪ませて再び口を開いた。
「白々しい女だな……。ミランダ、お前がニーナに対して嫌がらせをしたことは知っている!」
「……嫌がらせ? そんなこと、しておりません!」
「ふざけたことを言うな! ニーナから何度も話は聞いているんだ! 可哀想に、今だってこんなにお前に怯えているじゃないか!」
私がニーナ様に嫌がらせをした……?
全く心当たりがない。
確かに私はニーナ様とはクラスメイトだし、何度か会話をしたことだってある。
でもそれは、ニーナ様が婚約者がいる男性に対してあまりにも……なんというか、ベタベタするものだから。
その姿を見兼ねて、極力優しく注意をしたことはあるけれど……。
決して、嫌がらせをしたことなんて一度もない。
一体何を言っているのかしらと思いながら、ニーナ様の顔を見る。
すると、ニーナ様はわかりやすく身体を震わせながら、上目遣いでヴィクター様に囁きかけた。
「ヴィクター様……わたくし、こわいです……! またミランダ様がわたくしを睨んできて……」
「あぁ、しっかり見ていたよ。全く、最悪な悪女だな」
悪女ですって?
もしかして、私のことを言っているの……?
「ヴィクター様、私には本当に身に覚えがございません。それに、なぜそんなにニーナ様と距離が近いのですか……?」
半ば泣きそうになりながら私が訴えると、ヴィクター様はハァ……とため息をついてから、呆れたように私へ問いかけた。
「お前はまだわからないのか? 私とニーナは愛し合っている」
「……え?」
「つまり、悪女のお前の役目はもう終了ということだ。まぁ、ニーナと私の絆を深めてくれたことだけは感謝してやろう」
そう言って、ヴィクター様はニーナの頬にキスをした。
周りの生徒達がざわめき出すのがわかる。
「一体何が起きているの?」
「ヴィクター様の仰っていることは本当なのかしら?」
「だとしたら、ミランダ様は……」
皆が、私を疑いと好奇心の混じったような目で見てきた。
私はいよいよ耐えられなくなって、会場を飛び出してしまったのだった。
____その、一週間後のこと。私宛に、一通の招待状が届いた。
差出人の箇所には、ローズマリー・ネヴァ・エインズワースという名が刻まれていた。




