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冷酷王子に会いまして



 全身で浴びる歓声、沸き上がる熱気ーーその中心に一人の女。剣を天に突き上げ、金髪のポニーテールを揺らしながら、仁王立ちでたたずむ。銀色の鎧は汚れ一つ着いていない。その姿は紛れもない、強者の姿だった。


 「また勝ったぞ……」

 「いいぞー!太陽の姫ー!」

 喝采を背にその場を去る。牢屋へ戻ると、腰を下ろし、一息ついた。汗を拭うその表情は、どこか余裕さを感じる。


 「今日のお方は、言うほどでもなかったわね」

 私は〈太陽の国の姫〉。一国の王女として大切に育てられた、一人娘。ひょんなことから〈月の国〉の人質として連れてこられたはずの私がーー、今では〈剣闘士〉として命をかけて戦っている。

 

 *


 二日前〈太陽の国〉玉座の間。


 「なにー!?人質にいくだと……!」

 王の重い声が、玉座の間に響く。私の隣には、横並びの三人の王子。玉座には王と王妃。口は半開き、全員目を丸くして、私に注目した。

 

 「はい。相手国の侵略を止めるには、私が人質に行くのが最適かと」

 「そ、それなら、俺が行きます!妹に行かせる訳には…!」

 「ダメです、兄さんでは力不足」

 人質に名乗りを上げた第二王子を一掃する。妹からの一言に、しょんぼりする兄。


 「一人娘である私の方が、人質の価値があります」

 王女と王子には、明確な役割の違いがあった。王子は、王位を継承し国を存続する。王女は、別国に嫁ぎ、政治的な国の利益を得る。つまり、政略結婚だ。

 

 王女が人質に行くことは、勢力を拡大する意思がないことになり、間接的に敵意が無いことを意味していた。

 逆に王子が人質に行くことは、”あなたの国に服従します”という意味になり、生涯従属国として、言いなりの運命を辿ることになる。


 「ルーシュが人質になることは反対です!それこそ、相手の思うつぼ!侵略を企てたやつを総出で探し出し、すぐに見つけ出します!」

 第三王子は、怒りあらわに言った。


 「〈月の国〉が攻めてきたとしても、我が国の武力が劣ることはありません」

 第一王子は丁寧な口調でいった。その表情に、いつもの冷静さはない。

 

 「武力で追い返すのは…難しくないと思いますが、国の民を危険に晒すことはできません」

 「女王として立派に育って…私は嬉しいです。ですが、ルーシュ。簡単に、命を渡すことはできません」

 凛と刺すような王妃の声。落ち着いた口調は、私の背中に重くのしかかった。


 「分かっています、王妃。人質は最終手段。必ず〈月の国〉を説得してみせます」

 私は一歩も引き下がらない。


 「だが、相手は()()()()()な王子だ……何をされるか分からん」

 「大丈夫です、王よ。その時は、私の武術で、巧みにかわしてみせますよ」

 余裕の笑顔と一緒に、軽く冗談を言って見せた。

 強い意志に、周囲は静まり返った。


 「分かりました」

 「「王妃!」」

 「ここまで覚悟を決めているのです。王、ルーシュに託しましょう」

 王子達は、ただ王妃の言葉を聞くしかなかった。王は眉間にシワを寄せ、頭を抱えた。父と王、両方の立場にいる者が背負うものは、計り知れない。けれど、ここまで娘と王妃に説得されては、命を出すほかなかった。


 「わかった。第一王女ルーシュ。〈月の国〉に行って交渉し、侵略を止めてこい。些細なことでも直ぐに報告しろ」

 「はい、王よ」

 深々と膝まづき、答えた。これから〈太陽の国〉を救うための、初めての任務が始まるのだ。


 ***



 次の日、護衛と馬車を走らせ森を進んだ。目的地は〈月の国〉。道中馬の足音に紛れ、微かに泣き声聞こえていた。

 

 「ああ……今すぐフカフカのベットに飛び込みたい」

 ラルアークの膝に埋もれた。

 

 「私はフカフカのベットではありませんよ」

 ラルアークは、私のお世話係だ。メガネで背が高くて、いつも笑ったような顔をしている。大人の余裕ってやつだろうか?

 

 「ちょっとくらい弱音吐いたっていいじゃない……」

 「はいはい、よしよし」

 「いじわるね……もっと甘やかしなさいよ」

 ボソッと独り言を漏らした。

 

 「かっこよかったですよ、堂々と発言する姿」

 「ま、まあね。私は第一王女なんだから!」

 ラルアークの言葉にはいつも励まされる。だから私も、弱い所を見せれるのだ。

 

 「それにしても、横暴な王子ってどんな人かしら……は!着いた瞬間打首…とか」

 「あっはっは、そんなことはありえませんよ」

 「どうして笑うのよラルアーク……」

 「いやあ、失礼しました。ルーシュ王女の今の姿を見たら、王妃様達はどんな反応をするかなと」

 

 私は、みんなの前では出来た娘を装っている。本当はちょっぴり臆病。第一王女と言うけど、産まれたのは4番目。お兄様達のようになりたくて、いつも後ろ姿を追いかけた。強くならないとという気持ちが強かった。


 「それにしても、どうして急に侵略なんか…()()()だったはずでしょ?」

 「わかりません…でも、このひと月の間に何かあったのは確かでしょう」

 「交流が途絶えたあの日よね?それも合わせて、暴いてみせるわ。絶対、成功させて見せるんだから」

 「どうしてそこまでして」

 「だって、初めて国の力になれるチャンスよ?私だって、出来るんだって所を見せなくちゃ!」

 「尊敬致します。ところで、作戦などは考えておいでですか?」

 「そんなものないわ」

 「やっぱり……」

 お兄様達の姿を追ってきた…と言っても、勉強の方は全然ダメダメ。政治も戦略も、全く分からない。ようやく覚えたのが、「人質」って言葉だけ。


 「ちなみに、“人質”になるのがどういうことか…分かっておりますか?」

 「相手国に住むんでしょ?命が奪われることはないって、本で読んだわ」

 「そういうところが心配なんです……」

 呟き声は、私の耳には届かなかった。

 ラルアクークの眉がピクつく。普段全く表情が変わらないのに、珍しい。心配でもしているのかな?


 「大丈夫よ、きっと分かってくれるわ」

 「あの説得力は、誰に似たのでしょう……」

 私に作戦はないけど、説得には一応自信があった。何故か昔から得意なのだ。


 「何かあっても、直ぐに助けにむかいます。どうか、無茶だけはなさらないでください」

 「ラルアクークは心配症ね」

 きっとうまくいく。上手くいかせてみせる。

 まずは、『身なりと姿勢から』と、お母様に習った。堂々としておけば、舐められることもないし、むしろ有利に話が進められると。


 お兄様、お母様、お父様……見ていてください。絶対みんなに、認めて貰うんだからーー


 根拠の無い自身を胸に〈月の国〉の地へ降り立った。


 ***


 (なんだか、活気のない場所ね)


 人々の顔は曇り、子供たちの騒ぐ声が虚しく響く。商いや音楽で賑わう〈太陽の国〉とは真逆の雰囲気だった。


 城下町を抜け、出迎えてくれたのは錆びた城門だった。鈍く重い音を響かせ、開城する。


 城内は黒を基調とした、シンプルなデザイン。漆黒の館とでも名付けようか。


 「太陽の国ー、第一王女、ルーシュ・サン様到着されました」

 

 男の声を合図に玉座の間へ入る。


 ーーバンッ!


 発砲音が響き、一体が静寂に包まれる。この部屋だけ時間が止まったみたいだ。

 

 目に飛び込んできたのはーー


 王子に膝まづく従者……と、絨毯を染める紅い血。

 玉座に腰掛けた青年は、退屈そうに銃を持ち上げ、吐き捨てた。

「ーー俺をイライラさせるな」

 

読んで下さりありがとうございます!

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