光冠(クラウンライト)の終焉
地上はとうに捨てられた。人類は数百年にわたり、大気汚染と資源戦争の果てに空中都市〈セレスト〉を築き、王政とAIが共存する統治体制を採っていた。
君主は象徴に過ぎないと言われて久しい。
だが、人々は依然として“王の血”に敬意を払い、〈王都:クラウンライト〉を聖域として仰いでいた。
そのクラウンライトが――燃えていた。
「通信、切れました……衛星軌道からの映像も、ジャミングされています」
モニターには、断続的に崩れゆく空中都市の断片が映し出されている。重力制御リングが赤く閃き、崩落の予兆が走っていた。
「バカな……王都には、第二世代AI《エル=グラン》が常駐していたはずだろ!」
「停止したようです。内部からの命令です」
その言葉に、作戦司令室全体が凍りついた。
そのとき、黒装束の伝令兵が静かに近づいてきた。手には、封印されたナノカーボン製のメッセージチューブ。
「……第七王女、シエル様へ」
シエルは黙ってそれを受け取った。指をかざすと、チューブが開き、王の声が再生された。かすかなノイズの奥から、父の静かな声が流れる。
《これを聴いているなら……クラウンライトは、陥ちたのだろう》
《我々は、我々の時代を守りきれなかった。だが、お前にはまだ、選べる》
《“王冠”を捨て、新たな人類を導け――》
通信が終わると同時に、地平の彼方で光が爆ぜた。
クラウンライトが、落ちたのだ。
シエルはゆっくりと立ち上がり、周囲を見回した。恐怖に支配された軍人たちの中、彼女の目だけが静かだった。
「非常政府を発足させます。AI支配は解体。これより、臨時人類議会を招集」
「し、しかし……王政は……!」
「王政は、いま――焼け落ちたわ」
重い沈黙のあと、誰かがこういった。
「気まずすぎて、シッヌゥ!」