第5話:鬼の墓標(おにのぼひょう)
北の山脈を越えた先、誰も近づかない禁じられた地。
“鬼の墓標”と呼ばれる場所は、かつて数多の鬼たちが葬られた伝説の地だった。
灯りは、母の言葉と父・宵の記憶の断片を頼りに、険しい山を越えてそこへと向かっていた。
その瞳には迷いはなかった。
――己の力と血の意味を知るために。
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墓標の地にて
霧が立ち込める古い森。そこには、朽ちた鳥居と石碑が並ぶ。
まるで何百年も前から、時を止めていたかのように。
灯りが足を踏み入れた瞬間、空気が凍りつく。
金色の瞳が自然と光を帯び、墓標に封じられていた“何か”が目覚め始める。
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声
「……おまえが、宵の娘か」
背後から響いたのは、低くどこか懐かしさを感じさせる声だった。
そこに立っていたのは、一体の“鬼”――
しかしその姿は人に近く、宵によく似ていた。
「我は、弦。宵の兄だ。
おまえの力は、今のままではいずれ自らを呑む。
ここで、その力を制御する術を教えよう」
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血の記憶
弦は語る。鬼とは何か、人との混血で生まれるものが何を背負うのか。
かつて鬼と人は共存しようとしたが、それは恐れと偏見で崩れ去った。
宵と妻の願いは、その悲劇を繰り返さないこと――
「灯り、おまえは“はじまりと終わり”の血を受け継いでいる。
鬼と人、その両方を“終わらせる”力だ」
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決意
灯りは目を閉じ、己の内にある鬼の血と向き合う。
憎しみではなく、愛によって生まれた命。
守るために、戦うために、ではない。
終わらせるために、歩み始める。
鬼と人の争いを――