第4話:怒りの代償
目覚めたとき、あたりは静まり返っていた。
燃え上がっていたはずの村は、今や灰と瓦礫の山。
灯の周囲には、倒れた男たちと黒焦げの樹木。
彼女の右目はまだ金色に輝き、額には一本の角が残っていた。
――あれが、自分のしたことなのか。
「う……母さん……」
灯は震える手で、瓦礫の中から手を伸ばした。
血に濡れた布の奥に、彼女の母が倒れていた。
意識はある――けれど、その身体は深く傷ついていた。
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母の声
「……灯、あなた……守ってくれたのね……」
母は微笑んだ。苦しみに歪むその顔に、それでも優しさがあった。
「やめて……そんな目をしないで。あなたは、何も悪くない。
怒ることも、守ることも……それは、あなたが人である証よ……」
その言葉に、灯の目から涙があふれた。
鬼としての力に呑まれた自分を、人として抱きしめてくれた。
その温もりに、彼女の金色の目がゆっくりと色を失っていく。
――角が、静かに消えた。
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選ばれしものとして
その日から、灯は「鬼の娘」として恐れられる存在になった。
けれど、同時に“村を襲った暴徒を退けた存在”としても噂された。
ある者は「鬼の化け物」と呼び、
ある者は「闇から人を守る者」として祈りを捧げた。
――灯自身は、ただ、母を守りたかっただけだった。
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そして始まる旅
母の命をつなぐ薬草を探しに、灯は山を下ることを決意する。
“鬼の血”を持つ自分にしか通れない道、
父・宵が最後に残した言葉を頼りに。
「北の果て、【鬼の墓標】へ向かえ」
「そこに、おまえの“本当の力”と“もうひとつの真実”がある」