第3話:灯り、目覚め
第3話:灯り、目覚め
――山あいの小さな里に、ひとりの少女が住んでいた。
名は、灯。
黒髪に、どこか影を帯びた瞳。
右目だけが、金色に輝いていた。
それは、彼女の父・宵から受け継いだ“鬼の血”の証。
左目は人間。右目は鬼――
人と鬼、その狭間で生きる少女だった。
幼い頃から、彼女は「化け物」と呼ばれ、村の外で母とひっそりと暮らしていた。
けれど、灯は笑っていた。母がそばにいれば、それでいいと。
……だが、世界はそんな優しさを許しはしなかった。
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村に放たれた火の手。
母を追い詰める人々の怒号。
「鬼の血が災いを呼ぶ」「滅せよ、忌み子を!」
――その時だった。
「やめて……これ以上、母さんを……っ!」
怒りが、限界を超えた。
視界が赤く染まり、耳鳴りのように血が叫ぶ。
灯の背に激痛が走り、右目の金が燃え上がる――
「……ッ、あああああああっ!!」
爪が裂けるように伸び、鋭く煌めいた。
そして、額に――
一本の角が現れた。
それは父・宵が持っていた、誇り高き鬼の証。
灯の中で、父の魂が応える。
――守れ。愛する者を。
村人がたじろいだ。灯の姿は、人ではなかった。
だが、彼女の叫びは人のものだった。
「……これ以上、私の大切なものを壊させない!!」
風がうねり、周囲の木々が折れる。
――灯は、“鬼としての力”をその身に解放したのだった。