第33話 記録者の剣
第33話 記録者の剣
空が裂けた。
黒き《喰記王》が放つ記憶破壊の奔流《忘却の咆哮》が、世界そのものを塗りつぶそうとしていた。
だが、それに対峙する影虎――いや、カゲトラの剣は揺るがなかった。
「これは……俺の記憶だけじゃない。
俺と出会い、共に戦った仲間たちの、声だ」
カゲトラの足元から、七つの光が立ち昇る。
各武装の中に宿った“誰か”の想いが、彼の中で融合する。
火炎の槍〈レッド・リグレット〉――リクの怒りと願い。
風の弓〈ブルー・エアリアル〉――セリの微笑と自由。
影の短剣〈ブラック・ステップ〉――サクの秘密と祈り。
光の盾〈ホワイト・ブレス〉――ユメの守護と誓い。
記録の羽根〈シルバー・インク〉――イリスの導きと記録。
そして、斬り裂く剣〈ゴールド・リコレクト〉――彼自身の過去と現在。
「俺はもう、誰かの記憶を怖がらない」
カゲトラは剣を構えた。
剣に刻まれた名前――それは《記録者》の称号だった。
「この一撃で、“記録する者”として、お前を刻む――!」
その瞬間、光と影の全てが剣に集約された。
カゲトラが放った一撃は、空間をも斬り裂くほどの威力だった。
《喰記王》の咆哮が、光に呑まれて消えていく。
「我は……記憶を……望んだだけなのだ……!
忘れられることが、何よりも……!」
その最後の声は、断末魔ではなく――哀願だった。
そして、全てが静寂に包まれた。
空が晴れ、崩れかけた世界が再構築されていく。
イリスのホログラムが、ふわりと現れる。
「……勝利、おめでとうございます。影虎さん――いえ、カゲトラ」
カゲトラは、穏やかに笑った。
「これでようやく、“今”を歩ける気がする」
七つの記憶武装は、静かにその役目を終え――彼の中へと溶けていった。