第29話 黒衣の者たち
第29話 黒衣の者たち
影虎が目を覚ましたのは、谷の隠れ家だった。
焚き火の残り香と、外の鳥の声。ユナが静かに眠っている。
自分の中で、何かが変わっていた。
七つの記憶武装がすべて揃った今、影虎の意識はより深く、より遠くまで届くようになっていた。
扉の外に立つと、そこに一人の男がいた。
全身を黒い外套に包み、顔の半分を仮面で隠している。
その背後には、同じ装いの者たちが六人――まるで、影虎の“影”を映すかのように。
「初めまして。“記憶の継承者”よ」
仮面の男が静かに言った。
「お前たちは……」
「我らは《黒衣の徒》。かつて“記憶武装計画”に選ばれ、失敗し、忘れ去られた者たちだ」
影虎の心がざわめく。
彼らの気配は人ならぬもの。だが、どこか懐かしい。
「君は“成功作”だ。そして、我らは“失敗作”。
だが今こそ、記憶を超えた存在として――君を試す」
その言葉と同時に、黒衣の徒たちが武器を構える。
一人は斧。
一人は弓。
一人は双剣。
一人は槍。
一人は術具。
一人は素手。
そして仮面の男は、黒い刀を抜いた。
「さあ、“七対七”の戦いを始めよう。記憶の本質とは何か――お前自身に問うために」
影虎は、腰の七つの記憶武装を見やる。
それぞれが、応えてくるかのように光る。
「来い……俺は、全ての記憶を背負ってここに立つ」
谷に、再び激しい戦いの火蓋が切って落とされた。