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『優しき鬼灯(ほおずき)』  作者: 赤虎鉄馬
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第28話 記憶の彼方へ



第28話 記憶の彼方へ


 眩い光の中を進むと、影虎の周囲からすべての色と音が消えた。

 そこは“記憶そのもの”が漂う空間――誰かの心象風景とも、宇宙の底とも思える。


 静寂の中に、一つの声が響いた。


「――よく来たな、“影虎”ではない者よ」


 声の主は、透明な存在だった。

 男とも女ともつかぬ中性的な姿。

 まるで記憶そのものが具現化したような存在。


「……誰だ?」


「我は《記憶の管理者》。君が失ったすべての記憶の番人であり、最後の試練だ」


 影虎の前に、七つの光が浮かぶ。

 それぞれの記憶武装が、具現化していた。


 赤――怒りと守護。

 青――知性と冷静。

 緑――優しさと裏切り。

 紫――誘惑と闇。

 黄――希望と喪失。

 白――純粋と絶望。

 黒――破壊と再生。


「君はこれらを身にまとい、自らを保ち続けた。

 だがその代償に、“本当の名前”を見失った」


 空間に、過去の断片が再生されていく。

 家族らしき人々の笑顔。

 炎に包まれた都市。

 実験施設の中、モニターを見つめる青年。

 “記憶武装計画”と書かれた極秘文書――


「これは……全部、俺……?」


 影虎の心に、激しい痛みが走る。


「そう。君の本名は――」


 その瞬間、七つの記憶が一つとなり、空間が崩れ始めた。


「――影虎! 戻ってきて!」


 遠くから、ユナの声が響く。


「待て! まだ……!」


 影虎が叫ぶと、空間は光に包まれ、次の瞬間――


 


 ……目の前には、静かな夜の谷があった。

 ユナが、目を潤ませて彼を抱きとめていた。


「よかった……帰ってきた……!」


 影虎は息を整えながら、胸の奥に確かなものを感じていた。


 自分は、確かに――“誰か”だった。

 それを思い出す日は、もうすぐ来る。


 だが今は、それを抱えたまま――この世界で、戦うことを選ぶ。





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