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『優しき鬼灯(ほおずき)』  作者: 赤虎鉄馬
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第26話 影と統合(とうごう)



第26話 影と統合とうごう


 地が震え、空が割れるような音が響いた。

 記憶の谷を包む空間そのものが軋み、ひずみ、崩壊の兆しを見せる。


 仮面の男が嗤った。


「世界が耐えられぬのさ。“記憶”は一つ、“存在”も一つ。

 お前が記憶を取り戻したことで、俺もまた明確な“実体”を得た。

 今こそ、統合の時だ……影虎」


 仮面の男の足元に、黒い液体のような影が広がっていく。

 まるで大地が腐っていくかのように、重苦しい空気が影虎の胸を圧迫する。


「統合……だと?」


「そうだ。お前が切り捨てた痛み、怒り、絶望、罪――

 それらすべてを“なかったこと”にはできない。

 思い出した以上、受け入れるか、再び記憶を失うか、選べ」


 影虎は黙っていた。

 心の底から湧き上がる恐怖と葛藤。

 だが、その奥に、微かに灯る何か。


(……思い出した。俺が、なぜここに来たのか。

 ユナを救うため。

 だがそれは、ただの綺麗事じゃなかった。

 あの時、俺は……ユナを……)


 意識が急激に沈み込む。

 足元から、仮面の男の影が影虎に絡みつき始めた。

 視界が黒く染まる。

 記憶が再び崩れ――ようとした、その時。


「――受け入れる」


 影虎の声は、はっきりしていた。

 仮面の男の動きが止まる。


「……なんだと?」


「お前は俺だ。

 痛みも、過去も、罪も、全部……俺のものだ。

 だから、お前を“拒まない”。取り戻す。すべてを」


 その言葉と共に、影虎の胸から光が溢れた。

 七つの記憶武装が宙に舞い、影虎の周囲をめぐる。

 それぞれの武装が、本来の色と輝きを取り戻していく。


「影よ、戻れ――そして、共に歩め」


 影虎が手を伸ばした。


 仮面の男は――微かに、笑った。


「……ようやく、思い出したか。俺の名も、お前の名も」


 そして、彼の身体は黒い光となって砕け、影虎の胸に吸い込まれていった。


 眩しい光の中で、影虎は立っていた。

 重苦しさも、歪みも、もうない。

 谷の霧は晴れ、空は蒼く澄んでいた。


 遠くで、誰かが呼んでいる。


「……影虎!」


 その声は――ユナだった。






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