第2話:鬼殺し
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第2話:鬼殺し
静かな森が、血の匂いに染まった。
澪と宵が暮らす山小屋。
それはつつましくも穏やかな、たった二人の世界だった。
だが、奴らは容赦なくその平穏を踏みにじった。
――鬼殺し。
その男は、村でも滅多に姿を見せぬ“異端”だった。
人ではない何か、そう噂されるほどの剣の腕と、容赦なき鬼狩り。
宵は抵抗した。
澪を、腹の子を、守るために。
角が伸び、金の瞳が紅く染まり、鬼の本能が目覚める。
しかし、“鬼殺し”の剣は、ためらわなかった。
宵の動きを読み、隙を突き――
ズバンッ――ッ
首が、宙を舞った。
「……っ、よい……っ!!」
澪の絶叫が森を裂いた。
崩れ落ちるように、宵の亡骸を抱きしめる。
動かぬ腕。ぬるい血。温もりだけが、まだ残っている気がして――
「……宵……やだ、やだよ……!」
血の泥にまみれながら、澪は叫んだ。
「この子だけは……! この子だけは……!」
腹に手を当てる。
「――あなたの娘よ。私たちの……」
涙を流しながら、澪は力を振り絞って立ち上がる。
「貴女だけは、私が守る――命に代えても!!」
鬼の血を引く娘。
許されざる存在。
だが、澪にとっては、たった一つの愛の証。
この日――
“鬼殺し”は、澪の姿を見て言った。
「お前まで斬る気はない。だが、その子は……いずれ俺が斬ることになるだろう」
その背を、澪は睨みつける。
「その時が来るなら、私が“鬼”になる……!」
風が吹き抜ける中、宵の魂はまだ、どこかで見守っていた。