第17話 白き風が呼ぶもの
第17話 白き風が呼ぶもの
石造りの回廊を抜けた先に広がっていたのは、まるで“静寂そのもの”を象ったような空間だった。
白。すべてが白だった。壁も床も、天井も。だがそれは単なる塗装や素材の白ではない。
見る者の記憶の色を吸い取り、塗り替えてしまうような――記憶の無機質。
「……ここは?」
影虎の声もまた、白く溶けた。反響すらなく、言葉の形だけがぽとりと床に落ちる感覚。
進むたび、足元に淡く光る円が浮かび上がる。それはまるで、誰かの足跡のようだった。
イリスがタブレットの姿に戻って、彼の胸ポケットから囁く。
「記録武装……感情すら凍らせる“風”の記憶。
ここには“希望”と呼ばれた存在が封じられていたはず。でも、空っぽです」
影虎は首をかしげた。封じられていた……なら、誰がそれを“解いた”のか。
そのとき、白い空間に黒い風が吹いた。
「きみか……」
現れたのは、白の空間の中にだけ現れる“黒”。
それは影虎自身だった。だが、今の影虎よりも若く、瞳に光があった。
「……またおまえか」
影虎は歯を食いしばった。
もう一人の影虎は微笑んだ。だがそれは、喜びではなく“懐かしさ”だった。
「なあ、まだ思い出さないのか? 七つの記憶を辿って、おまえは何を選ぶ?」
「記憶は……呪いだ。だが、呪いもまた、生きる理由になる」
白い空間に、淡い金色の光が差し込んだ。
――《ホワイト・コード》、解放条件達成。
記録武装《第六記憶・風纏ノ書》、起動。
影虎の右腕に風が宿る。だがそれは吹き荒れる風ではない。
誰かの願いが風となり、彼の心を包むような、穏やかな風だった。
「行こう。まだ、“希望”は失われてない」




