第15話:記録の墓所《ムネモシュネ》へ
『影虎の記憶武装』
第15話:記録の墓所へ
異形の空間“記録の間”から出た影虎たちは、グレイに導かれ、薄暗い回廊を進んでいた。
> 「記録の墓所は、“語られなかった記憶”が流れ着く場所。
地図にも記されておらず、記憶の中にも存在しない。
だが、七つの記憶武装を手にした今なら、そこへ至ることができる」
灯りが手にした《灰鎖》が、鈍く鳴動していた。まるで、封印された何かが“呼応”しているように。
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地図にない道
旅のルートを描いていたイリスが、ホログラム上に浮かぶ空間を指差す。
> 「この座標、通常の空間構造と一致しません。
時空の裂け目……または、失われた記録の“抜け殻”。」
> 「たぶん、それだ」とミコトが呟く。
> 「《ムネモシュネ》は、“語られなかった記録”であり、“思い出されなかった記憶”の最果て。
意志なき物語たちが、そこに眠ってるの」
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記録の墓所
旅の果て。
影虎たちが辿り着いたのは、天空と海が反転したような、上下の区別も曖昧な無音の空間だった。
そこには、廃墟のような巨大な図書館が広がっていた。
だが、どの書架にも“本”はなく、あるのは空の背表紙と、埃に覆われた“記録名だけ”。
> 『願いを語らなかった少女』 『誰にも知られず死んだ戦士』 『名前のなかった星の話』
そのどれもが、“物語にならなかった者たち”の断片。
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第八の武装の気配
奥へ進むほどに、七つの記憶武装が震え始めた。
> 「呼んでる……ここにある。“まだ語られていない記憶”が、俺たちを待ってる」
影虎が呟いた瞬間、白く光る円環が空中に出現し、彼らの前に“記憶の核”が姿を現した。
それは、他の記憶武装とは異なる純白の構造。
剣でも杖でも鏡でもなく、“開かれた本のような形”をしている。
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第八の記憶武装《白書》
> 記憶武装《白書》――これは、“語る者の記憶”
灯りが触れようとした瞬間、その本は彼女の指先をすり抜け、影虎の胸元に飛び込む。
> 「……うわッ!」
影虎の意識が、急激に“他者の記憶”へ引きずり込まれる――
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回想:名もなき語り手
暗闇の中、影虎は一人の女性の姿を見る。
白い服。凛とした背筋。声を発しない口元。
その存在は、どこかで見たような“既視感”を帯びていた。
> (……誰だ……?)
女性は静かに本を差し出し、唇を動かす。
声はない。だが、確かにこう言っていた。
> 「あなたに、この記憶を託すわ。名を持たぬまま、誰かに語られることなく、私は消えた。
でも、それでもいい。“語る者”が現れるなら」
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影虎の覚醒
意識が現実に戻る。
影虎の腕には、新たな記憶武装《白書》が装着されていた。
> 「……この記憶は、“物語を語り継ぐ者”の記憶だ。
誰かの真実じゃない。“語ることそのもの”の力」
イリスが分析する。
> 「《白書》は、周囲の記憶を一時的に再構成し、書き換える能力を持っています。
それは、“語りの力”そのもの……記録を操る、物語の上位概念」
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新たな影:語りを拒む存在《無言》
突如として空間が軋み、漆黒の霧が発生する。
図書館の書架が次々と崩れ、その中から現れたのは――
> 「――物語など、語るな」
声なき声。
黒衣の存在《無言》は、影虎の《白書》に強く反応していた。