第14話:語られざるカタリナ
記録の間に、再び静寂が訪れる。
灯りが《灰鎖》を手にしたことで、空間の一部がひび割れたように揺らぎ始めた。
> 「……この空間すらも、記憶の網の上に成り立ってる。君の“受容”が、何かを揺さぶった」
グレイが呟く。
その直後、記録の間の奥――黒き虚空に“名前”が浮かび上がる。
> 《カタリナ》
それは“語られていない記録”に付された名。
誰の記憶にも存在しないはずの、原初の語り手。
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名前を知ってはいけない存在
ミコトが、唇をかすかに震わせた。
> 「カタリナ……? まさか、その名が記録の中に現れるなんて。
あれは、“存在しない者”として封印されたはずだった」
> 「知ってるの?」灯りが問う。
> 「いいえ。でも、私の記憶の中に“空白”がある。
そこに“その名だけがある”の……これは、ありえないこと」
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グレイの説明
> 「“カタリナ”とは、かつて存在した“記録そのもの”。
あらゆる物語の最初の語り手であり、同時に――“最終章を閉じる存在”」
グレイは、錆びた手帳を取り出し、そこに記された古文をなぞる。
> 「記録を統べる存在は、記憶の始まりと終わりを両方持ってしまう。
だからこそ、封じられた。記憶武装たちが散り、“物語”が分散したのも、
この存在が目覚めぬようにするためだった」
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影虎の直感
その時、影虎の中で何かが“疼く”。
《記憶武装》を得るたびに、彼の体に起きていた変化――
体格、性格、声色、そして時折見える“誰かの記憶”。
> (……まさか……俺の中に、“カタリナ”の記憶の一部が……?)
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《封印された第八の記憶武装》
グレイは、意を決したように口を開いた。
> 「実は、七つの記憶武装の他に、“存在しない”とされた第八の記憶武装がある。
それが、カタリナの核だ」
ミコトが驚愕する。
> 「でも、それって――“語ってはいけない記憶”……!」
> 「ああ。語ればその瞬間、“物語”そのものが再構成されてしまう。
だからカタリナは、記録の外へ放逐された存在だった」
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影虎の決意
影虎は《蒼環》《紅爪》《鏡写》《幻杖》《黄鐘》《黒鏡》《灰鎖》――
自身が手にした七つの記憶武装を見つめる。
それぞれの武装には、誰かの“人生”と“最期”が刻まれていた。
> 「……俺たちがこの旅で集めてきたものは、
誰かが“語られたがらなかった”真実の断片だ。
なら、俺が“語る者”になる。カタリナの記憶を辿って、真実を見つける」
灯りが静かに頷く。
> 「“終わらせるために語る”んじゃない。“続けるために語る”。
――それが、私たちの“選択”なんだよね」
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次の目的地:記録の墓所
グレイは最後に語る。
> 「第八の記憶武装は、“記録の墓所”と呼ばれる場所に封じられている。
そこには、語られなかった無数の物語たち――“失われた記憶”が集まっている。
もしお前たちがそこへ辿り着けば、全てが始まった場所に至るだろう」