第11話:影装・明宵(めいしょう)、覚醒
――黒い霧が渦を巻き、祠の地を覆っていく。
灯りの身体に、宵の鎧が静かに同調していた。金と黒の霊気が混じり合い、やがて一つの“形”となる。
それは、かつての鬼の鎧を受け継ぎながらも、まったく異なる存在だった。
> 「これは……“宵”じゃない……あなた自身の力……」
ミコトが息を呑む。 灯りの身に宿った新たな鬼装――《影装・明宵》は、まるで彼女自身の想いと過去を織り込んだように、金の紋が胸元に脈打っていた。
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静かな叫び
灯りは口を開いた。
> 「私の中に、父がいる。母の声もある。……でも、これは私の意志。誰かの“過去”じゃなく、“今”の私の言葉で答える」
「……鬼でも人でもない、あなたは……」
> 「“灯り”だよ。誰の影でもない、私自身」
その言葉に、ミコトの金瞳がかすかに揺れた。
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崩れる祠
その瞬間、地響きがした。 祠の奥から、何かが“起きた”のだ。
――ズズ……ズオオ……!
黒い霧が一気に噴き出す。 中から現れたのは、異形の影――鬼でもなく、人でもない“混じりもの”。
骸骨のような頭、無数の手、金瞳に似た光を宿した顔。
> 「あれは……《混種》……?」
ミコトの声が震える。 それは、かつて“交わりを禁じられた血”が、無理やり繋がれ、生まれてしまった存在だった。
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戦いの始まり
灯りの爪が伸びる。影のような布が背から広がり、風を切って宙を裂いた。
> 「もう、誰も……繰り返させない!」
混種が雄叫びを上げ、無数の腕で襲いかかる。 灯りは一歩も引かず、金の力をその身にまとい、前へ出た。
――バシュッ!
爪が混種の腕を裂く。だが、すぐに再生する。
> 「この再生……“記憶を喰らって”蘇ってる……!」
ミコトが支援のために印を結ぶ。
> 「私の血が通じるか、試す……!」
二人の金瞳が光る。かつて引き裂かれた血筋が、今、戦いの中で交差する。
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灯りの問い
斬り結びながら、灯りは叫ぶ。
> 「ミコト! あなたの本当の願いは何!? 復讐じゃない、ここに来た“意味”を、あなた自身が知ってるはず!」
混種の腕がミコトに迫る――が、灯りが飛び込み、かばう。
ドッ――!
二人とも吹き飛び、地に倒れる。 だが、その瞬間、ミコトの中に何かが“溶ける”ように崩れた。
> 「……私は……誰かに、信じてほしかったのかもしれない……」
その言葉に、灯りはかすかに微笑む。
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覚醒の爪痕
立ち上がる灯り。血が頬を伝っているが、金瞳はなおも鋭く輝く。
《影装・明宵》が形を変える。かつて宵が纏っていた重装の鎧ではなく、軽やかな影布と鋭利な爪、そして背に羽のような影を持つ姿――
それは「守るための鬼装」ではなく、「繋ぐための装い」だった。
> 「ミコト。行こう。このまま、誰の嘘でもなく、“真実”を見届ける旅を」
混種が最後の咆哮を上げる。 灯りは、金と黒の風を纏い、地を蹴る。
――そして、爪が真実を裂いた。
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《混種》は崩れ落ち、闇の霧が風に散った。
静寂の中で、ミコトはそっと手を差し出す。
> 「……ありがとう。灯り。私、やっと……泣ける気がする」
灯りはその手を、しっかりと握り返した。