第9話:赦せぬ者たち
宵の墓碑の前、半壊した鬼の集落に立ち尽くす灯り。
彼女の足元には、黒い霧がまだうっすらと漂い、鬼たちの魂のささやきがかすかに耳を打つ。
> (灯りよ……選ぶのだ。人の子として生きるか、鬼として戦うか)
だが灯りは、どちらにも首を縦に振らない。
> 「私は私。誰かの都合で名を捨てたりはしない」
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赦しを求める者
そこへ、村から逃げてきた一人の少女が現れた。
名前はユリ。灯りより少し年下で、村では差別されていた“半端者”だった。
ユリは、鬼の血を遠くに引いた家系の子。
それが村では「呪われた血」として恐れられ、幼い頃から虐げられていた。
> 「あなたは、鬼なのに、どうして誰かを守ろうとするの?」
灯りは答える。
> 「鬼かどうかなんて、関係ない。
誰かを傷つけたくないと思う気持ちがあるなら、それだけでいい」
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焼かれる山里
そんな灯りたちのもとへ、火の手が迫る。
――村人たちが、鬼の墓を焼き払いに来たのだった。
「鬼の呪いを断ち切る」と叫び、火を放ち、墓碑に石を投げ、鬼の名を罵る。
灯りはその光景に、静かに目を伏せる。
だが、ユリの小さな手が彼女の袖を掴む。
> 「灯りさん……やめさせよう? 人を殺しちゃ、だめ」
灯りの中で、何かが止まった。
怒りではない。悲しみでもない。
それは――赦したいという祈りだった。
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鬼の戦姫、天を裂く
黒き鬼装が、空へと広がる。
灯りの背に、亡き父の面影が重なる。
そして、鬼たちの魂が集い、巨大な鎧と化して灯りを包む。
その姿は、天を裂く“真の鬼の鎧”――《宵ノ護》。
怒りでも復讐でもない。
灯りが守ろうとしたのは、小さな赦しの意思だった。
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赦せぬ者たちの中で
火を手にした村人たちは、その姿に恐怖する。
> 「ば、化け物だ……!」
「やはり鬼は鬼だ!」
「……でも、誰も死んでない……」
灯りは鎧の中から語る。
> 「恐れたいなら、恐れて。私はもう、貴方たちを赦さない。でも……殺しもしない」
> 「ただ、生きて。罪を抱えて」
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再び歩き出す
ユリと共に、灯りは村を離れる。
燃えた鬼の墓の跡に、一本の花が咲いていた。
黒い花弁、だが根は深く、力強い。
それはまるで――
> 「あたしみたいね」
灯りは小さく笑い、次の地へと足を進めた。