Chapter3 フェルマノートの加護
昨日連載できなかったので、長めのにしましたm(_ _)m
⋯とは言ってみたものの、何から始めればいいのかなんの検討もつかない。
「羽水ーっ!」
私の思案に応じるかのように、それはひらりと私の目の前に姿を表した。
フェルマノート!?
映像じゃない。本物だ。肉体がちゃんと存在してる!
「力はまあ貸せると思うよー。あと、呪われた特典があるはず!見といたほうがいいと思う!」
呪われたのに特典もらえるの?
すごい世界だな。
「うん。樹人化なら基本的には植物系の魔術のバフってところかな~。ま、足動かせないもんね~。代償みたいな?」
あれ?
私足動かせなかったっけ。
不思議に思い、試しに足に力を込めて動かそうとした。
⋯⋯。
我が足微動だにせず。
そういえば、気づいてなかったけど足が完全に樹皮で覆われていた。
私は木なんだなぁ⋯。
「⋯あたしのこと信じてないの~?悲しーよぉ。神なのに⋯」
⋯陽キャピンクを信じ切るには、もう少し時間がかかりそうだ。
「めそめそぉ⋯⋯」
「そういや植物系の魔術って?私にも使える?」
植物を操る魔法なのだろうか。正直想像がつきづらいところではある。
「えーとね⋯修行というか特訓というか、そーゆーのをやればすぐできるよ!」
流石に最初から使えるわけではないらしい。まあそれもそうか。
「まずは~⋯これだっ!『魔術概覧』だよ!」
⋯まじゅつ⋯がいらん?
聞いたことのない響きだ。便利アイテムみたいななにかなのだろうか。
「ふふーん、お察しの通りでーす!これを使えば羽水が何の魔法を使えるか一覧表示してくれるんだよ!」
まじか!!
じゃあ習得できたかどうかもこれで確認できるってわけね。
「そゆことー!じゃ、特訓やっちゃいますか!
まずは、あの樹をよく視て。葉の一枚一枚、根や枝の一本一本、樹皮の一つ一つにまで向き合うんだよ」
言われたとおりにさっき呪われたときに生えた目の前のドーム状の樹を眺めてみる。
改めて見てみると、同じ葉でも形や色、質感がそれぞれ大きく異なっていることに気づく。
それは根も枝も樹皮も同じだ。
たくさんの個性が集まって、たくさんの生が集まって、一つの個体―「樹」があるのだ。
ザアアァァ⋯。
つと、視界を力強い緑色の流れが横切った。
それは視界全体を覆ったかと思えば、波が引くように乍ち消えていった。そして―。
「わああ⋯っ」
樹の至る所が脈のように繋がり、それを鮮やかな緑色の光が流れていた。
真昼間なのに、イルミネーションのようにその光は強大な存在感、そして神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「フェルマ⋯⋯!視えた、よ⋯⋯!」
感動のあまり、気づけば私は溜息を漏らしながらそう呟いていた。
「これが茂術―植物の魔術の原動力の、「緑力」だよ。これは生きている植物全てが持っている生命力の一定割合分を他者に干渉できるように変換したもので、生きようとする思いが強ければ強いほど緑力は強まるんだ!そしてこれは羽水にもある。自分のこと、さっきみたいに視てごらん」
私はフェルマに言われたとおりにする。
ザアアァァ⋯ザアアァァ⋯。
意識を向けてすぐのわたしの緑力は体内を循環するように動いていたが、それらは段々頭に向かって集まってきた。
「こうやって、支配下にある緑力は簡単に操れるんだ。まあ、魔物でいう魔力みたいなものだねー。じゃあ、これを明確なイメージを使って具現化してみよっか」
何か植物に関係あるものを思い浮かべて、とフェルマに言われ、真っ先に私が思いついたのは桜だった。
この世界は桜、ないんだろうな、なんて思っていたから。
でも、緑力で具現化すれば、作り出せるのではないか。
夢が段々と膨らんでくる。
桜といえばやっぱりあの桃色の花びらだ。
私は桜の花びらを構成する要素を一生懸命イメージした。
形、質感、色⋯⋯。
⋯これは、緑力を視たときと同じ⋯!
いや、その逆をやればいいんだ!
さっきの感覚を呼び戻し、改めて桜の花びらを強く思念してみる。
頭に集まった後その中を自由に飛び回っていた緑力が、圧縮されて、形を得ていく。
ポンッ
そしてそれはついに、現実に現れた。
「フェルマ⋯⋯私⋯⋯できたっ!」
「羽水⋯!やったじゃんっ!」
笑顔でフェルマノートと私はハイタッチした。
《個体名・布津羽水の魔術概覧に茂術「緑力視認」「緑力顕現」が追加され、使用可能になりました》
夕日が木々や羽水、フェルマノートを照らし、暗い影をつくっている。
フェルマノートは今日一日、内心ではずっと驚愕していた。
羽水の成長速度は今までに類を見ないほどずば抜けていたのだ。
緑力を顕現させるなど、月単位の時間がかかるのが普通だというのに、彼女はそれを数十分でやってのけたのだ。
正直、自分よりも才能があるのではないかとも思っていたが、どうせ世界間戦争で滅ぶ身だ、神至―神へ上り詰めることまでは叶わぬだろうとも踏んでいた。
「おやすみ、フェルマ」
穏やかな口調でそう言い、直ぐに眠りに落ちた羽水をしばらく見た後、フェルマノートは高速で地面に魔法陣を描き始めた。
「神術・加護」
「神術・神盾」
「神じゅ―」
しかし、近づいてくる足音に、フェルマノートは詠唱を中断し―いや、中断せざるを得なかった。
目の前に、巨軀の少年が立っていた。
「音神じゃん」
「ああ。音神だとも。ところでフェルマノートよ。さっきから何をしているのだ?」
軽い調子のフェルマノートとは対照的で、音神、と呼ばれたその少年は険しい顔をしている。
「何って⋯詠唱だよー」
「誰に?」
「あたしだよー」
「嘘をつけ!」
ドン、と音神は足を鳴らした。
けたたましい音がなる。
しかしそれは反響せず、フェルマノートの耳に届いた途端に消滅する。
「⋯あんたに嘘ついても無駄だったね。それが音である限り⋯」
意外にもフェルマノートはそれが嘘であるとすぐに是認した。
「そこの樹人ちゃんだよ~」
フェルマノートが羽水を指差すと、音神は溜息をついた。
「ったく、何故戦争に加担しているのだ」
「加担はしてないよー?」
「これを加担と呼ぶのだ」
またも音神は溜息をつく。
「この世界を見放せば、戦争はすぐに終結しただろう?何故そうしない」
「だって⋯自分の故郷だよ?侵略されちゃ嫌じゃんか~」
わかってくれよー、と軽い口調でフェルマノートは言うが、その目は笑っていなかった。
「兎も角、その娘に手出しをするのはやめておけ。それこそお主と娘の立場が逆転してもおかしくないぞ」
「それいーね。そのほうがあたし嬉しいかも」
「冗談も大概にしろ、フェルマノート」
私はお主を案じてこうも苦言を呈しているのだぞ、と音神は言う。
「ふーん。ま、ほっといて」
「⋯次会ったときには、既に私は敵かもしれない」
「わかったから、もういいでしょ?」
フェルマノートはそう口早に告げて、生の空間へと転移し、暗い森には眠る羽水と残された音神―ヴォファラドだけが居たのだった。
「羽水。樹神ウミ。普通なんて枠、外しちゃいなよ」
フェルマノートがそう言っている声が聞こえたのは羽水だけだったという。
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