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第七話 レベル3の冒険始まります

「結構、良くなったかも」


 リンカはベッドの上で、確かめるように体を捻った。

 五日前──謎の男に襲われ、意識を失ったあの日。

 

 目を覚ました時にはベッドの上だった。

 腹部にはドス黒いアザ。少しでも動けば体中に痛みが走った。

 けれど、ようやく体を動かせるまでに回復した。


「よかったな。……壊した俺の店、直すまで気張って働けよ?」


 軽口を飛ばしてきたのは肉屋の店主ラッド。

 モジャモジャの髭と大きい体、ちょっと強面だけど面倒見はいい。


 この家まで運んでくれたのも彼だった。

 そして、今日まで──ずっと世話をしてくれていた。


「はいはい、分かってるってば。ミラのヤツが壊した分、ちゃんと働くから」


 リンカは口を尖らせながらも、どこか嬉しそうに返す。


「嬢ちゃんには可哀想だが俺も切羽詰まってんだよ。こちとら、身体壊して冒険者引退した開拓者のおっさんだ。あの騒ぎでぶっ壊された店がなきゃ、どうしようもねぇ」

 

 ──あの日、リンカが男に襲われて意識を失った後に何があったのかは分からない。けれど、ラッドから聞かされた話がある。

 

 リンカが意識を失うとミラリエは怒りに任せて何かを放ったらしく、広場全体に衝撃が走ったという。

 

 その時、一番近くにあったのがラッドの店だった。看板は吹き飛び、壁が崩れ、店は半壊状態になった。

 

 そして──ミラリエはそのまま、あの男と共に何処かへ消えた。

 何の言葉も残さずに。

 

 リンカはそっと立ち上がり、軽くストレッチを入れる。

 まだ痛むけれど、歩けそうだ。


「私のせいで壊れたようなものだから、精一杯頑張るよ」

「その意気込みは良いんだがな……いかんせん、ここは開拓村だ。

 仕事っつっても、住民の依頼をこなすか、行商人に素材を売るか……魔物を討伐するしかねぇぞ?」


 ラッドが困ったような顔をする。

 でもリンカは、顔を上げて答えた。


「出来ることは何でもするつもりだし、ミラが言ってたんだ『お金を稼ぐなら魔物狩りが効率いい』って。それに私のスキルのことだってあるから……。だからまずは、レベルを上げていきながら考えるよ」


「──スキル?」


 ラッドが眉を上げた。


「うん。私のスキル、《マイホーム》。たぶん、ただの家を出すスキルじゃない気がしてて……。ちゃんと、確認してみたいんだよね。もしかしたら、もっといろいろ出来るかもしれないし」


 リンカはポケットの中からスマホを取り出す。

 初めてちゃんと向き合おうと思った。

 与えられたスキル、そしてこの異世界の仕組みに。


 この数日間、リンカはただ寝込んでいたわけではない。

 自分のスキルについて考えていた。

 

 スキル《マイホーム》は、家を設置できるという謎めいた能力だ。それを唱えるとウィンドウが浮かび上がり、ポップな家のイラストと共に、耐久値や設置物の一覧、部屋数などが簡素に表示される。

 

 特に何かできるわけでもない。


 だが、リンカは画面上にあった《マイホームレベル1》という表記が気になっていた。

 

 この世界ではレベルという概念がある。

 そのレベルとやらを上げれば、正解のようなものに近づけるのではないかとリンカは考えていた。

 

 レベルが関係しているのは、スキルだけじゃなかった。スマホに入っているアプリにも、同じような制限がかかっていた。

 

 スマホにはアプリがインストールされており、《マイスペ!》以外に、あと二つロックされているアプリがある。

 

 一つには《レベル10でアンロック》、もう一つにはただ《???でアンロック》とだけ表示されていた。


 空間編集アプリである《マイスペ!》にも未解放の編集機能が存在していた。

 「設置」「撤去」のタブの下には、グレーアウトされた新しい機能がいくつも眠っている。

 

 一体、何ができるようになるのか。

 リンカの中に、静かな興味と期待が芽生えていた。

 

 はっきりとした事は何も分からない。

 だが、開くウィンドウ、アプリ、スキル画面……すべてに『レベル』という文字が出てくる。

 きっと、それが鍵なんだ。

 

「そうは言っても嬢ちゃん……、今のレベルはいくつなんだ?」

「3だけど?」

「はぁ! レベル3!? そりゃあ、いくらなんでも命知らずだぜ!」


 ラッドは慌てて言葉を捲し立てる。 


「ここいらの魔物は少なくてもレベル25は無いと厳しいんだぜ? スライムや角ウサギなんか倒しても、いいとこレベル10ぐらいまでしか上がらねぇしよ。それ以外に出くわしたらアウトの運頼みになっちまう」


「ふーん、そうなんだ」

「何が『そうなんだ』だ、バカヤロウ! そんな甘い考えじゃこの村じゃ三日ともたねぇぞ……!」


 怒気をはらんだ声が静かに響く。

 ラッドの鋭い視線がリンカに突き刺さるが……。


「しょうがないじゃん。前に進むにはそれしかないんだから」


 あっけらかんとリンカは言い放った。


「はっ、バカが。あーあ、これだから若いやつは嫌なんだよ。一時の気持ちだけで突っ走ろうとしやがる」

「でもさ、思い立ったら吉日って言うじゃん? それに、冒険ってそんなもんでしょ」


 リンカはニコっと笑ってラッドを見た。

 少しの沈黙の後にラッドは言った。


「ああ、冒険なんてそんなもんだ」


 モジャヒゲの男は優しげに微笑んだ。


「って言ったけどさ。私、武器も何もないんだよね」

「んなこったろうと思ったぜ。よし、俺の店行くぞ!」


「え……なんで?」

「使ってねぇ装備があんだよ。それを店から掘り起こして、狩りに行くぞ?」


「体悪いのに大丈夫なん?」

「まぁ、多少はどうにかなる。それに……やっぱなんでもねぇ」


 恥ずかしそうに言うラッドに軽口を叩くリンカ。

 楽しげな会話を残して二人は家を後にした。

今回は迷いに迷って設定回としました。

リンカの決意と新しい登場キャラのモジャヒゲおじさん。

そして、居なくなったミラリエ。

ここからリンカの冒険が本格的に幕を開けます。


ここまで読んでくださりありがとうございます

次回はもっと面白くなるように頑張ります!

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