遂げられた思い
「……このペンダントを壊したら、あなたはどうなるの…?」
「…さあな。まあ、この世から消えるのが道理だろう。………はあ、こんなふうに同情されるのが嫌だったから一芝居うったというのに」
ため息をつきながらも、魔王は心なしか晴れやかな表情をしていた。
「…これしか方法はないの?」
「ああ。さっさとやってくれ。……どうしたのだ、悪の元凶である魔王が完全に消滅し、魔物も消え、お前の呪いも解ける。何を躊躇うことがある」
いつもの意地悪い表情を浮かべる魔王。
それでも、私はその表情が魔王の本質を示すものではないことを、先ほどの話を聞いて確信していた。
「…あなたは、優しい人、なのね」
私の言葉に、魔王は目を見開く。
「…ずっと、考えてたの。あなたと過ごす日々の中、あなたは…本当は思いやりをもった人なんじゃないかって……」
「はっ、そんなわけがなかろう。お前は愚かなほどにお人好し…」
「これまでもっ」
魔王の言葉を遮る。
「これまでも、あなたは私をたくさん…助けてくれたっ! ジェームズ王子に初めて呼び出されたときも、街で私が襲われたときも、誘拐されたときも! 他にもいろいろ…。あなたはいつも、私の身を案じてくれていたわ」
「…それはお前が死んだらペンダントの件に影響するからで、」
「それだけじゃない。今の話を聞いて確信したの。…あなたが夜に姿を消している日、あれは統率者を失った魔物たちの様子を見に行っていたんじゃないかって」
「……。」
「騎士団が順調に魔物を制圧できてきたのも、あなたが……」
「…もうよい!!」
顔を下げて大声を上げた魔王は、数秒の沈黙の後、ゆっくりとこちらに向きなおる。
「…我は魔王。人間を憎み、人間に憎まれる者。……愚かな小娘よ、我を侮辱するのも大概にせよ。我は、人間の敵。この命尽きるまで、それが変わることはない」
重圧をもった声が城に響き渡り、空気がビリビリと震える。
初めて魔王城に来たときと同じ、聞く者に緊張感を与える声。
しかし、それはここにいる者を威圧させようとして放った言葉でないことを、アリシアは分かっていた。
__これは、魔王の、魔王としての、”覚悟”の宣言だ。
私はルイと目を合わせた。
「殿下…」
「ああ、僕には彼の姿は見えないけれど、そこにいるんだろう? 声だけは聞こえていた。…いいんだね?」
「……お願いします!!」
ルイの手から放たれる光に包まれ、ペンダントは徐々に形を崩していく__。
___。
その中から、白く光る美しい魂が浮かび上がってくる。
「リリー…まったく。やっと会えたな…」
魔王が白い魂に寄り添うようにして、光の泡の中へと消えていく。
「…お前と過ごした時間、とても楽しかったぞ」
そんな呟きが聞こえた気がして見た魔王の表情は、見たことのないほど、__穏やかなものだった。
(……次に生まれ変わったときは、彼が、大切な人と、幸せになれますように…)
部屋の中心に生じていた淡い光が、完全に消える。しかし、ランタンはもう必要なかった。城の窓からは、一日の始まりを告げる柔らかい光が差し込み始めていた。




