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因縁の魔王城へ

 魔王城に着くころには、辺りはすっかり闇に包まれていた。


「このあたり、以前は魔物がたくさんいたのに…」


 今はただ冷たい夜風が吹くばかりで、ひどく静かな空気が広がっている。


「騎士団が討伐を続けているからね。でも用心はしておこう」


 ランタンで足元を照らしながら、私たちは魔王城の前に着いた。この地に立つのは、一か月半ぶりだ。

 魔王はここに来るまで言葉を忘れたように一切何も語らず、私から少し離れたところを飛んでついてくる。呪いを解く手段を見つけられて悔しがっているのかとも思ったが、普段は豊かにくるくると変わる表情が、今は仮面をつけたかのように静かなままだ。


「さあ、探索を始めよう」


 ルイを先頭に、城の中へと足を踏み入れる。

 城の扉は先の討伐により破壊され、冷たい空気が中に流し込まれていた。城の中は思っていたよりも瓦礫が散乱していた。足元に気をつけながら、お互いにはぐれないよう進んでいく。


「たしか、こっちが屋上へとつながる階段だったはずだ。屋上から下へと順に見ていこうか」

「ええ、そうしましょう。レオ様もそれでいいかしら」

「はい。わかりました」

「…レオ様、随分と後ろの方をついてきていますが、もう少し距離をつめて歩きませんか。もし、瓦礫が落ちてきて分断されたら危ないと思うのですが…」


 レオは魔王の隣につくようにして私たちの後ろを歩いていた。

 彼は、ご心配なく、と笑顔で返すが、やはり気になってしまう。


「……レオなら大丈夫だよ。それよりも、アリシア。君はちゃんと僕の後ろについていて」


 そう言ったルイの声は、何だか拗ねているような感じがした。とても珍しい声色だ。

 そんなに離れてしまっていたかと慌ててルイに駆け寄る。

 



 その私たちに届かないような声で、レオは隣へと囁く。


「__これは私のただの推測ですが……。魔王、あなたは、オベール嬢が呪いを解くことを……」


 魂の声を聞くことができないと理解しつつも彼がこぼしたその言葉に対して、魔王が独り言ちることはなかった。



 屋上、三階、二階、と全ての部屋を見て回ったが、怪しいところは見つからなかった。どこかに魔物が潜んでいるのではと警戒していたが、不気味なほどに、その姿はない。

 一階に下りてきた私たちは、玉座の間と思われる広間にたどり着いた。

 薄暗い広間を、ランタンで照らす。

 正面ある玉座以外は、何もないような質素な広間だった。広間に入った私たちは、それぞれ細部を調べていく。

 玉座の方へ寄っていった私は、あるものが玉座の上に載っていることに気づいた。

 遠くから見たのでは分からない小さな箱。箱の外面はところどころがひび割れているが、玉座の周りに戦闘の形跡はない。塗装が色あせていることからも、この箱はかなり古いもので、長く大切にされてきたものの、形を保つのがやっとの状態なようだ。

 私は引き寄せられるようにして、箱を手に取り、壊さないようゆっくり蓋を開いた。

 そこには、黒い宝石のペンダントがひとつ入っていた。こちらも錆が目立つ。


(なんだかこのペンダント…)


 違和感を抱いて、とある推測を立てるが、とりあえず報告しようと声を上げる。


「あの、ここに……」






<くっくっくっ、ようやくこの時が訪れたな>






 突然、広間に魔王の声が響いた。


「この声は……魔王っ!!」


 ルイが叫ぶ。なぜかルイにもこの声が聞こえているようだ。

 レオのいる場所を見るが、困惑の表情を浮かべる彼の横に、魂は飛んでいない。この広間のどこにも、魔王の姿が見当たらない。


「魔王が突然姿を消しました! 気をつけて!!」

 

 レオが魔法を発動させる準備をする。


「我が城の物は、魂の状態でも操ることができる…。さあ、始めようじゃないか」

「っ…!!」


 不意に無数の剣が現れ、正面から襲い掛かってくる。

 それを避ける際の勢いで、ペンダントを落としてしまった。

 急いで鞘から剣を抜き、いくつもの太刀筋に対応する。しかし、数に押されてだんだんと後退させられていく。


「…くっ! おそらく、そのペンダントが呪いの根源です! しかし…」

 

 宙に浮いた瓦礫による攻撃に対して土魔法で抗戦するレオが、自らの推測を大きな声で唱えた。


「なら、破壊するまでだ…!!」


 魔王の攻撃の手が緩んだ隙を見て、ルイの手に光が集まりだす。その目が捉えるのは、床に落ちたペンダントだ。


「……お待ちください! ルイ殿下!」


 私の声に驚いたルイは、魔法の発動を中断する。


(確かめないといけない…。あの違和感を…!!)


 襲い掛かってくる剣から距離をとった私は、持っていた得物を床に落とす。すると、宙に浮かぶ無数の剣は円状に私を取り囲み、今にも突き刺さんとする構えをとった。


「何をしているんだ、アリシア!!」


 ペンダントに魔法を発動するための手を向けたまま、ルイが怒鳴る。


「くっくっくっ、自分から死のうというのか?」


 喉元に鋭い刃が向けられる。少しでも動けば、一瞬で切り裂かれてしまいそうだ。


(…だけど、あなたはそうしない)


 いまだに姿を現さない魔王に向け、毅然として話しかける。


「あなたの話を聞かせて。あなたは、——そのペンダントの中にいる人をどうしたいの?」


 箱の中に入っているペンダントを見たときに感じた違和感——。

 今分かった。あれには、魔王と同じような誰かの魂が閉じ込められている。


「………」


 魔王は問いかけに答えない。しかし、ルイとレオに対する攻撃の手を止めている。


「…私にも感じられます。そのペンダントには、魔王とは別の魂が封印されているようです」


 瓦礫の上から飛び降りたレオも、私と同じものが見えているようだ。

 広間に静寂が広がる。魔王は深いため息で、その長い沈黙を破った。


「…そこの紺髪の奴には気づかれるかもしれないと思っていたが、——お前にも見えるのだな」


 魔王の声色が変わった。


「話して。こんなことしなくても、あなたの願いが分かれば、協力できるかもしれない」

「はっ、この状況でそんなことが言えるのか? とんだお人好しだな」


 いまだに剣先は私に向いたままだ。しかし、私は怯まない。


「お人好しはどっちよ。なぜ、あなたはこの城に入ってすぐには攻撃を仕掛けなかったの? 今だって、私たちを傷つけようとはこれっぽっちも考えていないんでしょ」

「……。」


 ガチャンガチャンという音とともに、宙に浮いていた剣が床に落とされた。


「はあ、もうよい。話そうじゃないか」


 それと同時に、床からいつもの魂の姿である魔王が浮かび上がってくる。


「——そいつの魂を、解放してやってほしい」


 ペンダントを見つめる魔王の顔から感情は読み取れないが、切実さを感じさせる言葉だった。


「そこにいる魂の持ち主は、我の………古い知り合いだ」




残り三話です。

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