いざ、反撃(前編)
レオが戻ってきたのは、次の日の早朝だった。
「すみません、慣れない屋敷に一人にさせてしまって…。ああいえ、正確には二人ですかね。何かご不便はありませんでしたか」
「いいえ、皆さんとてもよくしてくださいました」
ここの使用人たちは、突然やってきた事情も聞かずに私を暖かく受け入れてくれた。
使用人の態度は主人に依存する。主人が威張り散らかすような傲慢な人物なら、使用人は委縮し覇気のない顔をするものだ。しかし、ここの使用人の態度を見るに、少なくともレオがそのような悪い人物であるようには思えなかった。
「あの、一度伯爵邸に連絡を取りたいのですが…」
一晩考えたが、侯爵邸に戻ることはできない。侯爵夫人が本当にジェームズに加担しているなら、姿を見せたときに何をされるか分からない。
そのため、事情をよく知り、絶対的に私の味方をしてくれるソフィアに連絡を取り、伯爵邸に匿ってもらいたい。その後の行動は、オスカーなども引き込んで複数人の協力を得て考えた方がいい。
「そんなことをしなくても大丈夫。すべてが片付く方法があります。——王宮へ行きましょう」
「王宮へ、ですか」
たしかに一番手っ取り早い方法だが、事がややこしくならないだろうか。国王に今回のことを説明するにも、証拠も何も持ち合わせていないし、あらぬ誤解が生まれないように、できれば二晩も第一王子の別荘にいたことは隠したい。それに、王宮内にも第一王子の手先が潜んでいるかもしれない。
「心配はありません。すべて私にお任せください」
歯切れの悪い返事を返した私へニヤリと笑ったレオの瞳には、闘志が宿っているように感じた。
*
私とレオ、それから魔王が乗った馬車が王宮の前に着くと、門番に止められた。
「どちらの家紋の方でしょうか」
訝しむ門番に対してレオが何かを見せると、「し、失礼いたしましたっ!」とすぐに門を開けてくれた。
——いったい彼は何者なのだろうか。
門番から連絡がいったのか、慌ただしく王宮の使用人たちが外に出てきてずらりと並び、出迎えをしてきた。執事に案内され、王宮内の応接室に通される。
案の定、ここに来るまでにすれ違った人々からは、好奇の視線を向けられた。
「あら、アリシア様じゃない。そういえばあの噂は本当なのかしら?」
「ああ、第一王子との…。あれが本当なら素晴らしい話だよ。未来の王と王妃が決まって、この国も安泰だな」
などという話声があちこちから聞こえてきた。
私が姿を消してから二日しか経っていないというのに、侯爵夫人はもう噂をここまで広げたのか。一刻も早く訂正したいところだが、今はレオを信じてついていくしかない。
応接室に案内されてから少し経った頃、扉の向こうから何やら言い争う声が聞こえてきた。
「兄上! いったいアリシアに何をなさったのですかっ!?」
「何のことだ。あの令嬢は私と恋に落ち、自ら私のもとへ来たのだぞ?」
「それが嘘なのは分かっています! アリシアがいなくなる直前まで一緒にいた伯爵令嬢の証言があるのです! ……アリシアは今、どこにいるのですか」
「ふんっ、言いがかりはやめてほしいものだ。自分が選ばれなかった嫉妬か? 見苦しいな」
(この声は……ルイ殿下!!)
扉の向こうに会いたくてやまなかった人がいる。
「うげっ! ムズ男か?」
しかし、魔王の言う通りジェームズの声も聞こえてくる。
会いたい人と会いたくない人が、どちらもこの扉の向こうにいる。一体どうすればいいのか。
そんなふうに悩む私などお構いなしに、レオは応接室の扉に向かってスタスタと歩いていき、躊躇いなく応接室の扉を開けた。
「やあ、ルイにジェームズ。会えてうれしいよ」
「ああ、レオ。もう来てたのか…。ただ今それどころじゃなくて……って、アリシア……!?」
「お、お前はたしかルルシスの…」
アリシア…! とルイが震える声で叫び、私の手をとる。
「ああ、よかった…。本当にアリシアだ…。何があったのかと本当に心配で…」
ひざまずいて私を見上げるルイの顔にはクマがあり、疲れの色が見えた。
こんな顔色になるほど私を心配してくれていた、ということが伺えて、胸が熱くなる。
「な、なぜ侯爵令嬢がここに…っ」
ジェームズが弱弱しい声で呟く。顔は青ざめ、手には若干の震えが見える。
「さて、揃いましたね。ちょうど陛下からのお呼び出しも来たようです」
そう言ったレオの視線の向く扉の先には、執事が頭を下げて待っていた。




