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番外編 ーとある王子の物語ー

「お前が生まれてこなければ…! 母上は、母上は……っ!!」


 兄は歪んだ顔をして僕の首元に掴みかかる。


(ああ…僕は何で…)


 この世に生まれてきてしまったのだろう。



 僕を産んだ後遺症が悪化して母が亡くなった後、兄は僕に一層辛く当たるようになった。

 魔法も使えない。剣術もできない。王族にふさわしくない役立たず。

 愛する母の命と引き換えに生を得たのは、とんだガラクタのような人間だった。


 兄は顔を合わせる度に、蹴る、殴る、暴言を吐く。毒を盛られたこともあった。

 使用人たちはそれを見て見ぬふりをしていた。

 当然だ。将来王になる才をもった人間がどちらかなんて、はっきりしていたからだ。

 父は母を失った悲しみを埋めるように政務に没頭していたため、子を気にかけたりはしなかった。

 誰にも、僕は必要とされていなかった。


 兄の不興を買わないよう、外に顔を見せないように部屋に閉じこもる日々が続いた。

 友達とも一切連絡を取らなくなった。

 この世のすべてに絶望してもなお、死ぬことを選べなかったのは、


「__あなたは私の宝物よ、ルイ」


 母が死ぬ間際に言い残してくれた言葉があったからだ。僕が自ら死を選ぶことは、母の命と気持ちを無碍にすることに他ならなかった。


 死んだように過ごし続けたある日、急に兄が部屋を訪ねてきた。


「ふっ、久しぶりだな。今日はお前にいい知らせを持ってきてやったぞ」


 一枚の書類を投げ渡される。そこには、“魔王討伐計画”の字があった。


「お前をこの任務の責任者に推薦してやった。招集に応じた者を引き連れて、魔王を討伐してこい。話はそれだけだ。…チャンスを作ってやったことに感謝するんだな」

 

 兄はそれだけ言って去っていった。

 

 魔王。それはこの大陸に何百年も存在している魔物の統率者である。

 魔王討伐は、祖父の代まで国家主導で何度も行われてきた遠征だ。しかし、それらの遠征は全て失敗に終わり、魔王は現在も生きながらえている。

 今回の遠征が失敗することなんて、目に見えている。相手は何百年も生きた魔物の長だ。


(チャンス…)


 兄の残した言葉を反芻する。

 きっと、兄は本当に僕が魔王を倒してくるだなんて思ってもいない。


(チャンスというのはきっと…)


 王族として役目を全うした上で——、“死ぬチャンス”ということだろう。



「頼んだぞ」

「はい。父上」


 魔王討伐へ出発する当日。

 王宮の外は招集に応じた人々で溢れていた。表向きは僕の管轄である第二王宮騎士団はもちろん、貴族や市民で自ら志願した者も大勢集まっていた。

 僕はフードをかぶり、騎馬隊の中心に用意された自分の馬へと乗る。


「あれが第二王子殿下か。初めて姿を見た」

「幼いころの殿下はよく行事にもいらしていたが、最近はとんと見かけなくなったよな」

「顔が見えないな。おい、ちょっと前にいかせてくれよ」


 人々は僕の姿を見てざわざわと話し出す。


(見ないでくれ…)


 僕はフードを深くかぶりなおした。

 これからこの人たちの指導者となる僕がこんなに生気のない顔をしていたら、人々は不安に思うだろう。僕にとっては死への旅路でも、彼らにとっては希望の出発なのだ。


 魔王城までの道のりは、大陸の南側に位置する王宮から北の果てまでというとても長いものだった。しかし、南とは違い北の海流は荒れているため、船で移動することもできず、陸の道を進むしかなかった。

 王宮を出てからは街をパレードのようにゆっくり進み、人の少ない地域に出ても歩兵が多くいるためにスピードは上がらない。

 僕はただ馬に揺られながら、死への覚悟を決めようとしていた。

 __もう、後戻りはできなかった。



 一週間もかければ、ようやく大陸の北側地域に入った。この辺りは開拓が進んでいない地域も多く、魔物の出現率も今までより高くなってくる。道が整備されていない箇所もあるために速度は上がらないが、意外にも隊列が乱れることもなく討伐隊は順調に歩を進めた。


「おい、聞いたか? 先頭の騎士が出くわした魔物を次々に倒していっているらしい」

「それは頼もしいな。でも、先頭は新人の王宮騎士か志願兵の集まりじゃなかったか?」

「ああ、その志願兵の中にすごい人がいるらしい。しかも、貴族出身で、なんと——」


 僕の周りを囲む騎士たちからそんな話が聞こえてきた。


(皆、才能のある人物ばかりだ…)


 これが負け戦であることに変わりはない。ただ、この討伐に参加する勇気をもった人々を僕は心の底から尊敬していた。自分はここで死んでもいいから、できることなら才能と勇気を併せ持つ自分以外の人たちには無事に帰還してほしいと思った。


 日が沈み出すころ、森の中で野営の準備が始まった。

 中央には僕のテントが用意されていた。他のテントとは違って質の良いそのテントに、自分は全くふさわしくないという思いが沸き上がる。

 だんだんと中にいるのが居たたまれなくなり、フードをかぶってこっそり野営地から離れた。

 森の中を右も左も分からず、とにかく進む。

 ここで自分が魔物に出くわして死んだら、残された討伐隊は帰還の道を選ぶだろうか。そうなれば、無駄な犠牲を出すこともないのではないか。

 そんなことを考えながら無我夢中で歩いていると、とたんに視界が開けた。そこには、大きな湖が広がっていたのだ。


「——あら、こんばんは。…同じ志願兵の方かしら?」


 夕日が反射する湖に見惚れていると、突然下の方から声をかけられて驚く。

 こんなところに人がいるとは思っていなかった。しかも女性だ。


「私はアリシアといいます。……うーん、年齢が近く見えるから敬語はいらないかしら?」


 そう名乗った彼女は、湖を見に来たのなら一緒に見よう、と僕に座るよう促した。

 その口ぶりから、彼女は僕が誰であるかを知らないようだった。フードもかぶっているし、王族の証である銀髪も見えてはいない。

 特段断る理由を見つけられず、少し躊躇いながらも、その言葉に素直に従った。それに、なぜか彼女に惹きつけられる感じがしたのだ。


「…お名前を聞いてもいい?」

「………ルイ」

「ルイ? どこかで聞いたことのあるような名前ね。思い出せないけど…」


 彼女は首をかしげて、うーん…、と唸っている。

 そんな彼女は手を顎に添えていて、自然と服の袖に目がいった。そこにつけられたボタンに彫られている紋章は、オベール侯爵家のものだ。


「…君は侯爵家の人なの?」

「ええ、そうよ! なぜ分かったの?」

「服についてるボタン…」

「あ、そうか! 紋章があるものね。実はこの服、侯爵家の騎士団の格好なのよ。魔王討伐に参加するってお父様に伝えたら、特別に用意してくださったの! 本当の騎士になれたみたいで嬉しいわ!」


 アリシアは一度立ち上がって、服を見せるようにくるっと一回転して見せた。

 彼女の話の内容や口調から、ただの侯爵家の見習い騎士というわけではないことが伝わってきて、一つの可能性を考える。


「…もしかして君は、侯爵家の令嬢なの?」

「ええ、私は侯爵家の長女、アリシア・オベールよ」


 座りなおした彼女が笑顔を向けて答えたその言葉に驚愕する。

 貴族令嬢が剣を握って魔王と戦いに来ているなんて、誰が考えるだろうか。


「…信じられないって顔してるわね。わかってるわ、令嬢がこんなところにいるのはおかしいってことくらい。でも今日だって、すでに何匹も魔物を倒したし、戦力にはなってるのよ?」


 魔物を倒した、ということは彼女は先頭集団にいたのだろうか。その割には、彼女は傷ひとつ受けていないようだし、相当の実力者のようだ。


(貴族の令嬢が自ら前線で人々のために戦っている…だなんて)


 __なんて格好いい人なんだろう、と思った。


 何も答えない僕に、アリシアはだんだんと悲しそうな表情を浮かべ始める。

 はっ、として急いで口を開く。


「いや、おかしくなんて、ないよ。ただ、格好いいなと思って…」

 

 僕の言葉に彼女は目を輝かせる。


「ほんとうに!? そんなこと言ってくれた人は初めてよ! ああ、どうしよう、嬉しすぎるわ!!」


 僕の言葉ひとつでこんなにも喜んでくれるなんて思わなかった。

 彼女を見ていると、先ほどまで死のうとしていた冷たい心が嘘のように温まっていく。

 こんなに愛らしい令嬢は、侯爵家でも大事に育てられてきたに違いない。なぜ、侯爵はこんな戦場に送る決断ができたのだろうか。


「…実は侯爵家では私が剣を握ることを否定的に考える人が多いから、私を“変”と考える人はいても“格好いい”なんて言ってくれる人はいなかったのよ。やっぱり今回の討伐に参加してよかったわ! 皆実力のある人たちばかりで勉強になるし、今日はルイに出会えたものね」

「…君がここに来ることに侯爵は反対しなかったの?」

「うーん、最初は侯爵夫人から参加を進められたんだけど、私が自ら行きたいってお願いしたら、お父様はすぐに認めてくださったわ」


 大事な娘を戦場に進んで送り出そうとする母親がいるというのか。侯爵も、どういう考えで快諾したのだろうか。

 彼女の話す内容から察するに、侯爵家は彼女にとって居心地の悪い場所なのかもしれない。

 そんな環境にいながら、彼女はこんなにも明るく振る舞えるのか。


「私の話だけじゃなくて、ルイの話も聞かせてほしいわ」

「……僕は、辺境に住む貴族の次男だよ。君みたいに自らここに来ることを選んだわけでも、剣の才能があるわけでもない。兄に言われて参加しているだけなんだ。ここに来るまでも大した活躍なんてしていない。ただの……役立たずだ」


 身元以外は本当のことだ。彼女と比べて自分を省みると、なんて程度の低い人間なんだろうと思う。

 僕の否定的な内容の話に、しばらくの沈黙が流れた。


「…私は、人には向き不向きがあると思うの」


 アリシアは日が沈み切った湖を眺めながら、そう呟いた。


「私がここで活躍できているのは、私に剣を握ることが向いているから。でも私は、学術とかそういうのになると全くダメなの」


 ふふっ、と彼女は微笑んだ。自分の苦手なことに対して劣等感を抱いているようには見えない。


「ルイにも、剣じゃなくて他に向いているものがあるはずよ。自分に向いていないもののことばっかり考えていても辛くなるだけだし…。自分に向いているもので人の役に立てばいいじゃない?」


 彼女はこちらに目を合わせて、にこっと笑った。


(僕に向いているもの…)


 これまでちゃんと考えたことなどなかった。兄ができることを基準にして、それらができない自分はダメなんだと、そう思ってきた。


「まっ、そんなこと言っても、苦手なものから逃げられないときもあるけどね」


 何か苦い表情を一瞬見せたアリシアは、すっと立って僕に手を差し出した。


「もう暗くなってしまうし、戻りましょう?」

「…僕はもう少しここにいようと思うから、先に行ってて」

「そう? じゃあそうするわ。また会えると嬉しいわね」


 彼女が去った後、ぼんやりと先ほど彼女が言った言葉を思い返す。


(僕が、人の役に立てる…)


 ——僕は、何ができる人間なのだろう。



 北側の地域を進む中、特に約束をしているわけでもないのに、野営地から少し離れたところでアリシアと会う日々が続いた。

 彼女はいつも様々な話をしてくれた。幼いころの話、妹や弟のこと、好きな食べ物、将来の夢、今日倒した魔物のこと…。

 いつもフードをかぶって現れ、多くを語らない僕を不思議に思ってもおかしくないのに、それらを無理に聞き出そうとせず、彼女は常に楽しそうに話をしていた。

 彼女と話している間は、自分への劣等感を忘れることができた。彼女が本当に嬉しそうに僕と過ごしてくれるから。



 魔王城のある山が近づいてきたある日の昼休憩の時間、第二王宮騎士団はテントの中で会議を開いていた。

 今後の進路、食料や装備、これまでの負傷者数など、様々な事項について、騎士団長主導のもとで確認していく。


「——ここ数日、怪我人や救護班のいる後方集団に遅れが見られる」

「では後方に合わせて進む速度を落としますか」

「いや、ここから先は魔物の数が異様に増えてくる。ゆっくりと進んでいる暇はないだろう。食料や消耗品の減りも思ったより早いからな」


 団員たちがあれこれとこれからの策を話し合っている。

 僕は今までの会議でもそうだったように、その話を黙って聞いていた。議題に対する最終的な判断は僕に委ねられるが、自ら提案を行うこともこれまではしてこなかった。

 だけど——。


「…人員の配置を見直そう」

「………殿下?」

 

 団員たちが口を開いた僕に驚いた顔をする。


「これから先は魔王の領域だ。先頭も疲弊が見えてくるはずだ。僕の周りに兵士をあまり留めず、その分先頭集団に精鋭を送ってくれ。それから、怪我人等の戦線離脱を希望する者はここでまとめて近くの村まで護送させよう。今まで通ってきた道を戻れば安全だとは思うが、念のため騎士団から…マルクとフランツ、一緒に行ってきてくれないか。君たちは北の出身だから、受け入れてくれそうな村にも詳しいと思うんだ。あと…——」


 ひとたび勇気をもって口を開くと、堰を切ったようにこれまで考えてきたことが言葉となって溢れ出てきた。

 自分でもそんな自分に驚いていたが、考えが伝わるように、必死になって言葉を紡いでいく。


「——というのは、どうだろうか…」


 テントの中がしんと静まり返る。

 余計なことを口にしてしまったかと不安に思い始めたそのとき、


「あの…、俺とフランツが北の出身だなんて、なぜ殿下はご存じなのですか」


 マルクが手を上げて質問してきた。


「第二騎士団は一応僕の管轄だから…全員の出自やどんな人物かは把握しているつもりだ。これまでの道のりでも世話になってきたし…。あ、…これまでの礼も言えていなかった。——感謝している」


 僕の言葉に団員たちは目を見開いた。


「——恐れ多いことです。それから殿下が仰ったご提案も、素晴らしいものだと思います」


 団長が固まった他の団員の代わりに話し出した。


「人員の配置についてもっと詳しく検討しましょう。ほら、お前たちも希望する配置があったら言え」

「じゃ、じゃあ俺は今のまま殿下をお守りする位置で…」

「あ、ずるいぞ! いや、でも先頭で魔物をなぎ倒してくる方が殿下の役に立てるなら…」


 やんややんやとテントに団員たちの声が重なり合う。

 その様子に思わず笑みがこぼれ、温かいものがこみ上げてくる。


(皆、僕の意見について真剣に考えてくれている。……僕は今、人の役に立てた…のかもしれない)



 その日の夜、いつものように野営の中心地から少し離れたところを散策していると、木に寄りかかって座る彼女を見つけた。その木の周りには、小さな黄色い花が咲き広がっている。

 彼女は僕に気がつくと微笑んだ。


「ルイ。今日もお疲れ様」

「うん」


 僕は彼女の隣に躊躇いなく腰かけた。これがいつものことになっていた。


「…明日からが正念場ね。隊列も見直されて、本格的に魔王の根城を視野に入れることになるわ」


 彼女はらしくなく不安げに俯いた。


「…あぁ、いやだわ。やっぱりここまで来ると少し緊張しちゃう」


 眉を下げながら彼女はふふっと笑った。明るく振る舞おうと意識しているように見える。


「……僕も、だよ。………でも、」


 言葉を途切れさせた僕を、せかすことなく、じっと待ってくれている。

 __そんな彼女にちゃんと伝えたい。

 

「でも、王宮から出発した日よりも、自分のやるべきことが分かるようになった気がする」

「やるべきこと?」

「うん。…君のおかげだ」

 

 彼女は首をかしげる。


「君と出会って、君の考え方を知って、少し勇気を出すことができた。…僕にもできることがあるのかもしれない、そう思えたんだ」

「…!? ルイ…あなた…」


 驚く声を上げた彼女の瞳の中に、いくつもの光が浮かんでいることに気づいた。

 暗い夜の空気を包み込むような、そんな柔らかな光が。


「これは……」


 自身の身体に視線を向けて、初めて、その光が自分から生み出されたものだと分かった。

 身体の周りに浮かんでいる光に触れると、いっそう光は輝きを増した。


(まさか…)


 手を前に出し、心の中で願えば、光は手の中に集まってくる。


「え、まって…。…これって…魔法? ん? ……ルイってもしかして…!?」


 僕よりも混乱している彼女を見ていると、自分の中の驚きが収まってくる。


「ちょ、ちょっとまって!?!? ………落ち着いて私、まずは事実確認よ。魔法が使えるのは、王族だけ。ルイは今魔法を使っている。つまり、ルイは………」


 くるくると表情を変えて話す彼女は、最終的に青ざめた顔になった。


「こ、これまで、とんだご無礼を…」

「アリシア」

 

 できるだけ柔らかく、彼女の言葉を遮る。


「これまで話せていなかった、僕の話を聞いてほしい。…あと、この力の使い方も一緒に考えてくれる?」


 __彼女に出会ってから、すべてが奇跡みたいだ。


「僕にできること…神様が、増やしてくれたみたいなんだ」

 


***



(…長い夢を見た気がする。彼女と出会ったばかりときの……)


 ここ数日、舞踏会で起きた事件の調査に奔走していたため、十分な睡眠もとることができていなかった。昨晩に調査が一段落し、あとは真実を公にするだけ…というところで力尽きて眠りについてしまったようだ。


 (……彼女に会いたい)


 死にたいとばかり考えていた僕を、変えてくれた人。

 周りに惑わされず自分の信念に従う、清らかな心をもつ人。

いつでも周りを明るくする、美しい笑顔を見せてくれる人。


 (でも、会うのはこの件を終わらせてからだ)


 いち早く報告書をもって父である王の書斎へ向かうため、身支度を整えていたそのとき。廊下からバタバタと走る音が聞こえてきた。


「はあ、はあ、…殿下、失礼いたします! 緊急の用件でして…」

「入っていいぞ。 何があったか落ち着いて話してくれ」


 やって来たのはこの城で最も信頼のおける侍従だった。


「そ、それが、アリシア嬢が、急に姿を消したと…。しかも、ジェームズ殿下と共にいらっしゃるのではないかという噂が流れていまして…」

「…なんだと?」


 自分でも驚くほど、驚愕と憎しみがこもった低い声が出た。


「…すまない、続けてくれ」

「…はい。その件で、アリシア嬢が姿を消す直前まで共にいたというソフィア嬢が、殿下にお話があると仰っています」

「わかった。すぐに行く」


 侍従の話の中に挙がった兄の名前に、心がざわつく。彼女の身に危険が及んでいるかもしれないという不安が、鼓動を早め、手足が震えそうになる。


(……落ち着け)


 城内にもこの噂が流れているのだとしたら、自分の一挙手一投足も注目される。この国を導く立場として、慌てふためく姿を臣下の目に入れるわけにはいかない。

 ルイははやる気持ちをおさえ、解決の糸口となる可能性がある令嬢のもとへと足を踏み出した。

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