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魔王とともに王宮へ(前編)

「それで、もう身体の方は大丈夫なのかしら?」


 侯爵夫人はナイフとフォークを動かす手を止めて、こちらに顔を向けた。

 周りから見れば、娘を心配する優しい母親に見えるだろう。

 侯爵である父の前ではいつもこうだ。


「ええ、すっかり良くなりましたわ。ご心配ありがとうございます、お母様」


 なるべく自然な笑顔をつくり、夫人に対する嫌悪感をその下に隠す。


「ほほう、この趣味の悪い服をまとった女はお前の母親か? それにしては、お前はこの女に苦手意識を抱いているようだな」

「………」


 お願いだから、他に人がいる場所で話しかけるのをやめてほしい。

 あれから魔王は、私の行く場所、行く場所、すべてにくっついてくる。

 しかも、アン以外の人々も全く魔王の姿が見えていない様子で私に接してくるのだ。

 それだというのに、魔王はいちいち思ったことや気になったことを私に話しかけてくる。

 魔王の声につい反応しそうになるが、この声が私にしか聞こえないということを忘れてはいけない。急に私が宙に向かって話し出したら、周りの人たちに頭がおかしくなったと思われてしまう。

 

「おい、我の話を聞いているのか」

(うるさいわね…)


 一方的に話しかけられるというのも、とても疲れることなのだ。

 私が食べている皿の上に飛んできて、肉と同化するようにして私を見上げるミニ魔王を、食卓を囲む家族に気づかれない程度に睨みつけた。食欲が失せるから辞めてほしい。


「アリシアおねえさま、げんきになった?」

「ねえさま、もうへいき?」


 妹のミアと弟のジョンが順に声をかけてきた。


「ええ、二人も心配してくれてありがとうね」


 夫人とは違い、純粋に私を心配してくれるミアとジョンの気持ちを嬉しく思う。

 たとえ腹違いでも、可愛い弟と妹に変わりはない。


「ほう、これまたチビっこい奴らだな。どちらも間の抜けた顔をしておる」


 思わず握っていたナイフを素早く魔王に沿わせた。

 この子たちを馬鹿にする発言は許せない。


「我に物理攻撃が効かないことはわかっているだろう?」


 魔王は余裕な顔をして笑っている。本当に腹が立つ。


「アリシア、ナイフの先を怖い顔で見つめてどうしたのかしら? 戦場と普段の生活との思考は区別してもらいたいわ」


 ふっ、と夫人が蔑むような目で私を見る。

 勿論、父には見えないような角度で、だ。


「あら、戦場のことなんて考えておりませんわ。ただナイフに傷があるように見えましたので」


 少し不自然な行動をしてしまったことを反省する。


(魔王の言動はすべて無視よ。無視)


 再びナイフを肉に向かって動かそうとすると、


「侍従長、アリシアのナイフを変えてやれ」


 と、これまで黙って食事をしていた父が声を上げた。

 寡黙な父がこのくらいのことで発言するのは珍しいと感じていると、こちらを見つめている父の視線に気がついた。


「アリシア、王宮からお前に呼び出しがかかっている。本来なら帰還直後にする予定だった陛下との謁見なのだが、お前の体調が落ち着いてから来るように、とのことだ。問題ないようなら、今日行ってきなさい」

「では今日のお昼ごろに参上しようと思います」

「わかった、陛下にお伝えしよう」


 父は仕事のために頻繁に王宮へ出入りしている。今日もこの後、陛下にお会いする用があるのだろう。

ありがとうございます、と言う私に頷いた父は、また黙々と食事を再開する。

 この朝食が終わったら王宮に行く準備を始めなくては、と考えていると、


「ほほう、この男はなかなかに武の心得があるようだな」


 真顔な父の頭の上を、魔王がくるくると周回しているのが目に入った。

 無視だ。無視。

 王宮で陛下と対面するときにも、こいつを無視して平静を装わなければならないのか。

 自分にしか聞こえない程度に、そっと重い息を吐きだす。


(ものすごく不安だわ…)

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