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幼馴染と街(後編)

「いいプレゼントが見つかってよかったわね」


 文具屋を出た私の手には、贈り物の入った紙袋が一つぶら下がっている。


「ええ、付き合ってくれてありがとう、ソフィア」

「いいのよ…。ねえ、せっかく街に来たんだからもう少し見ていかない?」


 ソフィアの提案に賛成し、護衛と三人で、活気があることで有名な市場までやってきた。あちこちから快闊な声が聞こえてくる。


「お嬢さんたち! おひとつどうだい!」


 屋台の店主に声をかけられた。手軽に食べられるおやつを売っているようだ。


「見て、ソフィア! あれ美味しそうよ」


 私は氷菓子の絵を指さした。絵の隣には、氷のように透き通ったイチゴやブドウの置物がある。


「お嬢さん、お目が高いね! これは北方の氷を削って作る菓子なんだ。イチゴとブドウの二種類があるよ」

「これも氷でできているのかしら?」


 透明の置物を指さす。


「これは氷に似せた作りもんだが、実際にこんな細かい加工もできるらしいよ! 本物の氷もこのくらい透き通っていて質がいい!」

「じゃあこれ、三つください!」


 まいど! と言う店主から氷菓子を受け取る。


「はいっ、ソフィア。そして、あなたの分も」


 ソフィアと護衛に一つずつ手渡した。護衛は、私の分まで用意していただかなくても…、と言って受け取るのを躊躇していたが、付き合ってくれたお礼だと言って、強引に渡した。

 市場は人通りが多く、落ち着いて食べられないだろうと話し合い、市場の先にある広場のベンチまでやってきた。ここまで意外と歩いてきたので、足を休めることができて一息つく。

いただきます、と氷菓子の上に載っていたイチゴにかぶりつく。その瞬間、口の中に爽やかな甘みが広がった。美味しいと言い合いながら夢中になって食べていると、途中で何者かの視線を感じた。


「おい。気づいてるか? 先ほどからジロジロと気色悪い奴らだ」


 同じく視線を感じたらしい魔王がそう聞いてきたので、目くばせで答える。ソフィアと護衛は気づいていないようだった。急いで残りの氷菓子を胃におしこむ。


「美味しかった~! あっ、さっきの屋台で妹と弟にお土産を買っていこうかな。二人はゆっくり食べてて! さっと買ってくるから!」

「でもさっきの屋台まで少し距離があるわよ? 一人で行かせるわけには…」

「大丈夫よ、すぐそこだし! じゃあ、すぐ戻るから!」


 まだ何か言いたげなソフィアと困惑する護衛に持っていた紙袋を預けて、広場を出る。しばらく歩いていると、つけてくる人の気配が感じられた。


「ふたり…、いえ三人ね」

「ああ。さっさと片付けてしまえ」


 私以外には見えない魂の姿なので、魔王はつけてくる人物たちを気にせず目で確認できているようだ。


「あら、私が負けるとは思っていないのね。あなたからすれば、私が負けた方が嬉しいんじゃない?」

「…お前が負けたら、我はあんな奴らより下ということになるではないか」


 それもそうだな、と思いながら、”憎らしい”と言いたげな魔王を見てふふっと笑った。すると、急に真顔になった魔王が聞く。


「…話は変わるが、さっき言っていた“おさななじみ”というのは、友と何が違う」

「うーん。まあ友達と似たようなものだけど、より小さいときから一緒にいて、お互いを深く理解している人のことを言うんじゃない?」

「……」


 魔王は“幼馴染”という言葉を知らないのか。いや、言葉自体は知っているが、意味をちゃんとは理解していないという感じだろうか。まあいつも通り気になったことを聞いてきただけだろう。この状況でする話でもない気はするが。

 囁き声でそんな会話をしながら歩いていると、人通りが少ない細い路地があちこちに伸びる場所へとたどり着いた。ここなら、他の人に迷惑はかからなそうである。


「いいかげんに姿を現したらどうかしら?」

「…ふっ、聞いていた通り、ただのご令嬢というわけではなさそうだ」


 物陰から三人のガラの悪い大男が現れた。それぞれ手にはナイフや棍棒などのいくつかの得物を持っている。


「あんたに恨みはないが、雇い主からの命令でな。大人しくついてきてもら、ごふっ……!?」


 路地の片隅に積んであった長い木材を片手に、ひとりの大男の腹を突く。


「っ! てめえ!!」


 残りの大男が同時に襲い掛かってくる。木材で得物による攻撃をかわしながら、大男たちの隙を見て背後をとり、思いっきり蹴りを入れた。倒れた二人の大男から得物を奪い取る。


「くっ、くっそ…があ!!」


 突如、最初に倒した大男が、地に這いつくばりつつ、持っていたナイフを投げ飛ばしてきた。


「…っ!」


 間一髪、避けることに成功した。——が、


「わっ、なんだこれっ! こっちから飛んできたよ!」


 ナイフが飛ばされた先、——路地を抜けたところから子どもの声がした。


「来ちゃだめっ! 逃げてっ!!」


 叫びも空しく、二人の子どもが路地に姿を現した。

 そこに追い打ちをかけるように、もう一本のナイフが飛んでくる。先ほどよりも大きい。

咄嗟に子供たちを背にかばい、木材を当てることでナイフの軌道を変える。これまでのダメージを蓄積していた木材は、粉々に砕けてしまった。

 戦う道具を失い、後ろには小さな子どもたち。大男たちは三人とも起き上がりつつある。

 ——かなりまずい状況だ。


「危ないからっ、戻りなさい!」

「…うっ。あ、ひぃっくっ…」


 駄目だ。二人とも大男たちの圧に腰が抜けてしまっている。

 地面に落ちていた、最初に飛ばされてきたナイフを視界の端に捉え、急いで拾い、前に構える。


「よくもやってくれた、な!」


 今度は大男三人が同時にかかってくる。なんとか短いナイフ一本で凌いでいたが、徐々に自分ひとりでは対応しきれなくない部分が出てくる。

 だんだんと後退していた私は、気がつくと座り込んだ子供の目の前にいた。正面を見ると、振り下ろされた棍棒が上から迫ってくる。これを私が避けてしまえば、間違いなく子どもに当たってしまう。


「うっ…!」

 棍棒を肩に受けて一瞬ひるんだ私の隙を見逃さず、大男は私の手からナイフを奪った。残り二人の大男によって、私は腕を拘束され、口を布でふさがれる。


(この匂いは…、まさか薬!?)


 抜け出そうと抵抗するが、純粋な力勝負では勝てない。


「はぁはぁ、ったく、手間をかけさせやがって…」


 だんだんと身体の力が抜けていくのを感じる。


「おい、お前っ……! …っ、アリシア!!」


 魔王が必死に呼びかけてくる。


(あ、はじめてわたしのなまえ、よんだんじゃない…?)


 ぼうっとする頭でそう思ったのを最後に、私の意識は途切れた。

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