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番外編 ー魔物侵入事件調査記録ー

<舞踏会警備責任者の証言>


 この度は私どもの不手際のためにこのような事態を招いてしまい申し訳ございませんでした。


 …寛大なお言葉に感謝いたします。

 私も会場に顔を出す必要がありましたので、当日は私が直接監督をしなくてもいいほどに万全な準備をしてきたつもりだったのですが…。


 はい。こちらが今までの調査をまとめた書類になります。

 魔物が舞踏会会場のテラスから侵入し男爵にとり憑いた、というのが会場の人々が目撃した状況です。


 …ええ、魔物が姿を現したのは北側のテラス…第三庭園の反対側に位置する場所です。そのうちの右から二番目のテラスになります。

 魔物が現れた当時、テラスのカーテンは閉められた状態だったようです。カーテンが靡いたかと思えば、そこには魔物がいた、と。

 カーテンが閉められていればテラス内に先客がいる可能性を考えるため、事件発生前にテラスに出入りした人は少なかったと思われます。

 

 いいえ。残念ながら、テラスに最後に入った人物の目撃は今のところありません。

 魔物が現れた後にテラスから人が出てきたということもありませんでした。

 つまり、魔物は誰もいないテラスから現れたということになります。


 ……その可能性は低いと思われます。舞踏会が始まる直前に、テラスのカーテンが全て開けられた状態で、会場内の最終確認が行われました。

 魔物がずっとテラスに潜んでいた、というのは考えにくいです。


 やはり魔物は、舞踏会の中頃に王宮外周の警備を突破し、会場の壁を登ってテラスに入り込んだとしか…。

 ただ、その警備の担当者すべてに事情聴取を行いましたが、魔物が入り込んだ様子を見た者や異変を感じた者は誰一人おりませんでした。ここが不可解な点です。


 …テラスの内部ですか? 

 事件直後に調査しましたが、小さな水たまりがあったということ以外、特に変わった様子はありませんでした。誰かが水をグラスから溢してしまったのでしょうか。ワインに酔った方が、酔い覚ましに水をテラスで飲もうとしたのかもしれません。


 …いずれにせよ、魔物の侵入を許すなど、あってはならないことです。

 今後このような事態が二度と起こらぬよう、警備体制の見直しを実施する所存です。

 




<男爵夫人の証言>


 わざわざ、こんな辺境にお越しくださるなんて…。言っていただければ、こちらから参りましたのに。


 …まあ、ご存じでしたのね。そうです、ここに新たな命を授かりました。

 それでこのようなお気遣いを。…ありがとうございます。


 そうなのです。私も妊娠を知ったのは数日前なのですよ。

 倒れた主人を診察した王宮の医師が、あまりにも顔色の悪い私も同時に見てくれたのです。そこで発覚しました。


 よいのですよ、貴方様に知られていたことは気にしていません。

 目覚めた主人と領地に帰る際、とても上等で揺れの少ない馬車が手配されていました。医師が気をきかせてくれたのだと思っていましたが、一介の医者にそんな権力はありませんものね。彼が貴方様に相談したのでしょう?


 …やはり、そうでしたか。感謝いたします。


 ……そうでした。あの事件についてですわね。


 ええ。私は事件発生当時、主人と一緒にはいませんでした。

 あの人、最近できた事業仲間を見かけたから挨拶してくる、とか言って、私を置いて人混みの中に消えてしまったのです。会場に着いてそれほど時間も経っていなかったのに、ですよ。

 ここ数か月、主人はある事業への活動に積極的なのです。きっと会いに行ったのは、その際に知り合った方々なのでしょうけれど…。それならば私も一緒にご挨拶しようと思ったのに、私が呼び止める前に主人はそそくさといなくなってしまいました。

 まったく、まだダンスも一緒に踊れていなかったのに。妻を一人置いていってしまうなんて。最近は事業ばかりに夢中で、私と過ごす時間をあまり作ってくれないのですよ。


 ……失礼しましたわ。貴方様にこんなことをお聞かせしてしまって。

 話がそれましたね。


 そうです。私が次に主人の姿を目にしたのは、事が起こった後でした。

 まさか、王宮に魔物が忍び込んでいただなんて。そのうえ、うちの主人があんなことに…。


 ……お気遣いいただきありがとうございます。

 今も無理は禁物なようですが、かなり回復した様子です。

 ただ、主人は何かにおびえるような様子で外出を控えるようになっているのです。魔物に襲われたことに対する精神的な影響でしょうか…。

 ですが、うちの主治医もしばらく様子を見れば元に戻るのではないかと言っています。本当によかったですわ。


 うふふ。最近の冷淡な態度に不満が溜まっていたとは言っても、愛する主人ですもの。

 王宮で医者の言葉を聞いて、恥ずかしながら安堵で涙も流してしまいました。

 これも、お二人のおかげです。いくら感謝をお伝えしても足りません。


 ……主人の事業、ですか?

 主人が今夢中なのは、北方の氷に関する事業です。

 何でも北方では質の良い氷が採掘できるそうで、これから暑くなってくるでしょうし、需要も高まってくると思います。

 つい最近は、良い投資家も見つけたと言っていました。上手くいくと嬉しいですね。

 




<子爵夫人の証言>


 あら、最近はよくお会いいたしますね。

 残念ながら今日はまだいらしてないのですよ。お昼過ぎにいらっしゃるかもしれませんね。


 …私の知る範囲でお答えすることは可能ですが、よろしいですか?

 その分野の専門家ではないので、お答えできないこともあると思いますが…。


 …わかりました。

 あの事件についての調査なのですね。微力ながら協力させていただきます。


 …なるほど。

 魔物は舞踏会中に王宮に侵入した可能性が高いにも関わらず、警備は誰も気づかなかった、と。

 

 はい。魔物が王宮に侵入したという事例が、過去にないわけではありません。

 これまでに…三回だったでしょうか。いずれも三百年以上は昔のことだったかと思います。魔物が最も活発であった時期ですね。


 しかし、警備が気づかないというのは、過去の事例にもないことです。


 …魔物を捕らえて生かすこと、ですか。

 不可能ではありません。

 討伐に行かれた方なら、なおさらご存じだと思いますが、魔物も他の獣と同じく命ある生物です。

 一瞬で魔物を浄化する光魔法でなければ、魔物を気絶させるに留めることだって可能でしょう。


 そうはいっても魔物ですので、戦闘中にそんなことに気を配る余裕があるとは思いませんが…。


 ……不躾な質問とは存じますが、魔物を意図的に忍び込ませた人物がいるとお考えなのですか?


 そうですか…。


 …私個人の意見を申し上げるなら、魔物を容易に制圧できるような相当の武人が関与しているのではないかと思います。

 あるいは——。

 ………いえ、これは不敬に当たりますね。なんでもございません。

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