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舞踏の夜(中編)

長らく更新できていませんでした…。

久しぶりなもので不自然なところがあったら、申し訳ないです…。

完結までちゃんともっていきたい…!

 無事王宮に着くと、会場となるホールにはすでにたくさんの貴族たちが集まっていた。

 到着するなり、


「おお~っ!! どこもかしこも、キンキラな奴ばかりだぞ!」


 と言って飛んで行った魔王は放っておくことにする。

 おそらく、最近は書庫と家の往復ばかりで新しいことが起こらず退屈していたため、テンションがおかしくなっているのだろう。

 こんなに子供っぽかったっけ、魔王って。


「アリシア!」


 金色の刺繍をアクセントにした黒いスーツに身を通し、髪を綺麗にセットしている青年が、こちらに向かって手を振っている。


「オスカーじゃない! こんなにすぐに会えるとは思わなかったわ」

「ははっ、お前が来たらすぐに知らせないといけないからな…」


 オスカーは乾いた笑いをこぼして、きょろきょろと辺りを見渡し、誰かに向かって合図をした。

 その行動を不思議に思っていると、人混みをかき分けて誰かがこちらに向かってくる気配がした。


「アーリーシーア~? 久しぶりね?」

「ひっ、ソフィア!?」

「討伐で随分と無茶をしたそうじゃない? あれほど出発前に危険な真似はしないでと口酸っぱく言ったわよね? ずっと最前線で戦うだなんて何を考えているの!? しかも最後は意識を失ったそうじゃない。私がそれを聞いてどれほど心配したと思っているのかしら? 目覚めたという連絡も来ないし、兄様から言われるまで私に手紙を書くことも忘れていたのでしょう? まったく、あなたが討伐に出てから食事は喉を通らず夜は熟睡もできなかった私の気持ちなんて、これっぽっちも考えていないのでしょうね!」


 早口でお説教を始めたソフィアに頭が上がらない。

 これは相当お怒りのようだ。


「ご、ごめんなさ…」

「でも、本当に無事でよかった」


 ソフィアに手を取られて、俯いていた顔を上げる。


「…心配かけてごめん」

「まったく、ほんとにね」


 ソフィアは私の謝罪を受け入れ、優しく微笑んでくれた。

 今日の彼女は、その水色の髪と瞳によく似合う薄桃色のドレスに身を包んでおり、微笑みを浮かべたその姿は、まるで妖精のようだ。


「今日は侯爵家の方々も来ているの?」

「ええ、皆来ているわ。お父様は事業に関わりのある人たちに会いに行っているし、夫人は妹と弟を紹介しに挨拶回りをしているようだけど…」


 周囲を見渡すと、貴婦人たちにミアとジョンの自慢をペラペラと話している侯爵夫人が目に入った。   

 ミアやジョンは慣れない場に緊張しているようであるが、そんなことはお構いなしに、夫人はどんどん挨拶回りを進めている。

 舞踏会の主役となる私についての話を振られても、のらりくらりと躱して、結果的に自分の娘と息子の話へと繋げているようだ。


「…あの夫人は相変わらずのようね。辛くはない?」

「大丈夫よ。私が強いことはソフィアも知っているでしょ?」

「おい、国王陛下がいらっしゃったようだぞ」


 オスカーの言葉に、ホール正面の壇上に目を向けた。

 ゆっくりと入場してきた国王を見た会場の人々は、ひとり、ふたり、とお喋りを止め、直ぐにホール全体に静寂が広がった。

 国王が中央の玉座の前に立つと、その左側に第一王子のジェームズ、右側に第二王子のルイが立った。


「皆、今日はよく集まってくれた。皆も知っての通り、先日魔王が討伐された。今日はその祝いと労いの会である。まずは、本討伐の一番の功労者を紹介しよう。アリシア・オベール」


 国王に呼ばれた私は壇上へと案内された。


「令嬢は、女性でありながらも騎士として今回の討伐に参加した。彼女は常に前線に立ち続け、最後は魔王にとどめも刺した。その崇高な精神と成果を讃え、名誉騎士の勲章を授与する」


 国王は、前に跪く私に対して自ら勲章をかけてくれた。


「そして、第二王子ルイ・フヘンチュア」


 はい、と返事をしたルイが、私の隣へとやってきて国王の前に跪く。


「そなたは、光魔法に覚醒し、魔王討伐において大きな貢献をした。よって、そなたにも勲章を授ける」


 勲章を身につけた私と彼は、会場の人々の方へ身体を向けて共に並び立つ。


「そして、今回の魔王討伐に貢献したすべての者へ、感謝を伝えよう。皆、よく戦ってくれた。今宵は存分に楽しんでいくがよい」


 わあ、という歓声が起こり、音楽の演奏が始まった。

 舞踏会の開幕だ。


 壇上を降りる前に、国王に声をかけた。


「陛下、本日はこのような栄誉を与えてくださり、感謝申し上げます」

「はっはっはっ。よい、よい。そなたらは我が国の大切な英雄であるからな」


 まさか勲章を賜るなんて想像していなかったが、これもまた、国王の思いつきなのだろう。


「…して、婚約の件は考えてくれているか?」

「あの…、それに関して、この前、第一王子殿下にお呼び出しを受けて…」

「ああ、そうだった。ジェームズがそなたに興味があるようだから、婚約の提案を許可したぞ。儂としては、英雄であるそなたがどんな形であれ王室に嫁いでくれれば、それで万々歳だからな」


 なるほど。国王は私を王妃にすることを優先しているらしい。そのための婚約は第一王子とでも第二王子とでも、どちらでもよいという立場のようだ。


「まあ、まだ期限までは約二か月ある。王子の婚約者はできるだけ早く決定しろと宰相がうるさくての…。どうしても、そなたの判断を待つのにも限界があるのだ。まあ、第一王子と第二王子には、そなたの心を射止めるよう頑張ってもらうしかないのう」


「頑張ったとしても、第二王子の方と関係を築くのは難しいだろうけどな」


 ふんっ、と魔王が鼻息を漏らした。いつの間にか私のもとへ戻ってきていたようだった。

 先ほどより少しは落ち着いてきているようで良かった。…いや、私ははしゃぐ子供を見守る親か。


 とにかく今日は楽しむとよい、と国王に送り出された。



「やあ、今日は一段と美しい装いじゃないか。オベール嬢」

「………第一王子殿下…」


 げっ、という言葉はなんとか飲み込んだ。壇上を降りて最初に話しかけてきたのは、この会場で一番会いたくない人物だった。


「この前のことで警戒しているのか? あれは俺が悪かったな。つい強引に事を進めようとしてしまった。反省している」

「……いえ、お気になさらず」


 あの傲慢な第一王子が謝ってきたことに、驚きが隠せない。


「まあ、きっとお前も俺の実力をその目で見れば、ルイよりも俺を選ぶはずだろう。俺が焦る必要はないな。…今日は俺のことをよく見ておくといい」

「…?」

「ああ、そうだ。この後のダンスだが、俺と一緒に…」


 そろそろ会話を切り上げたい…、と感じ始めたところに救世主が現れた。


「これは、これは、第一王子殿下ではありませんか!」

「オスカー!」

「お前はたしか伯爵家の…」

「オスカーと申します。アリシアとは従兄の関係です」


 オスカーが仰々しくお辞儀をした。


「実は私、第一王子殿下とは前々からお話をしたいと思っていたのです! 殿下は絵画に精通しておられるという噂を耳にしたのですが本当でしょうか? それでしたらどのような絵画がお好みなのですか? 実は私も最近話題に上がっている平民出身の画家の絵を見てからというもの、絵画に興味を持ちましてね! 殿下は才能のある画家への支援もおこなっていると伺いました。さすが殿下でございますね。そのお話についても詳しくお聞かせ願いたく…」

「あ、ああ…」


 すごい。オスカーがあの第一王子を圧倒している。

 相手を置いて行ってしまうほどの早口で進む話や、それを可能にする頭の回転の速さを見ると、やはりソフィアと血のつながった兄妹なのだな、と感じる。


「ぜひ、こちらの方でご一緒にお話ししましょう」

「いや、俺はまだオベール嬢に…」

「さあ、行きましょう! あちらに用意されているワインが絶品で…」


 オスカーは、第一王子を引き連れて私の横を通り過ぎるときに、私にだけ聞こえるような声で、


「第二王子がさっき下の庭園へ向かうのを見たぞ」


 と囁き、ウインクをしてきた。行ってこい、ということらしい。

 私はオスカーに目くばせで感謝を伝えた。


「くっくっくっ。やはり、愉快な男だな。それに引き換え、あの気障な物言いをする王子は好かん。なんだかアイツを見るとムズムズするのだ…。ジェームズとか言ったな。ならムズ男だ、ムズ男」

「ぷっ…!」


 魔王の言葉に、思わず吹き出しそうになる。

 いけない。今日の私は主役であるから、多くの人の目がこちらを向いているのだ。話し相手がいなくなった私に挨拶をしようと歩み寄ってくる人もたくさんいる。不自然な行動をとるわけにはいかない。

 すっと背筋を伸ばして、話しかけてくる貴族たちに対応しつつ、庭園へ続く階段を探す。たしか、どこかのテラスに、庭園へとつづく螺旋階段があったはずだ。

 しかし、テラスはいくつもあり、ルイが向かったであろうテラスがどれかは分からない。

 挨拶に来る貴族が途絶えた隙を狙って、迷いながらも、カーテンが開かれていた一つのテラスに出てみた。



 冷たい夜風が心地よい。

 欄干からの景色を望むと庭園が広がっているのを確認できるが、ここに螺旋階段はないようだ。

 他のテラスを確認しに行こう、と振り返ると、テラスの入り口からは見えない場所に、ワインを片手に持った人の影があった。


「こんばんは、アリシア・オベール嬢」


 すらっとした細身の男性だ。深い紺色の髪に金色の瞳をもち、上品なスーツを着こなしている。顔に見覚えはないが、どこかの地方貴族だろうか。


「先客がいらっしゃったとは存じませんでした。申し訳ありません」

「いえいえ、お気になさらず…」


 男性は私をじっと観察しているようだった。

 その視線に困惑した私の表情を察してか、男性は取り繕うように口を開いた。


「ああ、申し訳ありません。魔王を倒したという令嬢がどのような方なのか気になっていたもので。こんなに美しい方だったとは」

「光栄です。それでは、失礼いたします」

「ええ、よい夜を」


 また近いうちにお会いすることでしょう…。

 彼が魔王と目を合わせ、そう呟いていたことに、螺旋階段の場所を思い出そうと記憶を辿るのに夢中になっていた私は、気づくことができなかったのだった。

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