第2章 過信
第1章より文字がだいぶ長いです。
それを踏まえてお読みください。
あれからしばらく歩いていると、何か建物らしきものが見え始める。
バクター「あれは...見えるか、リル」
リル「うん、見えるよ。町...かな?」
バクター「行ってみよう」
俺たちは建物が見える方向に進んだ。
しばらく進んでみると、あるものが見えた。
バクター「遠く見てみたところ、町というより...村だな」
リル「ケモノもいるみたいだねー」
見えた建物の正体は、おそらくこの村の目印であろう柱。
その周囲に木の壁があり、入り口を覗いてみると、村らしき建物がいくつもあった。
そして入り口付近に、木の棒や弓を持った2匹のケモノがいる。おそらく門番だろう。
バクター「実際に村に入らないとまだ状況がつかめないな」
リル「あの門番らしきケモノに聞いてみようよー」
俺たちは村に入るために、門番と思われるケモノ達に接近した。
門番1「...!!」
門番たちは俺たちを見た瞬間、警戒態勢になっていた。
門番1「ここの村のケモノではないな!?何者だ!!」
警戒されるのは当たり前だ。状況が状況だ。すぐに襲い掛かる奴もいたんだろう。
だが...どうやって入ればいい。
バクター「待ってくれ。俺たちは争う気はない。村に入りたいだけだ」
門番1「争う気はない...?なら村に入る目的を言え!!」
リル「僕たちの同類を探しに来たの」
門番1「同類...?」
バクター「闘争をしたくないという考えを持つケモノを探しに来たんだ」
門番2「なるほどね。あんたらも村のケモノ達と一緒の考えを持ってるってことかな」
もう一人の門番の言葉に、俺たちは少し驚いていた。
殺し合いが普通であるこの世の中において、普通じゃない考えをもつケモノがいること自体珍しいはずだ。
昔住んでいた村と同じような村があるならなおさらだ。
バクター「...数少ない俺たちの考えを...この村のケモノ達は持っているのか?」
門番2「ああそうだ。その様子を見るに、どうやら本当のようだな。よし、村へ入ることを許可する。私が案内しよう」
門番1「おい、もっと警戒して...」
門番2「別にいいじゃない。そもそもこんなに対話できる時点で大丈夫だから」
門番1「むう...だがその通りだ。いいだろう。私も許可する」
バクター「ああ、ありがとう」
リル「助かるよー」
こうして俺たちは村に入った。
バクター「これは...」
リル「わぁ...」
そこで俺たちが目にしたのは、ケモノたちが広場で遊んでいた姿。
その周りには、食料、水、武器などを運んでいたり、作っていたりなど作業をしている姿。
みんな、笑顔で暮らすケモノたちの姿があった。
門番2「ようこそ!私たちの村、ジェントル村へ!ここは争いを好まない者たちが集まる場所さ!」
リル「みんな...平和で楽しそうだね」
バクター「そうだな...俺が求めている光景の一つだ」
リル「それに...僕たちの昔のこともも思い出すねー...」
バクター「.....ああ」
俺たちも昔、こんな感じで遊んでいたな。
...あんなことが起きなければ、今でもこんな感じで暮らしていたのか。
こんな感じで...待てよ...昔住んでいた村とこの村の状況が同じなら...
ここももしかしたら、やばいかもしれない。
リル「...バクター」
バクター「なんだ?リル」
リル「すごく平和だよ...でも嫌な予感がする。前と同じ状況だから...このままじゃだめかも」
リルもどうやら気づいているらしいな。
バクター「...分かってる。それに...このままだと、この村も俺たちの時と同じ目にあいかねない。その前に、動かなければ」
このままじゃ危ない、だからまずは...
門番2「...?何のことを話してるんだ?」
バクター「門番。できるのであれば、この村の村長と話がしたいんだ」
門番2「あー、どうせ村長のところに案内するつもりだったからそれは大丈夫。話があるならすぐに案内しよう」
門番は俺たちを村長のところまで案内してくれた。
門番2「村長。対話できる外からのケモノが来てくれたよ」
村長「本当か!」
村長の姿は、俺と同じで頭に模様みたいなものがあり、黒い眼帯をつけており、後ろに大きな大剣を背負っている。
村長「よく来てくれた。私はブローク。そちらの名を聞いても?」
バクター「バクターだ」
リル「リルだよー」
ブローク「バクター、リル。お前たちにあえてうれしいよ」
バクター「ああ、こっちも会えて感激だ」
ブローク「見たところ、バクターは抗獣で、リルは妖鬼獣の種族だな」
種族っていうのは、それぞれ見た目に特徴があるもので、俺が知ってる限りでは、
凡獣は、これといった特徴のない種族。
抗獣は、頭に模様みたいなものがある種族。
妖鬼獣は、体の一部に角が生えている種族。
幻獣は、魂のように常に燃えている部分がある種族。
獣兎は、耳が長く、共通して跳躍力がある種族。
このような種族がある。
ブローク「私は見ての通り抗獣でな、バクターと同じ種族だ!運命というものだな」
バクター「そうだな」
リル「妖鬼獣はいないのかなー」
ブローク「もちろん、妖鬼獣もこの村にいたはずだぞ。探してみるといい」
リル「おー!いるんだねー!」
ブロークは中々熱い者らしい。だが、村長としての器はある。
おっと、こんな話をしている場合ではないな。
バクター「ブローク。申し訳ないが、話す時間が欲しい」
ブローク「...?構わないぞ。話し合うなら、場所を変えよう」
俺たちはブロークとともに、建物の中に入った。
ブローク「さあ座ってくれ」
俺たちはそこの椅子に座る。
ブローク「で、話とはなんだ」
バクター「今の状況についてだ」
この時、ブロークの顔が渋くなる。
ブローク「...今の状況、つまり殺し合いが普通となっている現状のことか」
バクター「ああ、単刀直入に聞くが、この村は安全なのか?」
ブローク「一応門番は配置してあるが、安全とは言い切れん。頭のおかしい奴らが一斉に来たら、無事では済まされないだろう」
やはりか、一斉に来られたらまずいのはこの村も同じか。
ブローク「だが、そんな奴らが一斉に来ることは到底ないだろう。戦闘狂ばかりの奴らだからこそ、協力なんてしない。協力するにしても、そんなに数は多くないはずだ」
リル「...昔の僕たちの村の方も、そう考えていたんだよねー」
ブローク「...どういうことだ?」
バクター「...長い話になるが、聞いてほしい。かつて俺たちは...」
俺たちは、昔のことについて話した。
そう、昔俺たちはここと同じように暮らしていたんだ。
外と違って、村は平和なところ。俺はリルと色々遊んで暮らしていた。
一度は不満に思って、村のケモノ達に聞いてみたけど、その時も、ブロークと同じような答えだった。
それで僕たちは安心して暮らしていた。
だが...それが甘かった。
ある日、リルと遊んでいたとき、外が騒がしかった。
俺たちは気になって恐る恐る外を覗いてみたら、数えきれないほどのケモノ達がこの村を囲んでいた。
囲んでいるケモノ達は、戦闘態勢になってて、門番のケモノ達も、構えていた。
そして、次の瞬間、囲っているケモノ達が一斉にこの村に襲い掛かってきた。
そこからは地獄だった。
門番は数に圧倒されて殺され、村を守っていた木の壁もすぐに壊された。
逃げ惑ったり、能力で守ろうとする村のケモノ達。だが、どんどん惨殺されていった。
村のケモノ達だけではなく、襲い掛かってきたケモノ同士でも、獲物は俺のものだと、殺すのは俺だと...殺し合いになっていた。
見渡せば、ケモノ達は血の海に、村は火の海になっていた。
俺たちはただその光景を見て...絶望していた。
だが、俺たちの親が言った。
「死んだふり、倒されたふりをするんだ!早く!!」
その言葉を聞いた俺たちは必死に死んだふりをした。
その時に聞こえていた。親の叫び声、抗う声、苦しい声が。
親以外でも、村のケモノ達と思われるたくさんの声が聞こえていた。
リルは震えていた。どんどん殺されていくケモノ達を見て怖がっていた。
俺も震えていた。俺も怖かった。だが、リルの方を見れば、恐怖のあまり動きだしそうになっていた。
大切なものを失われ続けている中、目の前にいる大切なものはせめて守りたかった。
俺は周りに気づかれないようにできるだけ死んだふりをしながら、リルの手に触れた。
リルはそれに気づき、手を握り締めた。お互いに震えているのを感じ、そして少し収まっていた。
それから、周りの騒音が収まるまで、手を握り締め続け必死に耐え続けていた。
そうしているうちに、いつの間にか気を失っていた。
気が付くと、周りの騒音は消えていた。
リルも同時に気が付いたみたいで、お互い起き上がり、周りを見渡していた。
あたり一面に広がるのは、いまだに燃え続けている村の建物。
地面代わりになっている死体。
焦げ臭った血の匂い。
俺たちの周りにあった大切なものは、この一日ですべて消えたことがわかるものだった。
その光景を見て、リルと俺は泣き叫んだ。
何も残ってないのに何かをあさり続け、ひたすらに村中を動き回った。
それからお互いに座って、ただひたすら何もしない時間を過ごした。
ただ時間が過ぎていくのを感じるしかなかった。
そして...疲れていたのか、お互い寝てしまっていた。
眠れたおかげか、心は少し落ち着いていた。
起き上がろうとしたとき、リルが俺に抱き着いてた。
俺も抱き着いた。
もう、この光景を受け止めないといけないと思った。
それに、目の前に唯一残った大切なものがいる。
そう思い、リルと話し合って、これからできることを考えていた。
そして、ある決意をした。この世界を、変えなくちゃいけないと。
この悲劇が普通の世界ならば、それを変えなければならない。
そう決意した俺たちは、ここに残っている死体を集め、村の中心に埋葬した。
それから村を離れ、リルと共に能力の使い方を修業した。
時には、リルと死なない程度に戦い、頭のおかしいケモノにも出会った。
そんなこんなである程度鍛えた俺たちは、目的のために同類を探す旅にでて、今に至る。
バクター「...ということだ」
ブローク「...............バクター、リル」
バクター「なんだ?」
リル「なにかな?」
ブローク「....悪かった」
え、なぜ謝るんだ?
バクター「別にブロークは悪くないぞ?」
ブローク「これは一つの村の村長としてだ。俺たちの村以外にもそんな村があったことを知らず、そして助けに行けなかったことを謝りたいんだ」
バクター「だが...」
リル「謝りたい気持ちはわかるけど、後にしてくれないかなー。もしかしたら、この間にも来る可能性があるんだよ?」
そうだった。ちょっと長く話しすぎたかもしれない。
ブローク「?来るって何が来る...まさか!」
バクター「ああ、俺たちが住んでいた村の悲劇と同じ事態が起こるかもしれないってことだ」
ブローク「...そういうことか」
この村は俺たちの襲われる前の村と同じ状況だ。なら、起きる可能性は十分にある。
ブローク「お前たちだけでこの村を守れる可能性はあるか?」
リル「あまりないかなー...さすがに守り切れないと考えた方がいいよ」
リルの言う通りだ。2匹だけであの数のケモノ達から村を守ることはほぼできない。
ブローク「そうか...鍛えたお前たちでも流石ににきついレベルということか。その時の奴らは協力して襲っている感じだったのか?」
バクター「いや、協力ではないな。一匹一匹が村そのものを狙っていて、まるで獲物をだれが取るか競い合うような感じだった」
ブローク「うむ...偶然集まってきたわけでもなさそうだな」
リル「多分事前に場所を把握されてると思うよー。かなり多い数だったからね」
正直、それが謎ではある。あの時、そこに村があり、ケモノ達がいるのがすぐにわかっていたようだった。
だが、今それを考えるよりも...
バクター「この村にも悲劇が起こらないよう、対策をしないといけない」
ブローク「対策か...」
リル「何か案はあるの?」
バクター「それは」
ブローク「村のケモノ達を全員鍛えること...それしかないだろ?」
バクター「...そうだ」
流石村長だ。村でできることを瞬時に判断できている。
ブローク「ならやることは決まりだ。あとはこのことを私が村のケモノ達に伝えればいい」
リル「信じてくれるのかなー...」
ブローク「あまり村長としての信用をなめるではない。安心しろ」
バクター「ああ、任せる」
そのあと俺たちは、段取りを話し合い、村のケモノ達を鍛える計画を立てた。
そして、話し合いを終えた俺たちは、村のケモノ達を全員集めた。
ブロークが村の目印である柱の前に立つ。
ブローク「皆の者!これは大事な話だ!よく聞いてほしい!」
その言葉に、村のケモノ達は静かになる。
ブローク「単刀直入に言おう!これから、この村のケモノ達を全員鍛えないといけなくなった!なぜなのか!それは、近いうち、外のおかしい奴らが数えきれないほどの数で一斉に襲ってくる可能性が出てきたからだ!」
その言葉に、村のケモノ達がざわつく。
ブローク「その可能性が出てきた原因は、先ほど外から来た、私たちと同類の考えをもっているケモノ達が話した昔の悲劇にある!その悲劇とは!その可能性を引いてしまい、かつて住んでいた村の全てを失ってしまった出来事である!」
村のケモノ達が騒ぎ始めた。ここは安全じゃないのか、一斉に襲い掛かってきたら、この村も消えてしまうのかなど、色々な声が上がっていた。
ブローク「だからこそ!その悲劇がこの村で起きないためにも!これから、村のケモノ達を全員鍛える必要があるのだ!そのために!お前たちの意思を問いたい!この村を本当に大切に思っているのかどうかを!外のおかしい奴らに立ち向かう意思を!」
村のケモノ達は沈黙し、迷いがある雰囲気だった。
気持ちはわかる。この村のケモノ達は戦いたくはないだろうし、何より恐怖があるのだろう。
でも...大切なものを失うのも嫌。そんな思いが迷いを出しているんだ。
ブローク「...お前たちは、この村でたくさんの大切なものができたはずだ。そんな大切なものが、一瞬で消え去る。そんなものは絶対にダメだ!戦いたくない気持ちも分かる!もちろん来たらまずは説得を試みるつもりだ!だが、奴らは対話があまりできない!説得はほぼ厳しいだろう!だったら!この村を守るために、鍛えるしかないのだ!」
その言葉に、村のケモノ達は少しづつ勇気を持った顔つきになり始めていた。
ブローク「改めて!お前たちの意思を問いたい!立ち向かう勇気はあるか!この村を大切に思っているか!」
その言葉に、村のケモノ達は次々と立ち向かってやる、大切に思っているなど、自分の意思を出していた。
ブローク「よし!お前たちの意思は十分に伝わった!この村を守るために、我々は立ち上がろうではないか!」
村のケモノ達が歓声を上げ、決意に満ちた顔つきをしていた。
リル「みんな...ちゃんとやる気になってくれてるね!」
バクター「ああ、だがこれからこの村を外の奴らと戦えるまで鍛えていかな...」
「パーーーーーーーン!!!!!!!!!!」
突然、何かの爆音が村中に響く。なんだこの音は...
ブローク「この音は緊急事態が発生したときのための能力使用...」
門番たちの誰かが能力を使ったってことか......まさか!
その時、村の門番たちが急いでこちらに来ていた。
門番1「大変だ!数えきれないケモノ達が、戦闘態勢でこの村を囲っているぞ!!」
ブローク「なんだと!?」
よりによってこのタイミングで...!?
バクター「冗談じゃない...!!」
リル「なんで今...!?」
俺たちは急いで外を見にいった。
そこには、かつての村の悲劇が起こる寸前の光景があった。
バクター「ふざけるな...どうやってこの状況で村を守ればいい...!!」
リル「あ...あ....」
リルは昔の状況と重なって見えたのか、トラウマにより震えていた。
最悪だ。村のケモノ達を鍛える前に来てしまった。
かつての悲劇を思い出される。その悲劇がここでも...起ころうとしていた。
第2章を読んでくださりありがとうございます。
第1章と比べて随分と長い文字数ですねはい。
どの段階を1章分とするべきか迷いまして、結果的にここまで長くなってしまったのです。
実は第2章まではすでに描いていまして、ここからの更新は気分次第でかかると思います。