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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
6/14

1-6 初陣

 

 基地に来て二週間。機体の改修は殆ど終わったと聞くが、最終調整はまだ終わらない。基地に所属する他の小隊が出撃するのを横目に、雑用をこなす。ラジオから聞こえる声は戦況有利を伝える。


 嘘だ。実際は均衡どころか逆に押されている。重要拠点ではないこの基地ですら、爆撃機や敵TCG部隊の襲撃を受ける。戦略的価値が低い分、他の基地と比べればマシなのかもしれないが、施設自体が古く、物資も常に底をつきかけの基地の雰囲気は最悪である。


 すれ違いざまに、ただ飯ぐらいと嫌味を言われることもあれば、揉め事に発展したこともある。私が一方的にボコボコにしただけだが謹慎を受けたこともある。同室の兵士たちとも会話は無い。


 アカネ達は目の下にクマをつくり夜通し作業を続けてくれている。マークやナツメと共に時々それを手伝ってはいるが、ナツメほど機械に強くもなく私やマークは雑用に近い。まだ出撃もしていないTCGが、出撃し被弾したTCGより部品も物資も食うのだ。最小限でやり取りしていても、そんなことは関係なく白い目で見られた。


 小汚いカフェテラスで夕焼け空を眺めながら、薄いコーヒーを啜っていると、ナツメがやってくる。彼とも随分と仲良くなった。ストーム隊は基地内で孤立している分、身内との親密度を上げるのは難しくない。見た目こそ若く同世代にも見えた彼だが、思っていたよりも年上で、いつの間にか兄のように感じていた。


「お疲れさん、今日も朝から来てたらしいねー、ぐっすりだったわ」

「ナツメはもう危機感が死んでるんじゃない?」

「ははは、そうかもね。第2小隊と第3小隊が追い払ったみたいだけど、機体の損耗は無視できないよね。また、僕らをみる目が冷たくなるよ」


 よよよ、と泣きまねをして戯ける彼の目はあまり笑っていない。実際、帰投した彼らの機体は酷いものだった。帰投したパイロットはみな土気色の顔をしている。先日、エースだった第1小隊の二番機と三番機が撃墜された。小隊長は自室にこもり、それ以来出てこなくなった。心身ともに限界な兵士は多い。あの、バニング司令も薄い頭を掻きむしりながら、扉に頭をしきりに打ち付けていたとマークが言っていた。


「リンファは士官学校上がりなんでしょ?そういや、どうして軍人に?」


 ナツメにとっては何気ない質問。私にとってはもはや自明であるその答え。


「私から全てを奪ったユーラルシアに復讐するため、それだけ」


 眉間にシワがより、表情が硬くなるのを自分でも感じる。不機嫌そうで近寄りがたいと、よく言われた表情だ。けれど、ナツメは「そっか」と事も無げに返した。その距離感が心地よかった。


 空が暗く夜の帷が降りる頃、警報がなった。ナツメと目が合う。いつもの対空砲へ走ろうとした時だった。


 《敵TCG、多脚戦車複数、ユーラルシアの構成部隊が基地へ向けて進行中、二十分後には基地領域内へ侵入!第2小隊並び第4小隊にスクランブル!》


 第4小隊、それはストーム隊のことを示していた。壊れかけの古いレーダーが敵を捉えるのはいつもギリギリだ。けれど、そんなことはどうでもいい。小隊への出撃命令。遠くから息を切らしマークが走ってくる。


「機体の準備が出来た!出るぞ!」


 《繰り返します、レッドファング隊、ストーム隊、は機体の準備ができ次第、順次出撃!》


 格納庫へと走るリンファは笑っていた。やっとだ。やっと戦える。胸の奥から湧き上がる高揚感に、リンファは獰猛な笑みを浮かべていた。


 □■□


 綺麗に塗装を施された深紅の機体のコクピットへと飛び込む。各所スイッチを入れ、機器をいじる。慣れ親しんだサイクロプスのコクピットとは違うが、稼働の手順は何度も頭で繰り返していた。


『凛ちゃん!ヴァミリオンの調整はまだ完璧じゃないから無理だけはしないで!』

『わかってる』


 アカネに手を振り返しコクピットを閉じる。遂にこの時がきた。ヴァミリオン、シールドと対TGC用ブレードを装備し、サイクロプスよりもスラリとした見た目と、装甲が薄い分高い機動力を活かした近接戦闘に特化した機体である。センサー類も高性能で、モニターはサイクロプスⅡのものより広く見やすい。

 シュミレーターでは何度も練習していたが、実際に機体を動かすのは初であった。


 左を見れば、ナツメのサイクロプスⅡ後期型特務作戦機を中長距離支援機へと改修した、サイクロプスⅡ改が起動し長砲身のレールガンを受け取っている。


 正面、黒い機体ナイトオウルのハッチが閉まり、ツインアイが灯る。サイクロプスⅡとは異なり球形に近づいた頭部と、黒い騎士のような見た目はよく目を引く。左腕部に小さめのシールドが装着されており、そこから展開されるブレードと、右手のハンドキャノンが主兵装である。


 なんとも統一感のない小隊。これまで飾りでしかなった機体がいざ動き出すとやはり目を引くのか、誰もが足を止めそれを見ていた。


『各位、問題ないな』

「大丈夫、なんならワクワクしてる」

『あれ、リンファってこんな戦闘狂だった?まあ、ちょっとわかるけど』


 モニターの隅に、アカネ達、整備班が敬礼してるのが見えた。第2小隊は足並みを揃えるつもりはないらしくもう出撃している。そんなことはリンファにとってはどうでもいい。三機が並んで格納庫の扉を潜る。それは、待ち焦がれた瞬間だった。


『ストーム隊、出撃』


 基地を出て目標地点へと進む。どうやら既に第2小隊はユーラルシア軍と接敵しているらしく、オペレーターから急ぐようにと指示が聞こえる。


 機体が軽い、つい二人を置いていきそうになる程だ。隣ではホバー走行へと改造が施され滑るように進むナツメのサイクロプスⅡ改が、機体の感触を確かめるように時たま蛇行する。


『第2小隊、戦闘開始されました、なっ、三番機被弾!戦闘不能状態です!第4小隊、急いでください!』


『まずいな』

『えっ、さっそく?オペちゃん、敵の数は?』


『TCG4、多脚戦車3です』


「あの黒いのは何機?」


『そこまでは、、、!?ちょっと待ってください、レーダーに反応あり、さらに後方より敵増援!TCGさらに3です!!』


 日は地平線へとかかり薄暗く、基地領域内を抜ければ、遠くの方で戦闘の光が見え始める。完全に日が落ちる落ちれば、冷たい風が砂を巻き上げ視界も悪くなり始めるだろう。そうなれば、第2小隊は確実に間に合わない。


『急ぐぞ、敵は大所帯だ、油断せずに行くぞ』

『りょーかい。ちょうど黄昏時だし、初陣にしてナイトオウルの真骨頂を見れそうだ』

「了解、どれだけいようが関係ない、ブレードの錆にするだけ」

『作戦通りでいくぞ』


 そして戦闘領域手前、サイクロプスⅡ改が足を止め、ナイトオウルが()()姿()()()()()



 □■□



 夕暮れの荒野を三機のサイクロプスⅢが走っていた。肩には赤い牙をモチーフとした小隊章が描かれている。スクランブルから数分後、本来であれば連れ添って出撃すべき味方小隊をほって出た、第2小隊、通称レッドファング隊、その数100m先にはファントム三機と旧式のTCGであるソルダが一機、多脚戦車三台からなるユーラルシアのTCG部隊が迫ってきていた。


『ちっ、待ってやがる。さて、あの居候どもが来る前に、終わらせるぞ』

『了解ぃ!』『了解』


 忌々しげな男の声に、荒い口調の男と、低い女の声が続く。戦闘領域へと侵入した瞬間、先頭を走るサイクロプスⅢが足を止めずにマシンガンを撃ち始め、それと同時に、両肩に無反動砲を装備したキャノンタイプと柄の長い巨大な戦斧を構えたサイクロプスⅢが左右へと散開する。


 ユーラルシアのTCGと多脚戦車からの激しい弾幕が、三機の側を抜け、時折装甲を掠めていく。そして、一際大きな発砲音と共に、戦斧持ちのサイクロプスⅢが後方へと弾け飛んだ。


『ハイド!くそっあのばかが!』

『直撃か!ハイド無事かっ!キャノン砲持ちだ、ジョエル注意しろ!』

『んなことはわかってる!チッ』

『ぐぅぅ、、、た、隊長、、』


 ハイドの返答を待たずとして、またしてもあの砲撃音が響き、サイクロプスを一撃で沈められる凶悪な砲弾がキャノンタイプのサイクロプスⅢを掠め、ジョエルが悪態をつきながら射線を切るために巨大な岩の裏へと回る。


 敵機のマシンガンやキャノン砲が着弾し岩が削る音が響く。隊長機も同じ様に離れた遮蔽物の裏に退避しているようで、隠れたまま反撃もない二機へとユーラルシアのTCG達が威嚇射撃を行いながら距離をジリジリと詰める。


『ハイド、機体は?』

『は、はだ、だ、駄目です、隊長。胸部装甲に直撃で、機体もピクリともしねえ、グッ、ゴホッゴホッ』

『コックピットじゃなかっただけ感謝するんだね、バカのひとつ覚えみたいに近距離武器しか持ってこないからこうなる』

『まどろっこしいのは嫌いなんだよ!』

『この脳筋ゴリラが』

『黙れ二人とも、このままじゃジリ貧だ、ジョエルは作戦通り俺を援護しながら、キャノン砲持ちを最優先で処理しろ、ハイドは機体から離れて救助をまて』

『チッ、たく手間を増やしやがる。了解。ハイドお前のかたきは取ってやるから大人しくしときな』

『ぐぅ、了解』

『三二一、いくぞ!』


 合図と共に隊長機がバーニアを点火し遮蔽物を飛び越え空へと舞い、敵機の視線が一斉に隊長機へと向く。機体は放物線を描きながら、瞬く間に三台の多脚戦車を撃ち下ろし撃墜すると、予想外の反撃に戸惑うユーラルシアのTCG達を飛び越し着地体制へと入る。


『全機こっちを向いた、頼んだ』

『はぁ、相変わらずむちゃするね、了解』


 四機全てのTCGがジョエル機の隠れた岩から目を逸らし隊長機を狙うと、それを待っていたとばかりに、ジョエルの機体が岩の裏から姿を現す。目標は着地するタイミングを狙いキャノン砲持ちのゾルダ。ターゲットアシストが起動し、照準が固定される。


 外せば隊長、レイモンドは死ぬだろう。しかし、ジョエルは何ともないように引き金を引いた。機体の後部より発射薬の燃焼ガスが噴出され、撃ち出された砲弾が目標へと命中し爆散する。


『一機撃墜、着地の援護もまかせな』

『流石だな、頼りにしてる』


 突如やられた仲間に動揺し、残ったファントム三機の視線がキャノンタイプのサイクロプスⅢへと分散し、ジョエルによる砲撃とマシンガンによる援護射撃によりレイモンドへの攻撃が防がれる。


 しかし、無事着地したものの機体への負荷により膠着し隙を晒した隊長機へと、一機のファントムがマシンガンを捨て背負っていた大剣を引き抜き斬りかかる。寸前で復帰した隊長機がそれをシールドで弾き、そのまま至近距離でマシンガンを撃ち、射撃音とファントムの装甲をいくつもの弾丸が叩きつける音が響く。


 少しは怯ませることは出来たが、マシンガンを受けきってなおピンピンとしているファントムに、レイモンドは舌打ちしながら後方へと飛び退き距離を取る。ファントムへの決定打となる標準装備がないことが、開戦当初からジメリア軍が押されている要因だった。


 [ビビらせやがって、このへなちょこがぁ!]


 隊長機へと再び肉薄するファントムの剣戟を躱し、効かないマシンガンで反撃する。しかし、その間合いから離れれば、もう一機のファントムの援護射撃がシールドを削る。


 ファントムを撃破することの出来る、バトルアックスを装備したハイド機は早々に倒されている。ジリ貧だった。


 少し離れた場所ではジョエルへと大剣を振り上げ接近する別の機体が見えた。その黒く分厚い正面装甲が、悪あがきにも見えるマシンガンの弾を弾いていた。


 [この距離では自慢のキャノンも使えまい!ジールのかたきだ!沈めぇ!]

『なめるなぁ!』


 ジョエルは迷わず引き金を引いた。無反動砲が放たれ目前に迫っていたファントムへと直撃する。そして、敵機ともども機体は爆炎に包まれた。


『ジョエル!!』


 至近距離で砲弾を受けたファントムが腹部から上を無くし転がる。しかし、爆発に巻き込まれ後方へと吹き飛んだジョエルの機体も酷い状態だった。レイモンドの呼びかけに返事はない。


 コクピットの中で警報が鳴り響く。日々の過酷な任務と、だましだましで行われてきた修理のツケがきた。機体限界だ。ジョエルはモニターに映る、大剣を引き抜くファントムを睨みつける。


 私にトドメを刺す為にレイモンドが対峙する敵が一機減る、少しの時間だがこれなら逃げることも出来るだろう。


『隊長、いや、レイモンド。ハイド。先に逝ってるよ』

『ジョエル!なっ、増援だと』

『運がないねぇ、、、ははは、、』


 ファントムの猛攻を躱すレイモンドの目には、戦場へと合流した三機のファントムが見えた。動揺と共に、機体が足を滑らしバランスが崩れる。不味い、レイモンドはその瞬間確かに死を覚悟した。目の前のファントムが何度目かの大剣を振り上る。


 そして、その頭部が弾け飛んだ。

 頭部を失ったファントムはそのままさらに、側面から胸部に穴をあけ、呆気なく横倒しに崩れ落ちる。


『なに!?』

『おまたせしました、援護します』

 [なんだ!?敵の増え、、、]



 突如姿を現した黒い機体が、ジョエル機へとトドメを刺そうとしていたファントムを展開した左のブレードで背後から貫くと、それに反応したファントム一機を右手のハンドキャノンで撃ち抜く。


 崩れる二機にやっと状況を把握したファントム達が黒い機体へとマシンガンを向ける。その瞬間、黒い機体が背景と同化するようにじんわりとその姿を消した。


[なっ、消えた!?]

[ど、どこにいきやがった!]


 二機のファントムが戸惑い一瞬動きを止め、その側面から現れた赤い機体によって一機が両椀と腹部を瞬く間に両断される。


[速いっ!くそっ!]


 そして、最後の一機も赤い機体へとマシンガンを向けた所で肩口から斜めに切断され沈黙した。余りにも一瞬の出来事。レイモンドはただ呆気にとられていた。いつの間にか現れた格納庫で何度も見た忌々しい黒い機体が膝をつき停止したレイモンド機へと近づく。


『無事ですか』

『マーク・ネクスト、、、』

『ストーム隊、遅れながら現着しました』

『はぁ、、はははっ、あんたら、遅いんだよ。ついに死ぬかと思った』

『置いていったのは、そちらででは』

『ふっ、置物に期待はしてなかったのさ』


 その声は、内容に反して嬉しそうにも聞こえた。ハイドもストーム隊のもう一機に回収されたようで、そちらから声が聞こえる。


『助かった。驚いたよ。今後はしっかり働いてもらう。今後の働き次第だが、、、これから宜しく頼むぞ』


 レイモンドの言葉にマークが力強く頷いた。


 

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