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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
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1-5 イロモノ

 地下へと続く薄暗い階段に数人の足音が響いていた。先頭にはツインテールを揺らし満面の笑みを浮かべた少女が進み、それにリンファ達が困惑気味に続く。少し肌寒い。普段あまり人が来ることもないのだろう、舞い上がったほこりが懐中電灯に照らされキラキラと反射している。

 

「これは〜運命っ!皆さんのおかげで私は遂にこの先に〜!」

「えーっと、それは、、、よかった?」


 リンファ達は司令室から追い出されと思えば、目をギラつかせた少女が入れ替わるように司令室へ飛び込み、彼女に連れられ基地の地下へと向かっていた。

 少なくともリンファとマークはこの状態に理解が追いついていない。


「話には聞いてたけど、この先に?」

「そうなんですよー!!」


 なんとなく訳を知っていそうなナツメ准尉に聞けば、先頭を進む一0代前半にしか見えない少女こそ、退室間際に基地司令(バニング)が呼んでいたタカナシ整備曹長らしい。作業着こそ着ているももの、ルンルンで歩く後ろ姿はどう見ても基地に迷い込んだ子供だった。


 困惑している間にも目的地に着いたらしくタカナシ整備曹長が鼻歌を歌いながらシンプルな扉の鍵を開ける。中に入ったリンファは何があるのかと懐中電灯を四方へ向け見渡すも巨大なシャッターが奥に見えるばかりでただ広い空間が広がっているだけだった。


「ここが目的地?何もないけど」


 自分たちが連れてこられた理由もわからないまま、キョロキョロとしているリンファ達を尻目にタカナシ准尉が扉のすぐ横に設置されていた壁のスイッチボックスを開き、鍵を鍵穴に刺しこんだ。


「いえいえ!()()の求める物は、あのシャッターの先ですよ!」


 鍵をゆっくりとひねるとともに天井の明かりが灯りシャッターがゆっくりと上がり始める。満足そうな少女が振り返り、キラキラと輝く笑顔をこちらへと向け、シャッターの軋み音に負けずと声を張った。


「申し遅れました!私は小鳥遊茜(たかなしあかね)といいます。階級は曹長。司令の命によりお二人の機体を()()に、いや!選びに来ました!」


 その声も嬉しそうな表情も仕草も小さな子供にしか見えなかった。妹がいればこんな感じなのだろうか。よろしくと小さな手と握手をする。意外にもその手の皮は厚く硬い。それが顔に出ていたのだろう、目が合うと彼女はニコリと笑った。


「茜で良いですよ。よろしくお願いします凛ちゃん」

「り、凛ちゃん、ああ、うん、よろしくアカネ」


 初めての呼び方に動揺が全て出ていたのか、皆がそんなリンファを見て笑っていた。恥ずかしくも、なんだか懐かしい想いがしてリンファは不思議な気分だった。


 シャッターが上がり切るのを待っているアカネは、まるでテーマパークの開園を今か今かと待つ子供にしか見えなかった。シャッターが開き切るとアカネが待ってましたとばかりに飛び出していく。呆気にとられながらも、シャッターの奥に目を向けるとそこには子供が喜ぶようなアトラクションではなく、統一感のないTCGが並んでいた。


「ひゃっほーい!」

「ははは、元気だなーほんと。あれでも、凄腕整備士なんだよ。まあ、どっちかと言えばこの基地ではTGCマニア、いや、狂いってことで有名なんだけど」

「ナツメ准尉もあの特務機体を引っ張り出したくらいですし、かなりのマニアなのでは?」

「夏目でいいよ。マーク少尉、階級もサラッと抜かれちゃったし」

「なら、こっちもマークて構わない。まだまだ新米だし、この前のこともあるからな。それでこっちがシュウ リンファ、士官学校からの同期だ」

「私も呼び捨てで。よろしく」

「オッケー、よろしくー」


 やはり二人は知り合いらしい。

 その疑問が顔に出ていたのか、マークは一瞬何かを言い淀んでから、前の基地で出会い話すようになったと教えてくれる。なるほど、前の基地ではマーク達としか基本話さなかったが、それで全く気付かなかったのだろう。マークは優秀で顔も広く、ユーリはとっつきやすい性格で周りともよく馴染んでいた。そう考えると私はかなり孤立していたのだろう。そう言うとナツメは間違いないねと笑っていた。


「それにしても、あの機体は?ナツメは知ってそうだけど?」

「ふふふ、軍が秘蔵してた最新機だったらどうする?」

「そんな、ファンタジーじゃあるまいし」

「確かにどちらかと言えば古そうにも見えるな」


 ナツメの言葉を軽く否定し、機体の方へ目をやる。いつの間にかアカネの部下と思われる整備兵たちが群がる機体達は色やデザインからしても全てに統一性がなく、現行の最新機であるサイクロプスⅢと比べると、マークの言う通り古さすら感じられた。


「そ、れ、はっ!」


 こちらの話しが聞こえていたのか、気が付くとアカネが三人のそばまで来ていた。機体はある程度、見終わったのだろう今度は説明したいようた。


「あれはジメリア軍正式量産TCGの採用コンペに負けた試作機達なんです!そう!負けたのです!皆さんご存知の正式量産機サイクロプスシリーズにです。どれもこれもデータとしては残ってるんですが実物を見るのはこれが初めてで!何しろワンオフの試作機ですからね!どれもこれも面白い設計思想に変態機能のオンパレードで、見た目も良くって!ただやっぱりその分コストが高すぎたりピーキー過ぎたりでちゃんと選考落ちたりと奥深いというか面白いと言うか!」


 最高!と叫ぶ彼女を無視して疑問をぶつける。きっとこれに構っていたら、一生進まないだろう。


「で、試作機がどうしてこんな基地に?」

「いい質問ですね!それは!」

「この基地が元々新兵器の実験施設として使われていたらしいからな、それでじゃないか?」

「言われたっ!でも、マーク少尉!ご明察です!」

「まあ、そのせいで前線基地とは言えないほど古くてボロボロなわけだ」

「それも正解ですねー」


 あのどれかの試作機が私とマークの機体になる。最初期のものというのなら一0年以上前の機体になるだろう。廃都市でのユーラルシアの新型機との戦闘を思い出し身震いする。TCGの戦闘では一世代違えば性能差により相当な不利が生まれるのだ。バニングが言い淀んでいたのを思い出す。マークも同じ事を考えていたのだろう納得したような顔をしていた。


「つまり、司令は代わりの機体があるにしても古すぎる事を気にしていたのか」

「うーん惜しいですね!それもありますが、少し違います」

「と言うと?」


 アカネによると、これらのTCGはジメリアの企業達が作って持ってきたのは良いが、コンペが終わるとそのまま基地に置いていったものらしく、残された機体の所有権利は各企業にある為、勝手に持ち出したり、バラす事も出来ずに地下格納庫に追いやられていたらしい。


「あー、それで、最初に盗るって言ってたって訳ね」

「ナツメさんそれは気にしないで、、、ご、ゴホンッそんなこんなで色んな試作兵器があるんですけど、司令が立ち入りを許可してくれなかったもので。それで、皆さんに感謝っ!って事です」

「私達じゃなくて、外の格納庫をぶっ壊したやつ(ユーラルシア)のせいだと思うけど」

「い、いえいえ、凛ちゃん達のおかげですからー!」

 相変わらず慣れない呼び名だ。あと、良いように言われているが窃盗の理由にされている気がする。

「「班長ー!少しいいですか!」」


「おっ、ではちょっと呼ばれたので行ってきます!」

「ははは、僕も気になるし行ってくるよ」


 足早に機体の方へと走っていくアカネと、ついでとばかりにそれにスキップで着くていくナツメを見送る。間違いなくナツメも変わり者なのだろうが、これから同じ小隊になる事に特別不安は感じなかった。 


「ナツメのことどう思う?」

「んー、個人としても小隊長としても頼もしい限りかな。あとは、自分で言うのもあれだが、アカネも機体も小隊員も変わり者ばかりが集まったなって感じだ」

「それは、そうね」

 きっと自分のことは勘定に入れていないのだろうとマークは少し穏やかな顔になったリンファを見て優しく笑った。リンファはそれに気づかず不思議そうな顔をマークへ向けた。


 そうこうしているうちに、選定が終わったのか黒い機体と赤い機体が地上の整備用の格納庫へと運ぶためのエレベーターへと移動される。ナツメに呼ばれリンファとマークは機体とともにエレベーターへと乗る。


「これが俺たちの専用機体ってわけか」

「ええ、まだ運用までは時間がかかりますが任せて下さい!ナツメさんにも手伝ってもらって徹夜でこなします」

「え、僕も強制?」


 珍しく少しワクワクしているマークの隣で、リンファは自分の髪と同じ色の少し煤けた機体を見あげていた。


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