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ACROS THE AMBER WILL  作者: neun
1章 昇る月が告げるのは
3/14

1-3 失い始まる

お読みいただきありがとう御座います!

因みに[敵セリフ]はマークへは聞こえていません。

『』は『』または「」←そのキャラの視点の時

[]は[]と同じカッコを使っているキャラ同士は聞こえています。

 振り下ろされた大剣が機体の右腕を肩口から切断しそのまま地面を砕く。マークはすぐさまその場から飛び退き、左手で腰に装着されている格闘用のナイフを引き抜き、黒い機体へと構える。マークの額に汗が流れる。


 危なかった。少しでも回避が遅れていればあそこに転がっていたのは右腕どころではなかっただろう。見たことのないTCG。確証はないが間違いなくユーラルシアの新型機だろう。この機体(サイクロプスⅡ)サイクロプスⅡよりも一回りは大きく黒く厚い装甲。かなりの重量を持つであろう大剣を振り回せるとすればそのパワーも尋常ではない。


 黒いTCGがゆっくりと大剣を持ち上げ、肩に担ぐ様に構える。あれにまともに当たればただでは済まないだろう。切っ先のない長方形の分厚い片刃は、断ち切ることを専門とする処刑人の剣のようである。


 [チッ、避けたか。だが、終わりだ。そんなちっぽけな武器ではこのファントムの装甲は破れない]


 黒い機体、ファントムがマークに肉薄する。振り下ろされる大剣を左へと躱すも、追撃するように繰り出された左斜め上への斬り上げが胸部をかすり、装甲を薄暗く削り取る。機体がよろめき、いくつかの機器がその衝撃で損傷したのかコクピット内に警告音が響く。


「ぐっ!!かすっただけでこの威力」

 [逃げてばかりではな!]

「っ!!グッ、、、!」


 なんとか回避し続けていたマークだったが、ついに追い詰め、大剣による突きが直撃し後方へと吹き飛ぶ。機体はすぐ後ろへ迫っていた廃ビルへと突っ込む。瓦礫をつかみ立ち上がろうとするも崩れて、機体が膝をつく。


 無理だ、、勝てない、、このままじゃ死ぬ


 警告音がけたたましく響き、機体はあちこちから火花をとばす。装甲には避けきれずに削られた痛々しい跡が機体のあちこちに付いていた。


 けれど、それでも、そうだと、、、しても!


 マークは歯を食いしばり、ひび割れて随分と見にくくなったモニターに映るファントムをにらみつける。操縦桿を握る手に力を入れゆっくりと動かす。

 機体が軋み、悲鳴のような音を響かせながらゆっくりと立ち上がる。


 今にも壊れそうな目の前のサイクロプスⅡにファントムのパイロットはえも言えぬ不気味さを感じていた。真っ直ぐにこちらに向けられた、その機体名のモチーフとなった赤いカメラアイが時たまバチンと火花を散らしながら赤く揺らめく。


 開戦からなんども戦場で対峙した時代遅れのジメリアのTCG。このユーラルシアの新型の足元にも及ばない。現に今も、、、いや深く考えるのは辞めだ。


 [終わりだ!]


 ファントムが大剣を振り上げ踏み込む。そしてマークは覚悟を決めた。一気にペダルを踏み込み、とどめを刺そうと肉迫する機体から逃げるのではなく、まっすぐに突っ込んだ。


 [なに!?]

「こんな所で、死んでたまるかぁああ!」


 機体がぶつかりあい、凄まじい衝撃がマークを襲う。腹から熱いものが上がってくる。しかし、今のマークにそんなものは関係ない。


「行けぇええええ!」


 大剣を振り上げたファントムがマークに押し倒される様にバランスを崩し背中から倒れ込む。マークはそのまま間髪入れずに、熱を帯び赤色したナイフをその頭部へと振り下ろした。


 [視界が!?クソッ!]

「これで!終わりだぁあ!!」


 マークはもう一本のナイフを腰から引き抜き、その刃をファントムの胸部へと突き立て押し込む。黒い装甲が火花を散らし刃とともに赤色していく。


 [やめろぉ!やめっ!ぐぁああ!、、、、]


 抵抗するように腕をマークへと伸ばすファントムだったが、じわじわとめり込んでゆくナイフの刃が全て収まると、そのままピクリとも動かなくなった。

 マークの全身からどっと汗が湧き出し、力なく開いた口からは呼吸とともに赤い血が垂れる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、ゴホッ、ゴホゴホッ、、、」


 死ぬかと、ここで終わってしまうかと思った。

 手の震えをごまかすように手を握る。まだ、目眩と吐き気が止まらない。けれど、こんな所で、いつまでも余韻に浸り、油を売ってるわけにはいかない。この廃都市に潜んでる機体がこの一機だけな訳が無い。


  ユーラルシアの新型TCGと二人が対峙する場面が脳裏に浮かぶ。あの二人では勝てない、、、

 満身創痍の機体がゆっくりと立ち上がり歩き出す。


「無事で、いてくれ、、、」



 □■□



 多脚戦車を追っていたリンファは廃ビルと瓦礫が密集した迷路のような見通しの悪い地区を慎重に進んでいた。見失った。遠くに聞こえていた走行音ももう聞こえない。


 すばしっこく逃げ回り、現れては砲撃してくる多脚戦車にリンファは手を焼いていたが、追いかけている間に少しずつ命中させられるようになっていた。しかし、どれも致命傷とはならず、その最中も苛立ちは増すばかりだった。


 夜明けが近いのか、空の端が明るい。少し前から発生し始めた霧のせいで視界が悪い。どんどんと濃くなっていく霧の中を進むリンファの頭に嫌な予感が過った。


 何かがおかしい。不意に残してきた二人の事を思い出し、一気に鳥肌が立つ。かなり時間が経ったが、追いついては来ない。間違いない分断され誘い込まれたのだ。


 リンファは初めてそれに気が付き、血の気が引いた。不味い。再び遠くで聞こえた多脚戦車の走行音に身体が強張る。

 戻らないと。足を止め周囲を観察するも、走行音に誘われ進んできたリンファには戻る道さえわからない。鼓動が速くなる。


「はぁ、はぁ、大丈夫、落ち着け。大丈夫、二人は無事だ。(ユーラルシア)を倒して合流する、大丈夫大丈夫」


 浅くなった呼吸を整え、ゆっくりと機体を進める。

 そして、十字路へと踏み込んだ瞬間、視界の左、その角に黒いTCGがこちらに銃口を向けているのが見えた。目が見開かれ、リンファの顔が恐怖に歪む。


「しまっ!」


 ズドドドドドドド


 こちらを向いた銃口が火を吹き、装甲などなかったかのように、呆気なくリンファの機体に穴があいていく。頭部が弾け飛び、胸部を庇った左腕を貫通した弾丸がそのままコクピットへ穴を開ける。


 モニターが割れ、飛び散ったガラスがその衝撃とともにリンファへと襲いかかる。反射的に敵機へと向けたマシンガンもその引き金が引かれることはなく被弾し爆ぜ右腕とともに脱落した。


 絶えず続く銃声と、弾丸が装甲を叩き突き破る音が頭に響く。ズボンにじんわりと生暖かいものが広がる。リンファは死の恐怖に飲まれ身体は強張り声も出せなかった。


 死ぬ、死ぬ、死ぬ、、、死ぬ!死にたく、、ない!


 銃声が止み、無残な姿へと変わった機体が力なく崩れ落ちていく。機体とともに横倒しになったコクピットの中、その衝撃でリンファは頭を強打した。頭からは血が流れ始め、身体から力が抜け視界は狭く警告音が遠くなっていく。引火したのか機体が火をまとい始め、コクピットにその熱が伝わる。

 涙が頬を伝う。


 死ぬ、ここで、、、

 なんで、、なんで、、、



『…リンファ!…リンファ!クソッ!よくも、よくもぉお!!!!』


 その時、頭の近くに転がるヘッドセットからユーリの声が聞こえた。いつもの優しく気さくな声ではない。怒りを含んだその声はリンファの耳によく響き、そして叫び声と雑音とともに聞こえなくなった。


 何かが倒れたような大きな音と衝撃が伝わる。

 リンファは身体を引きずり、火傷を追いながらもコクピットから這い出た。


「ユー、、、リ、、、」


 そして、胸部を横薙ぎに両断された頭部のないサイクロプスⅡが二機の黒いTCGの足元に転がっているのが見えた。ゆっくりと膝をつく。ガラスの刺さった太ももから血が噴き出す。もはや痛みは感じなかった。

 大剣を担いだ黒い機体がこちらを一瞥し、何かを探すようにもう一機を伴い去っていった。


 あ、あぁ、、あああ、、、


 涙が止まらない、また、まただ。あの頃と何も変わらない。また奪われた、奴らはまた私から奪っていく。何も、何も出来ない、私は、、私はいつも無力だ、、、


 意識が遠のいていく。

 バタリと倒れる音がした。



 □□■



 仲間を探し廃都市を彷徨う隻腕のサイクロプスⅡはすでに満身創痍だった。まともに戦闘出来る状態ではない。戦闘システムには不具合が出ており、残った左手で回収したマシンガンを構えてはいるが、正直なところ歩くことで精一杯だった。


 相変わらず鳴り止まない警告音にマークの神経が逆立つ。二人は無事だろうか。不安だけが募る。暫くしてマークはビルの間に撃破されたサイクロプスⅡの発見した。心臓がドクンと跳ねる。祈るような気持ちでゆっくりと近づく。


「、、、違う、違う、二人の機体じゃない」


 機体の装甲は穴だらけで焦げが目立つが、かろうじて見えた部隊章はたしか自分たちより前に出撃した別の班のものだった。俺たちが到着する前に前任の班は既に襲撃されていたのだろう。周囲に他の機体は見当たらず、更に先であの大剣で両断されたであろうサイクロプスⅡが見つかった。先ほどと同じ、ワタリガラスの部隊章が描かれていた。


 この調子なら残り一機も同じように撃破されているのだろう。機動力のある多脚戦車を使い分断し、あの新型機で奇襲をかける。油断しきった新兵達はそれにまんまとハマったのだ。リンファをあの時止められていれば何か変わっていただろうか。


 基地のある東へと進むと、機体の周りに薄く霧が立ち込め始めた。視界に増えてきたビル群を横目に更に進んでいると、少し先に薄く立ち昇る煙を見つける。今度こそ二人ではないかと不安が過る。


 レーダーは相変わらず使えず、紙製の地図を広げ現在地を確認する。担当していた哨戒ルートからは南に大きくそれており、二人がここまで進んできたとは思えない。


 心を落ち着かせ慎重に進むとそこには撃破された多脚戦車が転がっていた。自分じゃない誰かが撃破した。マークは微かに希望を感じた。さらに進むと霧が濃くなっていく。横倒しになった高層ビルが道を塞ぎ、あちこちに瓦礫が散らばり、まるで()()のような地区だった。


 そして、攻撃を受けたのか途中でポッキリと折れて崩れた廃ビルの手前を通り過ぎようとしていた時だった。嫌な予感がマークの身体を駆け巡る。


 マークは危機を何度も救ったその感覚に従い、機体の状況を忘れ思い切りペダルを踏み込み後方へと飛び退く、その瞬間、低い銃撃音とともに弾丸の嵐がその場を通過した。


 マークは着地の寸前で左から迫る黒い機体に気がついた。その手にはあの大剣が握られている。


「挟撃だと!クソッ!」


 そして、機体が着地した瞬間、何かがへし折れる嫌な音がして、左脚部関節が爆ぜ機体のバランスが崩れた。勢いを殺すように後方へ滑りながら、そのまま地面についた左膝から火花が飛ぶ。左手に持ったマシンガンを捨て、手をつきなんとか横転する事を防ぐも、機体はもう限界だった。あちこちが、自壊し始める。


 もはや握る手も壊れてしまったが、なけなしの武器も今放り捨ててしまった。ファントムが大剣を振り上げるのが異常にゆっくりと見えた。


「いや、まだだ、まだやられはっ!しないっ!」


 振り下ろされる大剣を、そのまま強引に横に転がり回避する。同時にビルの陰に入りもう一機の射線からも外れる。しかし、そこまでだった。

 操縦桿もペダルもスイッチも何もかも動かない。モニターが消え、あれだけうるさかった警告音も聞こえない。コクピットは真っ暗になった。


 [よく避けた。だが、ここまでだな]


 その姿をみてファントムがゆっくりと近づいてくる。


「ああ、、、おわった、、、か」


 必死に操縦桿を動かすも、機体は仰向けのまま立ち上がることも出来ない。せめてもと、足元のレバーを勢い良く引くと、コクピットのハッチが弾け飛び外が見えた。

 ゆっくりと近づいてくる、大剣を振り上げたファントムに既視感を感じたが、マークに出来ることはもうなかった。脱出すらももう間に合わないだろう。

 マークは息を吐き出し身体の力を抜いた。

 終わったのだと。


 しかし、大剣が振り下ろされることはなかった。

 何かを叩く大きな音とともにファントムの胸部にぽっかりと穴が空き、鋭く尖った鉄の杭が現れた。


『奇襲はお前らの専売特許じゃないんだよ』


 崩れ落ちるファントムの頭部のセンサーの光が消える。振り上げたまま手から抜けおち、後方へと落ちた大剣を躱すように現れた機体は、見慣れた一つ目のTCGだった。

 こんなにもこの不気味な顔に安心した日はないだろう。


「サイクロプスⅡ後期型特務作戦機、、、」


 サイクロプスⅡ後期型をベースに、追加装甲と強化ブースターを搭載した特別機であり、右腕部に装着するように装備された巨大なパイルバンカーは、都市防衛戦であのギガフロントを撃破するために作られたものであった。そんな物を撃ち込まれたTCGの末路は今目の前で見た通りである。


 つい数カ月前までは格納庫の肥やしになっていたこの機体を引っ張り出してきた人物にマークは心当たりがあった。ナツメ准尉、交流こそ無いがTCGマニアの変わり者として同じ基地に所属するTCG部隊で知らないものはいない。


『無事かい?よくまあこんな状態まで戦ったもんだ』

「ええ、なんとか」


 コクピットからフラフラと外へ出る。

 特務機体の肩にはあのワタリガラスの部隊章が見えた。先ほどの二機と同じ班だったのだろう。


『さてさて、悠長に喋ってばかりもいられないからね』


 二人が隠れた廃ビルの裏には、最初に射撃を行った機体がまだいるはずだ。しかし、マークの機体は大破し特務機体に中遠距離用の兵器は無い。遠くに転がるマークが手放したマシンガンが目に入る。あれなら少しは戦えるかもしれない。


「あのマシンガンを使って下さい、その武器じゃ近づく前にやられます」

『いや、あんな豆鉄砲じゃ、撃ち合っても結局だ』

「それは、、、何か案が?」

『同じく串刺し』


 特別機体が右腕部のパイルバンカーをこちらへチラリとみせ、少し離れると軽く膝を曲げる。


「そのまま行っても狙い撃たれます!その機体の装甲だって正面からじゃ保たない!」

『まあ見てなって、あ、位置的には見れないか、失敬失敬』


 突如吸気音が大きくなり、特務機体の各部ブースターが一気に火を吹く。なっ、飛び越えるつもりか!

 轟音とともに上空へと飛び上がった機体が、敵機を隔てていた廃ビルを飛び越える。そして、ファントムを見つけたのか、特務機体がパイルバンカーを構え更にブースターを点火し落下していく。いくらなんでも無謀すぎる。


 ファントムが一直線に向かってくる機体を落とそうとしているのだろう、銃声とともに弾丸が空へと巻かれる。遂にマークからは特務機体が見えなり、そして地面へと衝突したのか大きな音とあの必殺の衝撃音が響いた。


『まーざっと、こんなもんよ、見えてないだろうけどさ』


 そして、気の抜けた男の声がマークのヘッドセットから聞こえた。マークはホッとしてその場に座り込んだ。おもむろに見上げた空はもう明るくなっていた。


 暫くして、戻ってきた特務機体は想像以上にボロボロで、コクピットから手を振る黒い髪の男は得意げに笑っていた。




あれ、マークのほうがなんだか「主人公」してないか

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